第6話「仲直り」
私は、山崎里緒菜さんたちと向き合った。
なに言われるのかな?
何事もないといいけど。
と思ったら、山崎さんがこっちをにらんで言った。
「ちょっと来て。話があるの。」
うわー、一番怖いセリフ……
たぶん、私の推測だけどね、このままじゃろくなこと言われない。
きっと、さっきの話のことだ。
この状態では、圧倒的不利。もちろんこっちがね。
女子、特に山崎さんの前では私、何も言えないと思う。
でも、今日は何か言い返してみようかな。
「ねえ、聞いてるの?」
山崎さんにきつく言われて、しかたなく私はついていった。
今私がいるところは、女子トイレ。
一番奥の個室に、私と山崎さんが二人きり。
取り巻きたちは、勝手に帰っていった。
私は、タイルのカベごしに追い詰められていた。
私の背中が、かべとくっついてる。
山崎さんが、じりじりと近づいてくる。
個室の中に、緊張した空気がたちこめた。
先にしびれを切ったのは、私のほうだった。
こわかったけど、勇気を出して震えた声で言った。
「いっ、言いたいことがあれば、は、はっきり言えば?」
よし、まずは言った!
でも、山崎さんは鼻で笑っただけだった。
「自分でわからないの?」
もちろん、内容は知ってるよ。
教室で言ってたこと、聞こえてたからね。
「私が質問をするけど……」
山崎さんはそこまで言って、ぐわっと私の胸ぐらをつかんで、勢いよく引っ張って私を床に叩きつけた。
山崎さんが横になった私に馬乗りになった。
そして、手をふりあげた。
「けがしたくなければ、正直に答えてね?」
うっ、脅してる。
自分に都合のいい答えが返ってこないと、私にけがさせるつもりだ。
ああ、病院で転校生の男の子をたたいたからだ。
ばちが当たったんだ。
私は、つくづく後悔した。
でも、もし本当に私をなぐる気なら早めに反撃の準備をした方がいい。
私は起き上がった。
そして、またさっきの体制に戻ったんだ。
「じゃあ、まず最初の質問ね。あんたさあ、好きなの?」
だれを?
「福川のこと。」
私は、首を横にふる。
福川って誰だっけ?と、思いながら。
「うそ。」
そう言って山崎さんはまた私の服の胸の部分を引っ張る。
「うそじゃないから。」
私は、必死で引っ張り返した。
その時だった。
「おいお前ら、なにやってんだよ!」
え?
私と山崎さんが振り向くと、個室の入り口にあの男の子が立っていた。
「けんかはやめろよ。」
そう言ってその男の子は、私のうでを引っ張った。
「いくぞ!」
そう言われて、私はやっと冷静になれた。
あんた、なんで女子トイレに入ってきてるのよ~‼
山崎さんも、ただぽかーんと突っ立っていた。
私は、男の子に引っ張られて今度は渡り廊下のとこまできた。
私、思わず叫んだ。
「なんで女子トイレに入ってきたのよ!」
男の子は何事もなかったようにクスクス笑った。
「ひでえなお前。助けてやったのに。」
まあ、そうだけど……
でも、なんでけんかしたのに助けてくれたの?
ほら、病院で大ゲンカしたじゃない。
あなたあの時、「二度と会わない」って……
男の子はさらっと答えた。
「さっきはそんなこと関係なかっただろ。いつまでたっても三七と山崎が戻ってこないからさあ、
どうしたのかなって様子見に行っただけだよ。」
私、前まで二度と会いたくないとか思ってたけど。
そんなすごいこと、あなたはさらっと言うんだね。
私は、敬服をはらった。
「それに、謝ろうとも思ってたから、さ。」
え、そうなの。
「この間のことは、おれもいいすぎたよ。ごめん。」
へえ、こんなに潔く、謝るところもあるんだ。
なんかすがすがしい。
こういう男の子、嫌いじゃないかも。
「こちらこそ、ごめん。」
これで仲直りだよね。
と思ったら、男の子にまた噴き出された。
「おまえ、おれの名前知らないの?」
ああ、そう言えばそうだね。
「おれ、福川達也だよ。お前のクラス。転校してきたんだ。」
ええっ‼
あなたが福川くんだったの。
ごめん、私転校生とか興味あんまりないんだよね。
私、もう一つ大事なことに気づいた。
私お礼もいわなくちゃ。
「改めまして、助けてくれてありがとう。」
それと、もう一つ。
「えっと、もうけがは大丈夫なの?」
福川くんは、くすっと笑った。
「おまえが入院していた時に、リハビリ頑張って完治したよ。」
あ、そうなの。
「リハビリについては、また、話すから。」
そういわれた。