表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のトイレで大をする。  作者: ルーツ/鮫島まぐろ
5/10

異世界の大空で大をする。

『異世界のトイレで大をする。』

第五話






「ヌラエル、大丈夫か。疲れてないか?」


「大丈夫……」


 その日、ヌラエルは大量の魔力を使い。非常に疲弊していた。その時『大丈夫』とは言ったもののヌラエルの頭の中は白いもやがかかったようになっており、意識ははっきりしておらず足元もふらついていた。


「あっ……」


 その時、ヌラエルがバランスを崩した。ギギーが急いで手を伸ばしたが、間に合わなかった。ヌラエルはそのまま崖から転げ落ち、真っ逆さまに落ちて行った。


 ◇


 崖の下でヌラエルを発見した時には、もう既にヌラエルは仰向けに倒れたまま全く動いていなかった。ギギーがヌラエルの呼吸を確かめる。しかし、無情にも呼吸音は全くしなかった。


「だめだ……呼吸をしていない……」


 ヨータローはそのギギーの言葉に、茫然とその場に立ち尽くすしかなかった。ギギーは諦めないと言わんばかりに、ヌラエルの胸に耳を強く押しあてた。目を閉じ、どんな些細な音も聞き逃さまいと全神経を聴力に集中した。


「心臓は……」


 ヨータローが心配そうに声をかける。しかし、ギギーはヌラエルの胸から耳を離すと、うな垂れてそのまま首を横に振った。


「心臓も……動いていない……」


ギギーから発された声は、力はなくとても小さな声だった。身近な所で起こらないだけで、死というものは突然訪れる。そして、その命は寿命というものを迎える前に事故で失われてしまうこともある。これは、夢でも幻でもない。そんな夢でも幻でもない現実で、ヌラエルは死んだのだ。


 ◇


 ヌラエルの死体はヨータローが担いでいた。ヌラエルはとても軽かった。ヨータローはヌラエルがこんなにも軽いものかと驚いていた。今まで様々な場面でパーティを助けてきてくれたヌラエル。しかし、実際の重さときたら、まるで子どものようだった。


「こんな小さな体で今まで頑張っていたんだなぁ……」


「ヌラエル……」


 ギギーはその目に涙をたたえていた。あっけない。あまりにもあっけなさすぎる。しかし、こうして死んでしまったことは事実であり、時間も巻き戻ることはない。


「ギギー、まだ……諦めちゃいけないよ」


「どうしようもないだろ! 死んじゃったんだぞ!!」


 ギギーがヨータローに掴みかかったが、ヨータローは落ち着いて遠くに見える山を指さした。そして、その山のてっぺんには天高くそびえる一本の巨大な木がこちらを見下ろしていた。


「街のギルドで聞いたんだ。あそこに見える“ランゴスの大樹”あそこにさえ行けば――」


 “ランゴスの大樹”。ギギーはその名に聞き覚えがあった。


「もしかして、奇跡の葉……“ランゴスの葉”……?」


「そう、“ランゴスの葉”には人を生き返らせる不思議な力があるらしいんだ」


 ギギーは以前、その噂を聞いたことがあった。人を生き返らせる力のある葉っぱをつける大樹があるというという噂を。しかし、それは話半分で聞いていたので、今までその記憶はヨータローから聞かされるまで引き出されることなく、頭の片隅のそのまた彼方の方へ追いやられていたのであった。


 ――もしかしたら、ヌラエルが生き返るかもしれない。


「……行くか!」


 今はなんでもいいから、すがれるものにすがりたかった。こうして二人はヌラエルを助けるために“ランゴスの大樹”の元へ向かうことを決めたのであった。


 ◆◆◆


「ちゃんとつかまってろよ!」


「うわっ!!」


 ギギーの声と共に、それは大空へと飛び出した。太陽に向かって勢いよく飛び立ったと思ったら、鋭い風圧が頬を穿った。“ランゴスの大樹”のある山は少し特殊で、周りが地殻変動で隆起した壁に囲まれていた。そのため、徒歩で行くということができないのであった。


 ◇


 既にそれが空を飛び出してから三十分が経過していた。地上五千メートルの地点を悠々と飛んでいるそれは、身体を水平にして安定していた。下を見るとその高さが異常であることがわかる。全てのものが小さく、頼りなく見えた。ヨータローは恐怖心が出てくるので、あまり下を見ないことにした。


「ほとんど、こいつをレンタルするのに全財産を使っちゃったね」


 ヨータローが自分の前でそいつの操縦の手綱を握るギギーの腰をしっかりと掴みながら言った。


「仕方ないだろう、ヌラエルの命には代えられない」


 “ランゴスの大樹”に行くために二人は街で幻獣グリフォンをレンタルしていた。そのグリフォンの翼開長は十メートル以上に及び、生き物でありながらヨータローとギギーが二人で乗っても全く窮屈しない異世界における巨大な生ける飛行機であった。レンタルをする時に『こいつは、嵐の中でも真っすぐブレずに飛ぶことができるよ』と言われたが実際に乗ってみるとよくわかった。このグリフォンの巨大な身体全身がしなやかな筋肉でできており、特に羽周りの筋肉量は凄まじく触れたら、岩のように固かった。


「ギギー、突然だけど。ちょっと疑問があるんだ」


「なんだ?」


 ギギーは手綱をしっかりと握りながら後ろを振り返り、わざわざヨータローに目を合わせて言った。


「ここで大小がしたかったらどうするんだろう……ギギーはどう思う?」


「我慢しろ!!」


 そう叫ぶとギギーは直ぐに前を向いた。上空での大。もちろん、グリフォンは元の世界にあった飛行機ではないのでトイレなどは存在しない。ヨータローは真面目に考えていた。


 ――やっぱり、垂れ流しかな。戦前の飛行機とかも大変だったみたいだ。初めて大西洋横断飛行を成し遂げたリンドバーグも垂れ流しだったし女流飛行士のエミー・ジョンソンという女性が来日した時もズボンがビチョビチョだったという手記も残っている。


「あ!!!」


「どうした、急に大声を出して……」


 ギギーがその大声に反応して再び振り返ると、ヨータローは後方を見ているようであった。


「グリフォンが飛びながら大をしてる!!」


「いいよ、見なくて!!!」


 それでも、ヨータローの興奮は止まらなかった。


「鳥と一緒で飛びながらするんだ! 体を軽くするためだ! 鳥のフンは総排出腔っていうところから尿と便が混ざった状態で排出されるんだよ!!」


「知らないけど!」


 人は基本的にトイレという場所で用を足す。動物でも家で飼っているペットであればトイレがありそこに場所が限定される。ただ、グリフォンはどうだろうか。この上空五千メートルで、威風堂々と大をしている。


 ――きっと、グリフォンにとっては……この大空すべてがトイレなんだろう……!!


 ヨータローは大空で大をするということがどういうことか想像してみた。以前、砂漠で大をしていた時の解放感を思い出していたがこの大空の前では負けるな、と思いしみじみしていた。


「おい、よくわからない表情をしていないで前を見ろ! そろそろ着くみたいだぞ!!」


 既に目的の“ランゴスの大樹”は直ぐそこまで迫っていた。



 ◆◆◆


「これが“ランゴスの大樹”か……こんな山の上なのによく育ったね」


 山の上というものは木が育つ環境ではないため、生えたとしても背の低い木しか存在しない。しかし、その“ランゴスの大樹”は標高が高い山の上にも生えているのにも関わらず、その木が生きるには難しいであろう地に強大な生命力の根をはっていた。“ランゴスの大樹”は特にその高さが規格外であり、上を向けば吸い込まれそうな青空の下、どこまでも伸びる樹木の枝葉が快晴の空を背景にゆらゆらと微かに揺れていた。


「しかし、肝心の葉っぱはかなり上の方にあるな」

 ギギーがおでこに手で日よけを作って言う。

「グリフォンに乗って上まで行くか……?」


「いや、その必要はないみたいだよ」


 ヨータローは頭上から、ひらひらと一枚の葉っぱが落ちてきたのを確認していた。そう、その葉っぱこそがヨータロー達が探し求めていた“ランゴスの葉”であった。落ちてきた葉をヨータローが掴んだ。


「これが、“ランゴスの葉”か……なんて柔らかくて、温かい手触りなんだ」


 “ランゴスの葉”はとても大きく、顔が全て覆えるほどだった。その葉をギギーも少し触ると、確かにそれは温もりがあった。太陽の温もりだけでは説明がつかない、その葉が生きていることのなによりの証明である生命力であった。


「命の躍動を感じるな」


「でも、これで人が生き返るって凄いなぁ……」


「ああ、“ランゴスの葉”はその葉自体に生命エネルギーを活発にする力があるというからな……あぁ、ほら、今も……」


 ギギーが“ランゴスの葉”を持っているヨータローの手を指さした。ヨータローはなんのことだろうと思い自分の手を見ると、手の甲の毛が伸びていた。


「うわっ! これは……確かに凄い効果だ……!」


「これなら、期待ができるな!」


 ヨータローはこのまま手の甲の毛が伸び続けると困ると思い、小さく折りたたむとカバンへと仕舞った。


「そういえば、この葉っぱってフキに似ているなぁ」


「フキ?」


 ギギーが聞きなれない言葉に反応しヨータローに尋ねた。


「うん、フキって植物は文字通り「拭き」に使われたからそう呼ばれていたんだ」


 「拭き」に使われていた……、とギギーは考えた。「拭き」と言ったらヨータローの場合一つしかない。嫌な予感がしたのでギギーは先に釘を打った。


「まさか、それで尻を拭こうとか考えてないだろうな……」


「か、考えてないよ!」


「どうだか……」


「まぁ、確かに……もう一枚あれば拭く専用で使えるんだけどなぁ」


(やっぱり、考えていたなコイツ……)


「うーん、当たりが出たらもう一枚とかってないのかな」


「何を言っているんだ……。じゃあ、もう帰るぞ――」


 そう言って、ギギーが“ランゴスの木”に背を向けてグリフォンの元へ歩き出そうとした時だった。ギギーの踏み出した右足が落ちていた小石に足をとられてしまい、そのまま身体が後ろへ投げ出された。そして、そのままあろうことか“ランゴスの木”に頭を思いっきりぶつけてしまったのだ。


「ギギー!!」


 ヨータローがギギーに駆け寄った。急いで、頭を起こして何度も声をかけたが、全く返答がない。まさか、と思いギギーの口元に耳を近づけるが呼吸が聞こえなかった。これは大変だ、と思いどうしようか悩んでいる時、ヨータローは自分の頭上に気配を感じたのであった。


 ◆◆◆


 “ランゴスの葉”の使い方はその葉の中央にある「核」と呼ばれる手の平サイズの物質をすり潰してから死んだ人に飲ませることである。ヨータローはこのことをグリフォンの返却時にその持ち主から教えてもらった。そして、街の宿屋にギギーを担いだヨータローは『死ぬほど疲れている』と宿屋の主人に嘘をついてずっと寝かせているヌラエルが居る部屋に戻ると“ランゴスの葉”をすり潰したものを、二人に与えたのであった。


「起きた?」


 ギギーが目覚めると、既にヌラエルも生き返っていた。そして、『起きた?』の声がヌラエルのものであると知るとギギーはその嬉しさからヌラエルに抱き着いた。


「ヌラエル~!! よかった!! 生き返ったんだな!?」


「そっちこそ」


「え? そっちこそ……?」


「ギギーも死んでいたんだよ。あの“ランゴスの大樹”に頭をぶつけてね」


 ヨータローがやれやれ、と言わんばかりに手を広げて言う。


「そうだったのか……それは、世話をかけたな。……あれ、でも“ランゴスの葉”は一枚しかなかったはずじゃ……」


「ギギーが頭をぶつけた後、その衝撃で“ランゴスの葉”がもう一枚落ちてきたんだよ。木を蹴飛ばしてクワガタをとる要領だね!」


「クワガタというのはよくわからないが、そうだったのか……それはラッキーだったな!」


「本当にね、これで一件落着だね!」


 ヨータローがそう言って椅子から立ち上がりギギー達に背を向けて伸びをした。その時、ギギーはヨータローのお尻の変化を見た。


「なぁ、つかぬことを聞くけど……拭いただろ」


「えっ!?」

 急いでギギーの方を向き直るヨータロー。

「そ、そんなことするわけないでしょ!?」


「じゃあ、なんで……お尻の毛がボーボーなのさ!!」


 ギギーが指さしたヨータローのお尻からは、ズボンの外まで伸びきった毛が出ていた。“ランゴスの葉”は生命エネルギーを活発にする。これは、ヨータローがお尻を拭いた何よりの証拠であった。


「いやっ、これは……!」

 ヨータローが両手でお尻の毛を抑えながら言う。

「その……けど、どうせ使ったのは葉っぱの核だから、大丈夫だって! ね!」


「やっぱり拭いたな!! どっちの葉っぱで拭いたんだ!!?」


ヨータローの説得空しく、ギギーの怒りは収まることはなかった。こうして、それまで平和だった街の宿屋にしばらくギギーの怒号が飛び交うこととなった。ちなみに、ヨータローは“ランゴスの葉”の拭き心地をとても気に入り、ついつい二枚とも使用したという……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ