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loop.3 I DON'T KNOW

  再度、僕はループしていた。

  木霊とベンチで話してる最中、徐々に意識がフェードアウトしていく感覚を覚え、気付けばまた同じように僕が住む街を歩いていた。

  しかし僕はすぐに後悔をした。この炎天下にいるだけで溶けてしまいそうな暑さ。それがそう思わせる要因だろう。

  木霊と話すのは確かに楽しかったが、それとこれとは話は別だ。暑いものは暑いし、嫌なことは嫌なのだ。

 

  二度あることは三度あるということわざがある。

  僕はこの時点で二周目。多分、この能力に回数制限はないだろう。

  しかしことわざというのは先人の知恵や経験則から来る言葉で、いわば僕らより世界を知っている者の言葉だ。だからそれはだいたい正しい。

  だからこそ僕はこの三周目に到達する前にループを脱出してしまった方が良さそうだと思った。


  二周目とあって公園の道はしっかりと覚えてる。迷わず一直線で公園へ向かう。

  そこには前のループと何も変わらない風景が広がっていた。

  広い広場に、そこで遊ぶ子供達、その周りにはそれを監視しながら談笑する母親達。ベンチが何個か置かれている。

  もう何も迷うことはない。さっさとこのループを終わらせてしまおう。

  そう思い、すぐにベンチの方に行きぬいぐるみを拾い上げる。

  渡す相手はまあ……。あの母親達だろう。

  子供に直接、渡しに行って遊びを邪魔しても悪いし、何より不審者扱いされるのだけは避けたい。


  ふぅ……。なんか緊張するな。

  俺はループすることで得たのはほとんどない。優しさは慣れることがない。いつだって新鮮で初心者だ。

  そう思うのは優しさだけは人を相手にするからだろう。

  人を相手にするからその人によって何が優しさなのか、どのくらいで愛を感じるのか。それは人によって全く異なる。

  だからただ単に落とし物のぬいぐるみを渡すだけでも、面倒くさいと思うし、緊張もする。

  多分、僕もこの能力さえなければただの人間なのだろう。基本的に優しくなく、それ故に優しい人を僻むような人間。

  僕はこのタイムリープの能力のおかげでそれを免れているが、僕以外はそんなことはない。

  だからこそ緊張するのだ。僕が優しくしようとする人が優しさを僻む人間であったなら僕は一気に嫌われ者だ。

  そのため優しくするときは機微が大切なのだ。下から行くのが正しい。


  母親達に近付いて、あくまで優しく威圧的にならないように話しかける。

  「あの……これ落ちていたんですけど、お子さんのものですか?」

  母親達はざわざわとする。談笑していたのを急に打ち切られるのだから気分は良くないかもしれない。

  だがそれが表情には現れていない。それだけで僕はほっとする。感触は悪くない。

  どうやら示し合わせが終わったようで、母親達の中で最も妙齢そうな、いわばリーダー的立ち位置の人がこれも優しく話し始める。

  「ごめんなさい。多分それは私達の子供のものではなさそうだわ」

  「えっ」

  思わず声が漏れるが、考えてみれば不思議なことではない。

  もしもぬいぐるみが彼女らの子供のものであるなら、母親に預けたりするだろう。

  可能性としてはもっと別のことがある。例えば午前中に遊んでいた子供のものであるとか、ここにいない母親の子供のものであるとかがある。

  もっとも前者はループしているのが午後だからあり得ないだろうが。

  「そうですか……。すいませんでした……」

  そう軽く謝り、その場は離れる。母親達をちらっと見るが気を悪くした様子はないので良かったと思った。


  だがここで大きな問題が起きた。このぬいぐるみを誰に渡せばいいかだ。

  あの母親達の子供のものでないとなると、それ以外の子供のものであるとは分かる。だがそんなことが分かったところで子供が特定できる訳ではない。

  その場に立ったまま悩んでいると、後ろから声をかけられた。来ると思っていたから今度は驚かなかった。


  「あー! 計君じゃーん! 久しぶりー!」

  全く同じ言葉。全く同じ動き。全く同じ衣装。映画であるなら三流だろうが自分がループしているのでこうなるのは当然だ。

  「ああ、木霊か」

  するとむっとした感じで水沢木霊は言葉を返す。

  「なんか全然、驚いてないね」

  「まあね」

  とだけ俺は木霊に言う。さすがにループしてるからとは言えない。

  「何してたの?」

  これは前のループとは違う質問だ。やはり僕が関わると受け答えも変化するようだ。

  「いや落ちてたから……」

  「やっぱり計君は変わらないねー、ずっと優しい」

  とこのように僕が全く同じ受け答えをすると木霊も同じように返してくる。

 

  その時、あることに気付いた。ちょうどさっきまで公園で遊んでいた子供達が帰っていく。

  さっきの母親に連れられている子供もいるが、車に乗せられて帰っていく子供もいた。

  このことから僕はあることを考えた。

  もしかしたらこのぬいぐるみの主はその車に乗せられて帰る子供なのでは?

  たしかに送り迎えが出来るなら、あの公園に親がずっといなくてもいい。その理由から多分、僕の考えは正しいと感じた。


  どうやら始めに母親達に話し掛けるのは失敗だったようだ。次は子供に直接、渡すのが得策だろう。

  またループするのは厄介ではあるが、多分次でループは脱出出来る。今回のループで教訓も得たし大丈夫だろう。

  だが万全を期したい。そのために僕はあることを片付けようとする。

  そのために一歩踏み出すが、そこで

  「何、ここで帰ろうとしてるの?」

  と木霊は僕に怒った風に言う。

  完全に木霊のことを忘れていた。まあ、ちょうどいいしついでだ。そこで僕は木霊に

  「いや、行きたい場所が出来たから。一緒に来る?」

  「どこに行くの?」

  「説明すると難しいけど……、まあ交差点かな?」

 

  僕がそこへ行く理由。それはループのトリガーがぬいぐるみを拾って子供に渡すことじゃない可能性があるからだ。

  0周目で人助けを必要としていたのはこのぬいぐるみの落とし主だけではない。

  交差点を渡りずらそうにした妙齢の女性もいたし、その近くの路地で夏だというのに地べたで寝そべっているホームレスもいた。

  もしかしたらその人らがトリガーになっている可能性もある。だからその不安を取り除いておきたかった。

  これはなんとなくの勘などではない。明確な根拠がある。

 

  それは今、ぬいぐるみの落とし主であろう子供が帰ってしまったのにまだループせずにいるということだ。

  なのでそういう可能性があると思った。

  そんなことを考えていると、木霊が返答する。

  「まあ、暇だしいいよー」

  「サンキュ」

  僕も木霊にそう軽く返すと、そこへ向けて歩き出す。


  結果的にこの行為は正しかった。しかし正解だからといって、状況が良くなる訳ではない。

  既に運命の歯車は止まることを知らず、最悪の結末へと確かに向かっていった。


 

 

この物語の舞台は夏ですが、なんとなく自分の中でループといったら夏だろうと思い、この季節にしました。

このイメージのもと、分かる人いますかね?

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