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loop.5 SIGN

  今までのループと何も変わらない住宅街の景色、音。だがそこにはあのうざったい暑さだけがすっぽりと抜け落ち、むしろ寒いくらいだった。

  今までの状況を考える。子供にぬいぐるみを渡そうとし、そして失敗した。その後、横断歩道にいる老婆を助けようとして、見たのはー。

 

  時間が明らかにおかしい事故目撃情報を求める看板。


  あの時期は確実に未来を指していた。去年の話ということも考えたがあの看板は0周目にはなかった。

  おぞましい寒気がして身震いをする。この世界でおかしいことは僕のこのタイムリープの能力だけだと思ってきた。

  そこにきての世界の異常。それは僕の人生を侵害しているように思えた。


  いてもたっても居られなくなる。そう思った途端、僕は走り出した。あの横断歩道へと全力疾走で向かった。

  だがその走りは長くは続かなかった。体感は寒いのに、本来そこにある夏の暑さが体力を奪って、やがてその場にへたりこみそうになる。それでも歯をくいしばってそうなるのだけは耐えた。

  上手く息が出来ない。自然と過呼吸のようになってくる。けれど足だけは止めずに目的地へと向かった。


  横断歩道へ行くのはあの看板の詳細を見に行くためだが、正直見間違いであって欲しいと思った。それはそれで不思議な出来事かも知れないが、忘れてしまった方がいいこともある。

  だが願望ほど無力なものはない。いや、むしろ願望には力がある。自分と望みとはきっちり逆に持っていってくれる程には。


  そこにあったのは間違いなくあの事故目撃情報を求める看板。しかも時間にもずれはなく、きっちり8月6日午後2時18分と書いている。

  腕時計を見る。時計の短針はちょうど2のところを指しており、その下に日付機能があるのがそれを見ても、時は戻ることはなく8/6とあった。

 

  周囲を見渡す。だがこの看板に気にかける人は誰もいない。こんな看板に注意を払わないのは当然といえば当然ではあるが、それにして異常と思えることがある。

  それは看板に見向きもしないということだ。確かにじっくりと見る人は少ないかもしれない。だが少しも気にしないのはおかしい。まるでそこに看板が存在していないかのようだ。


  違和感を確認はした。だがこれ以上何か出来ることはなさそうだ。まずこれがループに影響してるかも分からないし。そう考えると気持ちがだんだんと落ち着いてくる。

  この看板が仮にループに影響したとしてもトリガーが変わったわけではない。あのぬいぐるみさえ渡せばいい。

  そう思い直すがここから公園に戻っても多分、子供達は母親らに連れられ帰宅中だろう。なので二周目にできなかった老婆の人助けをしようと思いつく。

  トリガーはわからないが念には念を、だ。


  そう考え横断歩道を渡りずらそうにしている老婆に近づく。二周目の時は大丈夫か訊いても返事が曖昧だった。だからその課題を修正して再び話し掛ける。

  「手伝いますよ」

  手伝いましょうか? ではない。疑問形だと遠慮させてしまうのでここは少々、強引に言うべきだ。

  そうすると逆上する人もいるが、この人は大丈夫そうだ。経験則でわかる。

 

  するとそれが功を奏したのか、

  「はい、よろしくお願いします」

  と柔らかな年季の入った声音で丁寧に返してくれる。助けると言っても老婆は足腰はしっかりしてそうなのに加え、杖もあるので歩けないことはないだろう。

  問題は通行量の多さと信号機がないことだ。信号機がないということは普通は通行量が少ないのだろうが、この日はとても多い。イベントでもあるのかな?


  この問題を解決するのは簡単だ。ただ渡れるタイミングを作ってあげればいい。そうすれば歩けるので渡るのは容易だろう。

  パッと高く手を挙げる。すると車はすぐ停まる。老婆が困ってるのも分かったのか効果は抜群だったようだ。

  老婆が横断歩道を渡る。しっかり歩いているので補助は要らないんだろうが、ここで放置するのも気が引ける。なので老婆の近くを歩きながら車が来ていないか見渡す。その時、ちょうど目に留まったことがあった。


  そこには男の子とその父親らしき人が仲良さそうに並んで歩く姿だった。

  普通ならこんなこと目に留まることなどない。なのにその光景に目が離せない。それがとても不思議だった。

  しかしある記憶に思い至る。あの子供は公園にいた子供だということに。確信はない。だがもう既に三回、あの公園で元気よく遊ぶ子供達の光景は見た。

  うっすらとした記憶ではあるが、間違いないと思う。

 

  するとその光景を見たらしき老婆が小さな声で話し出す。

  「あの人らはねぇ、本当に可哀想だよ。奥さんも早くに亡くなってしまってねぇ」

  それは俺に向けた言葉ではなかったかもしれない。ただ独り言で哀愁を語っているだけだとそうも思えた。

  だがこれが年の功なのか不思議と耳に入ってくるそんな声だった。そのおかげで意識せざるを得ない。黙っててもなんだと思い、それに適当に相槌をうつ。

  「はあ……。そうですか……」

  すると老婆は僕の相槌を聞いているのかどうかわからないがそれでも会話は上手く続く。

  「ええ。あの子も可哀想だ。母親が出産してすぐ亡くなってしまうんだからねぇ」

  「どうやって亡くなったんですか?」


  その返しは単純な好奇心だった。あと話を続けようという気持ちもあった。するとまたしても老婆は丁寧に話す。

  「事故だよ。……そういえばこの横断歩道だったねぇ」

  珍しい話でもない。始めはそう思ったが、ふと、ある疑惑が湧いてきた。


  もしかしたらぬいぐるみの主はあの子ではないかと。

  二周目で母親らに落とし物のぬいぐるみに心あたりはあるかと訊いたが、心あたりはないと答えた。つまりこれは彼女らの子供のものではないということだ。

  最近はママ友とか言う母親が集まるグループがあると聞いた。しかも母親達はそこに属しているのが原則で、そこに参加しない場合、子供がハブられたりするらしい。

  だからあの場には母親らが全て揃っていると言ってもいい。だが今思うと例外があった。


  それは父親が子供の保護者の場合だ。

  この場合はそもそも母親がいなくて、資格がなくママ友会に参加できないのだから、子供がハブられることはなかろう。むしろ母親がいないことに対して同情までありそうだ。

  そう考えると地理的にも公園まで近いのであの公園に男の子がいてもおかしくない。そしてそれはぬいぐるみの主があの子であるという可能性が高いということを意味する。


  体の温度が戻ってくる。むしろ興奮してきて暑いくらいだ。一時はあの看板に惑わさせたが、ループ脱出の目処がついてくる。それに安心感を覚える。

 

  視界が歪んでくる。男の子の顔は覚えた。あとは落とし物を渡すだけだ。そう考えると意識を失うことが待ち遠しくさえ思える。

  気分が明るくなる中、何故か違和感を覚える。しかしあんまり気にしないことにした。


  今、思うとそんな杜撰な態度が終焉を呼び込んだように感じる。もっと突き詰めて考えるべきだったのだ。

  だがもう全て後の祭り。もうそんなことに絶望感を覚えない僕はきっと為す術なく終わっているのだ。

この小説にはいろんな伏線を張ってますが、やっぱり伏線を張るのは難しいです。一流の人はホントにすごいとつくづく感じます……。

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