表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

ファーウから語られる真実

感想、ブクマ、評価をありがとうございます。見直しより良い作品になるよう頑張る原動力になっております。


やっとこの話の話数の区切りが決まりましたので、ご報告を。

全19話です。(登場人物紹介ページ除く)

最終回までどうぞよろしくお願いいたします。





 息を呑む。やはり私はなにかを忘れているのね。答えようとするが先にラーアが口を開き、まくしたてた。


「貴方がファーウ様ですか⁉ どうかお嬢様を助けて下さい! 絶対誰かに呪われています! だって石の色が変化したんですから!」


 初対面のラーアに突然そんなことを言われ、訳が分からないのだろう。ファーウ様が困った顔を作る。それでも邪険に扱わないのが、人がいいと言われる彼の長所であり、短所でもある。それを知らないラーアは、例の石を取り出す。


「ほら! この石を見て下さい! 呪いを吸い取ったから、こんなに色になって黒い斑点まで!」

「石?」


 祓い師のファーウ様でさえ石についてご存知ないのか、鼻先に突き付けられた石を受け取ると顎に手を当て、首を傾げる。そんな様子などお構いなしに、なおもラーアはまくしたてる。


「神様が私たち人間に授けてくれる、ありがたいお守りの石なんです! 呪いの身代わりもしてくれる石で、私の故郷では当たり前なんです! 呪いを吸い取ったら、色が黒く変化していくんです!」

「一先ず石については、話を置いていいですか? シファ様、なにか思い出されて私を訪ねてきた訳ではないのですか?」


 ラーアは不服そうに鼻を鳴らすが、とりあえず黙ってくれる。


「いえ、思い出すというか……。夢を見ました。呪いに負けたくありません。私は戦います。そう私が、誰かに言っている夢を……。でも夢とは思えないのです……。いつだったか確かに私自身、そう言った気がしてならないのです……。だから私……」


 震える両手で顔を覆う。


「なにかを忘れていると思って……。でもいくら考えても、なにも思い出せないのです……。お願いします……。私に呪いがかけられていないか、調べて頂けませんか……?」

「調べるまでもありません」

「……どういう意味ですか?」


 少し濡れた手を顔から離し、弱々しい声で尋ねる。


磨羯(まかつ)の月の六日、私は貴女方に伝えました、呪いをかけられていると。貴女以外にも呪いをかけられた方は多くいましたが、他の皆様はかけられた呪いを祓うことに成功しました。しかし貴女だけ、まだ呪いをかけられている状態です。呪いが発動した場合どうなるかを夢の中で疑似体験させ、呪いを終焉させ祓う術でしたが……」


 もちろん私にはここまで語られる内容に、心当たりはない。


「疑似体験の最中である夢の中で、貴女は命を落とされた。そのため目覚めた七日から人生をやり直していると混乱が始まり、結果として呪いは祓えず……」

「嘘よ!」


 堪らず叫ぶ。

 疑似体験⁉ 夢⁉ あれが⁉

 鉄の柵の冷たさ。腐った料理。麻痺した牢屋の悪臭。兄に殴られた痛み。観衆の冷たい目。あれら全てが夢⁉ とても信じられない!


「疑似体験の最中、命を落とせば一度人生を終了したと思いこみ、人生をやり直していると勘違いする場合があると説明した際、貴女が言ったのです。呪いに負けたくありません。私は戦います、と」


 あの日、目覚めてから……。

 孤児院から連れ戻されてから、両親もハリファ様も、誰もが夢だったと言ってきた。私に夢だと思わせ油断させ、また殺そうと企んでいると思っていたけれど……。違う……? 皆、真実を言っていた……?


「そして髪の毛の色もまた、まだ呪いがかけられている証拠でもあります」

「……どういう意味ですか?」


 頭の整理が追いつかない上、さらに不可解なことを言われる。


「貴女はもともと、ご家族と同じ金髪だったのです」


 驚き大きく目を開く。


「ところが呪いのせいで髪は黒くなり、そのことに疑問さえ抱かない。つまりシファ様、貴女は今まさに、呪術師に操られている最中なのです」

「え? でもお嬢様は、自分だけお爺様の黒髪の色を受け継いだと言われて……」


 私と同じく驚いているラーアが声を上げる。


「確かにシファ様の母方のご祖父君は黒髪でした。ですが彼女は本来、金髪なのです」


 信じられない……。

 黒い髪の毛に触れる。

 ああ、でも……。石を贈られた直後、鏡台に映る自分を見て違和感を覚えた。その正体がそれなの?


「で、では……」


 本当に全て、夢の中での疑似体験だったの……? そうとは知らず私は人生をやり直していると思いこみ家出し、家族や友人、愛する人たちに酷い態度を取り続けたの……?


「お嬢様!」


 ラーアが叫び片手を口に当て、もう片方の手で私の頭を指さす。

 その先にある視界に入る横髪の一部が、金髪になっていた。


「どう、して……?」

「疑似体験だと信じる心が生まれたからでしょう。貴女は今、複数人の呪術師により強大な呪いをかけられています。貴女だけでなく、その家族や友人。そして国王陛下一家をも呪うなど、一人の呪術師に到底できることではありませんから」


 それを聞き、昨晩の夢を思い出す。

 真っ暗闇の中、複数人の声が重なっているように聞こえたのは、その呪術師たちの声が重なっていたから?


「それで⁉ お嬢様の呪いは祓えるのですか⁉」

「申し訳ありません、今すぐには無理です。しかし祓う方法は皆で懸命に探しています。シファ様、どうかご家族やご友人、殿下の言葉を疑わないで下さい。彼らを信じ、彼らを愛している己も信じるのです。強い思いは力となります。どうか負けないで下さい、抗うのです」

「犯人は分からないんですか⁉ その呪術師たちを捕まえて、呪いをかけるのを止めさせれば良いじゃないですか!」


 ラーアの言葉にはっとなる。そうよ、呪術師を捕まえれば……。


「犯人の目星はついています。ですがまだ証拠が見つかっていないので、それを探している最中でもあります。だから殿下は証拠を得ようと、自ら敵の懐へ……。シファ様、アルサール侯爵一族に気を付けて下さい。まず彼らが犯人で間違いありません。疑似体験でアルサール侯爵は娘であるシャディ様が殿下と婚約を結んだことで権力を握り、独裁的な行動に走り出しました。彼らと接する際は、長時間会話を交わさないように気をつけるのです」


 それを聞いたラーアが、あっと声をあげる。


「アルサールって、さっきの痩せた男の人ですよね! そうか! あの人と会話をしたから、石の色が変わったんですよ!」


 廊下でアルサール侯爵と会い、それからお守りの石の色が変わったことを打ち明ける。


「きっとその会話の最中、呪いの念を送っていたのでしょう。しかし不思議な石だ……。こんな石があるとは、どんな文献にも載っていない」

「私の故郷は、ほとんど村の名前さえ知られていない田舎ですからね。だから知られていないだけじゃないですか?」

「この石を調べさせてもらってもよろしいですか? 祓い師として、ぜひ研究したい」

「駄目です! 色が変わったら、守ってくれてありがとうございましたと神様にお礼を述べてお返しする。そういう決まりなんです! だから渡せません!」


 慌てて石を奪い返すと両手で握り、強く拒むラーアの態度にファーウ様は早々に諦めた。

 祓い師として神の力を借りる彼にとって、神への礼儀を持ち出されると無下にできないのだろう。


◇◇◇◇◇


「神様にお礼を述べてお返しする決まりがあるということは、この石もお返しするのよね?」


 帰りの馬車の中で尋ねる。


「はい。本当なら直接神社にお礼参りすることが望ましいですが、ここからだと距離がありますからね。代理人でも仕方ないと、神様も許してくれますよ。代理は私の両親に頼みますが、お礼の品はお嬢様自身が用意して下さい」

「お礼の品?」

「はい。守って下さったお礼として、神様へ品を贈るのもしきたりの一つです。農作物を捧げることが多いですが……。ここから食べ物を送ったら、腐っちゃいますね。どうしましょう」


 人差し指を顎に当て、少し上目づかいにラーアは悩む。


「それは農作物以外でも良いの?」

「そうですね、そう村長から聞いたことがあります」


 私はしばらく考え、御者に布地を販売している手芸屋へ向かうよう頼む。


「ハンカチを縫うわ。アルアへ誕生日に贈るブックカバーの布地も買いたいし」

「お嬢様、家にある布で作ると言っていませんでした?」


 言われ、そうだったと思い出す。

 あの時は適当でいいと思ったのに、今はそんな気分ではない。大切な親友だから、心をこめた品を贈りたいと思っている。

 適当でいいと思ったのは、きっと呪いのせいだろう。私と親友たちの仲を引き離すために……。なんて酷い呪いなのかしら……。


 少し灰色になった石が、私の手の中で光ったように見えた。

 この石が身代わりとして呪いを吸い取ってくれている間、操る力は弱まり、私は『私』でいられる。でも完全に呪いが祓えた訳ではない。


 ……戦えるのだろうか、呪いと。


 疑似体験での出来事が強く頭に残り、恐怖心が完全に拭えないなんの力を持たない私が……。本当に戦うことができるだろうか。

 いいえ、負ける訳にはいかない。それに戦うと決めたのは自分自身。

 どんな野望を持っているのかは知らないけれど、人を操るような人たちの好き勝手にはさせない。そんなことを許すわけにはいかない。

 あの疑似体験で分かる。どれだけ非道な考えを持っている人たちが動いているのか……。強い思いは力になる。今は負けたくないという、この思いを大切にしよう。


◇◇◇◇◇


 手芸屋で布を購入し帰宅すると、さっそく神様へのお礼にとハンカチを縫い始める。


「神様は女神様? それとも男神様?」

「さあ? というか神様って、性別があるんですか?」


 ラーアの言葉に思わず笑う。

 確かに神様と人間は違うもの。性別があるかは分からない。


「それでも男神様の可能性はあるものね」


 枝葉の刺繍を入れる。本当はお花も入れたいけれど、もし男神様だったら女性っぽいと嫌がられるかもしれない。だからこの図柄なら問題ないだろう。

 一針入れるたび、感謝の念を込める。

 石を贈られてから、なにか妙だと気が付けた。そして自分が呪いをかけられていると知れた。それだけでも大きな前進。なにも気が付かないままだったら、私は一生誤解し続けたかもしれない。今も守ってくれ、本当にありがとう神様。


「お嬢様への呪いは頑丈のようですから、故郷の家族に石を沢山送ってもらうよう、お願いしておきます。それにしても、あの痩せた男! なにが目的なんでしょうね、人を呪うなんて! まったくあんな酷い男が政務官なんて、信じられません!」


 紅茶を淹れながら憤慨するラーアを見ていると、疑似体験の時、我が事のように怒ってくれた親友たちを思い出す。

 あの時、まだ彼女たちは呪いをかけられていなかったのだろうか。いえ、ファーウ様の言い方だとすでに呪いはかけられたが祓われた。きっと呪いが発動するタイミングが卒業パーティーだったのだろう。


 とにかくアルサール侯爵の娘であるシャディ様にも注意を払わなくては。思えば彼女と視線が合い、目が覚めた感覚に襲われた。あれは頭が晴れたのではなく、逆に利用される意味で覚めたのだろう。

 彼女は呪術師としての力を隠し持っている。誰かに依頼したのではなく、自分たちの力を行使しているに違いない。その力を一族で長年秘匿し、どれだけの年月をかけ『今』を待っていたのか……。

 未来を変えるために王子たちとクラスを違えるようにしたけれど、結果的にやはり正解だった。シャディ様と同じ教室で過ごしていたら、いくらでも呪いをかけるチャンスを彼女に与えていたもの。


 ハンカチを作り、お礼の手紙もしたためる。

 ラーアはすぐにそれを故郷へと送ってくれる手はずを整え出す。


「そういえば、ラーア。あの石を沢山送ってもらうと言っていたけれど、本当に沢山あるの?」

「ええ、ありますよ。川の中にごろごろと」


 ファーウ様でさえ知らない石が、ごろごろと? 当たり前のようにラーアは言うけれど、それって大発見ではないかしら。なぜこんなにすごい石が、今まで世に知られていないの? いくら田舎とはいえ、不自然に思えた。




お読み下さりありがとうございます。


お守りの石については今後、さらに詳しい説明が出る回がありますので、今はここまでしか話せません。

他にもまあ、モニョモニョ……。

と、書き上がっているだけに言えないことが……。

この辺りも、書きながら公開とも大きく違いますね。


~お願い~

感想を書かれる場合は、作品をお読みになられた上、作者が誰かを把握された上でよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ