33万分の1の確率
流行りの異世界物語、始まります。
―――0.000003%
これがなんの数字か分かるだろうか?
答えは日本で他人に殺される確率だ。とは言え実際にはもう少し違うかもしれないけど、そこは許して欲しい。
なぜ突然こんな事を言い出すのか疑問に思った人も多いだろう。
それは実に簡単で、現在進行形で俺……松田相馬に起こっている事態だからだ。
深夜にふとカップ麺が食べたくなり、近くのコンビニまで買いに行く。ここまではよくある事だと思う。
ところが、今日は味噌の気分かな、などと考え自動扉をくぐった先に待っていたのは刃物を手にした覆面の男(推定)と薄汚れたボストンバッグにレジの現金を必死に詰めている従業員の姿だった。
「てめぇ……見たな……」
覆面の奥から聞こえた声は低いダミ声。
推定では無く確定の男だ。いや、そうではなく。
不味い、どう考えても不味い。見ていないと言っても見逃してはくれないだろう。
その手でギラリと光る大振りなナイフが矛先を変えこちらに向けられる。ぜひとも今すぐに止めて頂きたい。怖いから。
「こうなっちまったら仕方ねぇ……恨むなら自分の運の無さを恨むんだな」
どう仕方ないのかは全く理解も同意も出来ないが、男の中ではそう決まったらしく、真っ直ぐにこちらに向かって駆けてくる。
―――さて、こんな時ではあるが少し自己紹介をしよう。俺の名前は松田相馬。それはさっきも言ったか。
普通の家庭に生まれ、普通の暮らしをして今年から一人暮らしを始め、来月からはごく普通の大学に通う18歳だ。で、何が言いたいかと言うと。
そんな一般人の相馬に、向かい来る凶刃を防ぐ術など持ち合わせてはいなかったという事だ。
ずぶり、と自分の体内に異物が入り込む感覚。
思っていたより痛みは無かった。代わりに胸の辺りに灼熱を感じる。
それも少しの間で、指先から徐々に温度と感覚が奪われていく。
視界がぼんやりとし始め、そこでようやく。
(ああ、死ぬってこういう感じなのか)
それを最期に、本田相馬の18年に及ぶ生涯は幕を閉じた。