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01◆ 俺の誕生秘話

 突然だが聞いてくれ。

 この世界では救世主っていうのは輪番制だ。


 ()()()は何回も何回もこの世界に生まれ落ちている。

 その度に俺たちの中の誰かが必ず救世主として生まれついてしまう訳だけど、死なば諸共、みんなして魔王討伐に挑んではその度に全員揃って惨殺されている。


 何回挑んでも同じ数だけ殺される、何これ地獄。


 でも救世主ってことがバレれば、世間様は「魔王討伐行って来い」だ。もうそろそろ嫌だ。何回繰り返したかもう覚えてねえよ。



 生まれたなってことが分かるその度に、今度の救世主が俺じゃありませんようにって祈りを捧げるのはもはや習慣。



 ――で、だ。


 今回はなんだか様子が違う。


 おぎゃあと生まれた瞬間から、なんか様子が違うのを気配で感じる。


「お生まれになりました。男の子ですね」


 近くで女の人の声が聞こえる。


 男の子、まあそうでしょうね、俺たちはもう人生何回目かも覚えてないけど、性別が変わったことねえもん。ついでにみんな顔も名前も毎回同じだ。

 みんなそろそろ生まれてるかな。


 生まれたての俺は、ギャン泣きしながら内心では冷静にそんなことを考えつつ、いつもとはなんか違うなーって呑気に思っていた。

 だってこんな丁寧な声が掛けられている。


 なんか俺、今回は高貴な生まれっぽい?


 目が開いてくれば、違和感はいや増すばかり。


 あれ、ほんとに高貴な生まれっぽいな?

 前回からどれだけの時間が経過しての転生かよく分からないが、すっげぇ豪華な産屋だぞ。

 一面真っ白な絹だぞ。


 俺の母親らしき人は労いの言葉を受けながらぐったりしている。

 このまま抱っこの流れかな? と思っていたら、なんと俺はあれよあれよという間にその部屋から運び出されようとしていた。


 え、待って、産湯浴びたばっかりなんだけど、俺。


 きょとーんとしながら続き部屋へ。

 そこでは男子禁制の産屋への立ち入りを禁じられていたらしい男衆がずらっと並んで座っていた。

 いや、誰かは心配そうにうろうろしてていいと思うんですけど。なんでみんな彫像のように座ってんのさ。


 状況が分からない俺を抱えた女の人が、「お世継ぎです!」と声を上げた。

 途端に漏れる複数の安堵の溜息。

 男児か、と確かめるように呟く声があちらこちらで上がる。


 ほう、時代はそんなに流れてないのか?

 男子が跡取りになる文化は変わってないんだな。


 ――って、え? 世継ぎ?

 俺、どっかの王子様になっちゃったの?


 俺の頭の中では、ついさっきまで魔王と激闘を繰り広げていたようなもんだ。

 それでも早速懐かしさまで覚えて想起されるのは、俺以外の()()の顔。走馬灯のように頭の中を駆け巡る。


 ――え、嫌なんですけど。

 俺だけが高貴な生まれとか絶対やめてくれよ。

 あいつらに会えなくなっちまうじゃん。


「あれも役目を果たしたか……」


 安堵混じりにそう言ったがっしりした男が、多分今回の俺の父親だろう。

 おい親父、大事な奥さんをあれ呼ばわりするなよ。


 父親(推定)に向かって、あちこちから祝福の言葉が寄せられ始める。

 待って待って、みんな一番の功労者忘れてる。向こうでぐったりしてる俺の母親を労えよな。


 ――そんな不満を抱えていたのも、俺が当分の間置いておかれるらしい部屋に向かうため、男衆がずらりと並んだ部屋を出されるまでだった。


 石造りの堅牢な廊下。

 敷き詰められた緋色の絨毯。

 天井から等間隔に下がるシャンデリア。



 ――見覚えあるな……?



 俺の表情筋が発達してたら、多分俺は顔を強張らせていたと思う。


 なんかすごい既視感。

 ここって、何回も何回も乗り込んで来てはその度に死地になった場所にすっごい似てない? っていうか体感ではさっき通ったような……。


 いや、似たような建物はいっぱいあるだろうさ。

 でも通ってきた回数が半端じゃないというか……だからこう、雰囲気を感じ取ってしまうというか……。



 ――待て待て待て、気のせい。有り得ない。大丈夫。

 これまで一回もそんなことなかったじゃないか……。



 必死に自分に言い聞かせる俺は、生まれたばっかりにも関わらず容赦なく移動させられている。


 普通母親の傍の揺り籠とかですやすや眠れるもんじゃないの。

 なんでこんな普通に移動させられてんの。

 しかもその途中、ぼっかんと陥没した壁を発見してしまった。



 ――うぉい、マジか。

 あれ、体感ではさっき、コリウスの奴がやったやつじゃないか。



 もう嫌な予感は確信レベル。

 俺はえぐえぐと泣き出した。


 それをどう受け取ったのか、俺を抱えて移動させている女の人は低い声で呟いた。


「あれは百と数十年前、忌々しい侵入者どもがこの城にまで辿り着き狼藉を働いた証……」


 知ってるよ、だって俺その侵入者の中の一人だったもん。

 てか百年経ってんのね。百年、あの壁直さなかったのね。

 悔恨のモニュメントみたいな立ち位置なのかな。


「次もいつ、性懲りもなく奴らが乗り込んでくるか分かりませぬ。

 ――それまでに、強く、ご成長召されませ」


 ぎゅっと抱き締められて、俺はもうギャン泣き数秒前。


 これって、こんなのって、ひどすぎる。


 女の人が微笑んだのか、霞む視界にぼんやり映った。


「――あなたさまは魔王の位を継承されるお方なのですから」



 その瞬間、俺は気絶した。






 ――輪番制で救世主を担当してきたのに、今回の俺は魔王らしい。


 あんまりだ。














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