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眠れる姫にはなれっこない

春眠暁を覚えずというが、私の場合春夏秋冬暁を覚えたことがない。


 毎朝毎朝恥ずかしながら母の手を借りて起きるぐらい寝汚いのである。


 起きても頭の片隅には寝たいという気持ちがあり寝ることが食べることの次に好きだ。


 電車でうたた寝なんかした日は一日中多幸感に包まれ、なにかいいことが起きた気分になる。


 まさに早起きは三文の徳の逆を生きているのだ。


 しかし、世間は寝坊やうたた寝に厳しい。


 寝坊して遅刻なんぞすると遅刻言い訳界で最も重い罪に問われる。


 そもそも、私は睡眠を愛しているが睡眠に愛されていない。


 体質上眠りが極端に浅く劣悪な状態に置かれているのだ。


 一時は睡眠障害を患い、中高時代には病院にもいく程だった。そのせいで遅刻も繰り返していた。


 先生達は私の事情を知っていたが、睡眠障害のことを友人に言うのが気恥ずかしく一部の友人にしか伝えていなかった。


 そのせいもあり他にももちろん要因があるのだが、一部のクラスメイトから嫌われていた。


 そんなデメリットがあるもののこの遅刻魔のせいで新たな友人ができた。


 しかも、女子高であるにもかかわらず男性。


 彼はいつもいつも遅刻してきた私を暖かく出迎えてくれた。


 まぁ、還暦すぎた守衛さんなんだが。


 彼は私のことを『社長』と呼んだ。


 毎日毎日遅刻してくる私の重役出勤をみて親しみをこめて名付けてくれたと信じたい。


 彼は無類の甘党で常にチョコレートを常備していた。


 そして私が遅刻してやってくると、時々彼の秘蔵のチョコレートをくれた。


 あの日は確か部活のため登校した日だったと思う。

 部活だけだといつもより始まる時間が遅く朝練でも9時か10時にスタートだった。


 しかも、一部の部員だけしか登校しない為その日は私一人だけで登校していた。


 学校の門の前に着くといつも通り彼は立っていた。

 すると、私の顔を見て目を丸くし口もあんぐりと開いた。


「どうした!?社長!!!風邪か!?だから今日は晴れたのか!!!」


 なぜそんなに驚くのか不思議でしょうがなかった。

 なんと、私がその日学校に1番最初に来た生徒だったのだ。


 そして彼は上機嫌に秘蔵のチョコレートを持ってきてくれた。


 彼の最も愛するアーモンドチョコレート。


 いつもなら絶対にくれない、いやくれたとしても1粒なのを彼は半分以上私にくれたのだ。


「あんた1人だけにあげるんじゃないんだからね!部員みんなにあげるんだぞ!」


 彼の気持ちは大変うれしかった。


 うれしかったがいくつか問題があった。


 一つは彼は私にチョコレートをくれる時はなにも包まずそのままくれる。


 そのノリのまま何にもくるまず大量のチョコをくれたのだ。


 2つ目はその日は6月の終わり。梅雨でなかなか晴れないはずなのに、その日は晴天で雲ひとつもない暑い日だった。


 これだけでおわかりいただけるだろうが、チョコレートが私の体温と外気温で物凄い勢いで溶けるのだ。


 最後の問題が1番悩ましかった。


 私の通う高校は基本的にお菓子が禁止されていた。


 お菓子が食べているのがバレるとかなり叱られる上に指導書を書かされる。


 ただでさえ内申点が絶望的なのに指導書なんか書かされた日には点数もなにも全て無くなってしまう。


 しかも、私だけが怒られるのならいいがバレれば彼も怒られてしまう。


 どうしてもそれだけは避けたかった。


 それにしたって手の上に乗せられた山盛りのチョコレートを隠そうにも隠せない。


 結局先生にバレずに友達に配れたのだがどうやって隠し通せたかは覚えていない。


 ただ、手がチョコレートまみれになりトイレに洗いに行ったのはよく覚えている。



 もう一つ睡眠でエピソードがある。


 それは英語の授業中に勃発した。


 当時私は文系の大学を受験することを決めていた。


 そして、唯一の足かせである英語に取り組もうと必死になっていた。


 そんな私に睡魔はいつも襲いかかってきた。


 真剣に授業を受けたいのにとてつもなく眠い。


 寝ちゃだめだ、寝ちゃだめだ、寝ちゃだめだととある新世紀アニメの主人公のようになりつつも必死に睡魔と抵抗していた。


 一瞬意識を失ったその時、英語の先生の大きな笑い声で目が覚めた。


 この先生は少し風変わりな先生だった。笑いのツボが普通の人と違うため微笑みはすれど爆笑している姿など誰も見たことがなかった。


 なぜ笑っているのか生徒達は分からず困惑している。


 そんな中でも彼女は息もできないぐらい笑い続けた。


 ようやく落ち着き彼女は笑いすぎで目に浮かんだ涙を拭いた。


 そして笑った理由を語りだしたが、それはとてつもない理由だった。


「失礼なのはわかってるんだけどね、藤さんあなたの眠気と戦う顔が面白すぎ。」


「悪気がないのは十分わかってるけど半目で白目で前歯が出て、もぅ…」


 そういうとまた思い出したかのように笑い始めた。


 先生の笑いは中々止まらず授業の半分程が笑いで終わってしまったのだ。


 その後、先生から授業にならないからぜひ眠いなら寝てもいいという不名誉な許可を頂いた。


 当時は一緒に笑いながらも『そんな笑うような顔かよ』と内心納得がいってなかった。


 それから数年経って私が眠気と格闘しているところを写真好きの友人がたまたま写真で収めていた。


 さっそく写真を見せてもらうと愕然とした。


 見ては呪われるレベルの顔だった。


 見てはいけないものを見てしまったと罪悪感にかられまくる素晴らしい寝顔がそこに存在した。


 よく言えば死にかけのフナ、悪くいえば陸に打ち上げられ破裂しかけの深海魚だ。


 こんな顔では私にだっているかもしれない白馬の王子さまも馬を見捨てて裸足で逃げ出すレベルの顔面だ。


 おかしい。


 要素としては眠れる森の美女と一緒だ。


 女だし、人間だし、成分も一緒のはずなのに。

 何だこの違いわ。


 眠れるは眠れるでも私は眠れる陸の深海魚(破裂寸前)が関の山だ。


 いつかこの深海魚フェイスを許容してくれる優しいさかなクンが私の元へ来てくれると信じている。


 まぁ今のところ『ギョギョギョ!』と叫んでそれっきり動かなくなる男性にしかめぐりあえていないが。

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