消えたい
君は消えたいって笑った。
私は顔を歪ませて、精一杯に笑った。
「そっか……」
視界が滲む。背を向けて、気づかれないように袖で目を擦る。
「そっか……」
もう一度呟いて、ゆっくりと振り返る。そして
「……この世界からあなたが消えたなら、私はどう思い、世界はどう変わるのだろうか?」
ただ、小声で心の内を吐露することにした。
「きっと、私は悲しむ。ひどく悲しむ。そして取り残される。この時間の流れに」
君はなにも言わないで、ただつらそうに笑っていた。
「でも世界は、きっとなにひとつ変わらない。君ひとりの存在に、決して歩みは止めやしない」
君はわかっているよとばかりに口を歪ませる。泣きそうな顔をしていた。
「……世界から君が消えたなら、世界は君を最初からいなかったものとして扱うだろう。そして私はそんな社会から取り残され、時間の流れから外れ、君のいる過去へと身体を縛りつけるだろう」
左頬に、なにかの滴る感触。
「……それでも、いくんだね?」
君は泣いた。両頬を涙で煌めかせながら、それでもただ……。
私は君に背を向けて、歩きだした。君が首をどちらに振ったかは、わからない。
「……止めるなんて最悪だ…………」
右の頬からも、涙が滴り落ちた。
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