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loop.2 BOY MEETS GIRL

  気付いたら僕は住宅街を歩いていた。

  散歩をするのは好きとは言っても、それは新しい景色などを見ることでの新しい発見が好きなのであって、焼き増しの見慣れた映像は好きではない。

  僕は確実にループしていたことに気付いた。散歩のルートもこの身体を燃やす夏の暑さも同じだった。


  ループをすると身体の状態は引き継がれる。失ったものは戻らないという制約のせいだ。だから前回の疲れも汗も全て引き継がれた。

  正直、家に帰りたかった。だが家に帰れば疲れは取れるかもしれないが、ループはするのでとっととその原因を取り払ってしまった方がいいだろうと思った。


  公園に急ぐ。とは言っても暑さで足が鈍る。この間にも自転車に乗った人々にどんどん抜かれていく。まあ、こういうのは気にしないことだ。時間はあるし。

  そんなことを考えていると、公園に着く。

  ここでベンチの脇に落ちているぬいぐるみを拾って、子供に渡すかその母親に渡せば、ループ脱出。なんとも簡単なことだと思っていた。

  遠くには子供達が騒ぐ声が聞こえる。よく疲れないなとは思うが、ループするんだから疲れたりしないよな、普通は。

  そうしてベンチに近付いて行くが、ここである重要なことに気づいた。

  そういえば誰が落としたのかわからないな……。

 

  僕はループの原因を取り除くために行動している。明確な目的があるから僕自身からしてみればぬいぐるみを拾い、それを送り届けるというのは何もおかしくない。

  だけど周りから見るとかなりおかしい。

  ぬいぐるみなんて落ちていても、ほとんどの人は興味を持たない。中にはそれを見て心配になる者もいるかもしれないが、行動には出ない。心に留まる。

 

  だから拾って送り届けるのはリスキーなのだ。ここで人間違いでもした暁にはそれは一種の変人だ。

  たかが人助けだけでと思う人もいるかもしれないが、これは人助けを中途半端にしてきた人間が言うことだ。

  僕みたいに、人助けすることによって生きてきたと言って過言ではない人間が言うのだから間違いだろう。


  まあ……、今までのループのトリガーは簡単なものばかりだった。今回も同じだろう。そう考えるとあの子供達と母親の中にはこの落とし物の主はいるだろう。

  それでようやく決心が付き、ぬいぐるみを拾った。

  その瞬間、後ろから声をかけられた。


  「あー! 計君じゃーん! 久しぶりー!」

 

  しまった。そう思った。優しさを人に見られるのはまずい。人間は優しくない故にその行為は異端に見える。

  そう思いながらゆっくりと恐る恐る振り返った。

  そこで僕は一瞬で安堵した。

  明るい栗色の髪を肩あたりまで伸ばしている。昔は黒髪だったから染めたのだろう。

  顔はどのパーツも大きいが絶妙なバランスを取っていて、女子としては可愛い部類に入るのではないだろうか。なんとなく小動物的な雰囲気を持った少女。

  そこにいたのは水沢木霊だった。

  「なんだよ……。おどかすなよ……」

  すると木霊はなんでもないという風に

  「いやー、だってこの公園で幼馴染と会ったらそりゃあね」


  僕が木霊を見た瞬間でほっとした理由。それがこの幼馴染であるということだ。

  どんな性格でもそうかもしれないが、初めて他の人の性格を知る時はそれが全て嘘っぽく見える。これが本当の性格であるか見極めるためだろう。

  だから古くからの知り合いの方が、自分のことをよく知っているから人助けする行為を見られてもそんなに関係性に影響しない。


  安心はしたが、急に声をかけられるのは横槍が入ったようで少しむっとした。なので素っ気ないように

  「なんだよ。これは遊びじゃないんだよ」

  すると木霊は可笑しそうに笑って

  「遊びでしょ? 遊びじゃないのに高校生がぬいぐるみ持ってるなんておかしいよ」

  そう言われ僕は手元を見る。手にはしっかりとぬいぐるみが握られている。やっぱりこんな姿見られるんじゃなかった。

  少し恥ずかしかったので返す言葉もすげない。

  「いや落ちてたから……」

  「やっぱり計君は変わらないねー。ずっと優しい」

 

  昔からの知り合いは皆、そう言う。だからこそ分からなくなっていく。僕の優しさはループを脱出するためにする行為だ。いってみれば自己のため。偽善だ。

  僕は他人に違う自分を見せているように感じる。嘘つきだ。本当は優しくない。

  だからこう言われると、ばつの悪い気持ちになり話を変えてしまった。

  「それでお前こそなんでここに?」

  「ん? 計君と同じ。ただの散歩」

 

  そうか。とだけ言って本来の目的を思い出した。

  僕の目的はぬいぐるみを拾い、それを子供達の中の一人、もしくはその母親に渡すことだ。

  間違っても木霊と話すためではない。なのでここら辺で別れて、ぬいぐるみを渡そうとしなければならないが、ここで自分はある失敗していることに気付いた。

  公園内には既に子供達とその母親達はいなくなっていた。時間はまだ昼間だがこの暑さだ。暑さ避けで移動しても不思議ではない。


  「はあ……」

  思わず溜息が出る。ここから彼ら彼女らを探して渡すのもありだが、それはやりすぎだと思う。

  けれどまたループする徒労感を考えると溜息が出ても仕方ないだろう。

  それを聞いたのか木霊は

  「何? 悩み事? あるなら訊くよ!」

  すごいグイグイ来るな。木霊のせいなのに……。

  「いや……。木霊のせいだから」

  「え? なんで?」

  不思議そうに僕を眺めた。その僕の心情を何も分かってない感じに少しイラッとするが、知らなくて当然のことだ。気にしないでおこう。

 

  まあ、いいや。

  今の僕の心情はまさしくそれに支配されていた。このタイムリープの能力のおかげで何回でも次がある。

  だから今回ぐらい棒に振ってしまってもいい。むしろ久しぶりに木霊と会い、積もる話もある。

  なので僕らは少しベンチに座り、色んな話をした。その内容はもう忘れてしまったが、幸福な時間であったのは覚えている。


  だから忘れてしまったのだ。いや、気づかなかったと言う方が正しいかもしれない。その時間はいつもの法則とは完全に外れていることに。


  人は不幸を吸い寄せる生き物だ。どんだけ気を張って生きていても失敗し、やがて絶望が訪れる。

  だからまあ、いいやなんていう投げやりな思考はいけないのだ。確実に絶望を迎える。


  しかし僕はあの時、そんなことを思っていた。


  既に終焉が始まっていることに気付かずにーー。

 

自分はラブコメとかの明るい雰囲気の小説、漫画が好きなのですが、いざ執筆しようとなると暗めの話ばっかり思い付きます。

好みとしたいことは別々ということなんですかね?

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