堂々C++これからだ!60歳でも入れます終身。
キーッ!という急ブレーキで目が覚めた。
何かを見ていたはずなのだけど、思い出せない。
顔を上げると、漆黒の中に古びた電灯と黒い外套を着た男が独り映るだけだ。
しばらくするとアナウンスがあり、
踏切で立往生していた車があったとのこと。
それは危ないなと思ったはずだが、やはり他人事だった。
考え事をしながら気が付くと、もう既に家の玄関の前で、
鍵を開けると、中は真っ暗だった。
キッチンで水道の蛇口から水を汲んで少し飲んだ。
家の裏の工場のほうから、時折、カリンカリンと音が聞こえる。
いつものことではあるが、ちょっと話したいことがあり、様子を見に行った。
「オヤジ・・・」
「なんだ、ジャワ、帰ってたのか。」
「この工場、いつまでやるの?」
「おれはな、おれの名前をかけて、この工場をやってるんだよ。
そうそうやめるかってーの。この工場が無くなるのはおれが死ぬ時だ。」
戸口で有限会社シープラの看板が鈍く光っていた。
「オヤジ、もうデリートとかやめなよ。これが最強最速なんだよ!とか
いつも言ってるけどさ、結局、メモリーリークがとか、
肝心な所で、そういうのばっかじゃん。
そんなことにエネルギー使うんだったら、その分、最速のマシン買って
今風のコード動かしたほうが、結局、安上がりじゃないの?」
「お前、いつからそんなクチ聞くようになったんだ。
シャープを見てみろ。あいつこそはおれの本当の息子だ。
ちゃんとおれの技を受け継いでネイティブブロックでは、
ちゃんとデリートもできる。」
「いや、でも、実際、今はやってないでしょ。できるってだけで。
オヤジみたいな昔かたぎの人が大勢居たから、引継ぎとかしやすいように
とりあえずはそんなことも覚えたってだけでさ。」
「じゃあ、何か?お前は、おれがデリートをやめて、
STLとかでも使えばいいって、そう言いてぇのか?」
「まぁ、そうだね。オヤジがなるべく今のスタイルで仕事続けたいんだったら、
そうなるね。」
「バカ言え。あんなしちめんどくせぇもん、使えるかってーの。
どんだけ長いコード書かせんだよ。」
「イヤだったら、オヤジお得意のプリプロセッサマクロで
shared_ptr<T>をT$って定義したら、結構短く書けるじゃん。
オヤジの仕事仲間の人はそうやってたよ。」
「おい、マジかよ。おめぇ、銀行で働いてるだけかと思ったら、
そんなこと覚えてたのか。しっかし、$は思い付かなかったな。」
「最近、趣味の、アンドロイードってチームでスノボとかやってて、
やっぱ、そこで、NDKがどうのって話も出てきて、その流れだな。
まぁ、でも、おれとしちゃ、それでも、まだまだ面倒くさい気がするから、
オヤジには引退してもらったほうがいいと思ってるけどね。」
「じゃあ、おれは、工場も畳んじまって、昼寝でもして、あとは死ぬのを待ってろと。
おめぇはそう言いてぇのか?」
「先月、高専ロボコンでうちの近くのRust高専のチームが地区大会優勝したらしいじゃん。
それの本戦の観戦チケットまだ手に入るらしいじゃん。気分転換にそういうのでも
見に行ってみたら?暇だったら、顧問を募集してるらしいから、
何か話しに行ったら、色々聞いてもらえるんじゃないの?」
「そうか。まぁ、本戦では、Go高専との勝負らしいしな。
あの条件じゃ、Rust高専の勝ちだろうが、確実に勝つには、
おれの助言とかもあったほうがいいのかもしれんな。」
「他にも、その、例のNDKプロジェクトとか、
パイテョン大とかでも、講師募集してるらしいからさ。
パイテョン大は最近、AIの開発とかやってて、
チューニングとかで、シープラの特許で欲しいものとか
部分部分あるみたいよ?」
「おお、そうなのか。やはり、おれもまだまだ捨てたもんじゃないな。」