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loop.8 MISTERY

  交差点は夏の暑さにあてられたのか、陽炎が揺らめいている。それは自然現象なのだが、どうもタイムリープの前兆と勘違いしそうで嫌な思いをする。

  だが例の事故の看板がそこにあるだけで視界がはっきりする。やっぱりある、そうも思ったが本当ならそう思うべきではないのだ。これは明らかに異端な存在なのだから。

  そこにはなにも変わらず、事故の情報が刻まれているが明らかにおかしい。それをスルーする一般人も明らかにおかしい。

  刻まれている内容はこうだ。


  目撃者を捜しています


  8月6日午後2時18分頃 普通自動車(立ち去り)と歩行者の事故を目撃した方はご連絡下さい


  ○○警察署交通課 △△△△ー△△ー0110


  それに一歩一歩近づき、ついに目の前に立つ。腕を組んでそこに隠された"何か"を見つけようとするが、出てくる感想は一つだ。

  「……うーん。まるでわからん……」

  その文言は何度読んでも意味不明。

 

  おかしいのは大きくわけて二つ。

  まず時刻がおかしい。腕時計を見ると間違いなく14時12分を指しておりそれに加え、今日は8月6日。

  年が一年ずれているとも考えたが、事故目撃情報を求む看板はまだ真新しく汚れがほとんどない。もし一年、大通りに曝しておいたとすれば汚れ一つないのは不自然すぎる。


  そして二つ目におかしい点。

  それはこの看板は間違いなく公式のものだということ。これだけおかしいといたずらであることも考えたが、いたずらにここまで労力をかけるのも考えづらく、なにしろメリットがない。

  そう考えるとこれは公式だ。手作り感もあまり感じないし。

  しかし警察署が作ったのならこんなお粗末なミスはしない。日時が最も重要と言ってもいいもので、一日ズレがあったり、時刻をミスっているなどあるはずがない。


  これが看板の不可解な点の二つ。これは本当に意味がわからない。だけど思考して、問題点をはっきりすると見通しが少し立つ。二つ目のおかしい点ならすぐに確認がつく。

  ここに書かれている電話番号に電話をかければいい。そしてここの警察署ならコネクションがある。ただの高校生ではない、と言えば聞こえがいいがそうは上手くいかない。

  ただ感謝状をもらうときにそこの警察官の方と仲良くなっただけだ。……こう話すと只者じゃない気がしてきたな。


  まあ、とにかく電話をかけよう。時間を見るともう15分でざっとループするまで5分もないだろし。

  そうしようとした矢先、僕の目にあるものが飛び込んでくる。

  それは前回のループまでずっとキーとなると思われたあのキャラクター物のぬいぐるみだった。

 

  「はあ……。なんでここにあるんだよ……」

  思わずため息が出る。前回までのループでさんざん執着した挙げ句このザマだ。正直、このぬいぐるみはもうみたくないほどトラウマだ。

  そんな思いも露知らずぬいぐるみは微妙にこっちを向いて笑っているのにも苛立ちを覚える。お前のせいで……。と、思うが八つ当たりはよくない。

  とりあえずついでだ。この落とし主の正体は割れている。手間もかけずにこれを渡すことは出来るだろう。そう思い拾い上げる。だが怒りは簡単には消えず、「全く忌々しい」とは思った。


  さてと、落とし主はどこだ。周辺を見渡す。が、どこにもいない。……おかしいな。何周目のループかでここを父親と通ってたはずだが。

  そう思ったので次は父親っぽい男性がいないか目を凝らす。父親の姿もうろ覚えだが一応、覚えてはいる。

  いた。だがこれまた何かおかしい。何か探し回っている様子だ。それに加え、その息子はどこにもいない。嫌な予感がして、悪寒を感じる。

  だが推測はよくない。もしかしたらこのぬいぐるみを探しているのかもしれない。なので事情聴取も含め、父親らしき人に声をかけてみることにする。


  「どうしました?」

  男性にそう話しかけたがこちらを見向きもせず、いろんなところを見渡す挙動不審な人を続けていた。これが無視というやつだろう。

  「あの……」

  それでも僕はめげずに話しかける。こっちだって大事なものがかかっているのだ。簡単には引けない。

  するとその気持ちが通じたのか男性は僕の方を見る。いや、違うな。僕じゃない。視線は完全にぬいぐるみに釘付けになっている。しかもそれを見る目は、なんというか……怒りに満ちていた。

  そして遂にこちらを見る。だがぬいぐるみを拾ってあげた人に見せる目ではない。


  それはこちらを力強く睨み、激しい憎しみを持ったかのように歪んでいた。


  「……お前か?」

  「え?」

  訳も分からず、聞き返すと今度は胸ぐらを掴み壁に叩きつけられる。そして僕は全く同じ言葉を聞く。

  「お前か!」

  一体、何が起こっているのだ。何も心あたりがない。だが何かあったことは容易に想像できる。

  「な……何がですか……?」

 息が苦しいがなんとかこれだけは返す。だが相手も興奮しているようで言葉をまくし立ててくる。が、ほとんど何を言っているかわからない。わかるのは激昂と混乱をしているということだけだ。


  そうこうしている内に息苦しさが増し、目眩もする。これまではループの前兆だが今回はおまけに間近で怒鳴られて、耳が痛い。思わず男性から目を背ける。

  だから見えたのだ。その男性が怒る原因が。


  あるライトバンが凄まじいスピードで走り去るのを見た。それには見覚えがあった。きっとそれはあの老婆が交差点を渡りづらそうにしていた元となるものだったはずだ。


  意識を失う手前、最後に見たのは。

  ぬいぐるみの落とし主の男の子の窓を叩きながら泣いている姿だった。

 


今回のサブタイトル「MISTERY」はスペルが違います。正しくは「MYSTERY」ですがここは言葉遊びだと思ってください。

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