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loop.12 BEYOND UNDERSTANDING

  少し志が違えば、景色は全く違って見える。

  そうはよく言うが、あながち間違いではない。志さえあればその希望から前向きになり、なければ落ち込んだように下を向く。そんな単純なことだ。

  実際、ただそれだけなのだろうが人々は志がある人間を素晴らしいともてはやす。そこにはやはり単純なことではない何かが人々をそうさせるのだろう。

 

  僕は廃ビルに向かって歩き始める。その姿は周りから見ても明るい印象を与える、だろうと思っている。それだけ僕には志があった。

  しかしそれもすぐに失うもの。それでも僕が人間であるため志、ひいては意志を持ち続ける必要がある。

  迷わずに廃ビルに辿り着く。時計を見るとまだループしてから五分も経っておらず、少し早く来すぎたと感じた。結果的にそれは杞憂だった。

  とりあえず廃ビルの二階に上がる。一階では自分たちの姿を見られやすいからそれは困る。

  するとその二階で木霊はつまらなさそうに廃ビルのボロボロで無機質な壁にもたれかかっていた。

 

  「やあ、久しぶり」

  今回は自分から声をかける。木霊は口元に笑みを浮かべ

  「うん、本当に久しぶり」

  とだけ言う。

  「わざわざ呼び出して悪かったね。ご機嫌麗しくて?」

  「ご機嫌麗しいよ」

  せいぜい、余裕を醸し出しながら言ってやったが、木霊はこれまたつまらなそうに返す。多分、話の方が気になっているんだろう。

  「それで話って? 大体、何かは分かるけど」

  「その言葉で確信が持てたよ」

  実際、僕はこの考えをあまり信じていない。だから一応の確認の気持ちで木霊に訊こうとしたが、もうここで答えをはっきりしてくれた。ありがたい。

  「単刀直入に言うよ。木霊が僕の終焉の元凶だよね」

  「……根拠は?」

  木霊がかすれた声で返す。……動揺してるのかな?

  「それが根拠と言ってもいいけど、それじゃつまらないよね」

  「まあ時間もあるし、じっくり考えを言ってよ」

  木霊はそうかもしれないけど僕にはないんだよなあ……。そんなことを考え、思わず苦笑する。

 

  「時間がないし、言ってくね。まずは何回もの妨害」

  「……」

  「一番、分かりやすいのは僕が事故に遭いかけたループで男の子を誘拐から救おうとした僕の袖を引っ張って妨害。あれは露骨だからよくわかる。だけどそれだけじゃない」

  木霊は無言を貫く。壁にもたれかかっていかにもやる気がなさそうなので、聞いてるかどうか不安になる。

  「それより先に二回妨害をしている。まずは公園で話したこと。まあこれは妨害か微妙かもしれない。だけどもう一つは明確な妨害だ。交差点で老婆を助けようとしたループ。そこで木霊は僕についてきて、僕から誘拐の事実を()()()()。」

 

「根拠としては弱いね。交差点に来るように誘ったのは計くんでしょ?」

  やっと口を開く。だがこの程度の反論は折り込み済み。とっさに返す。

  「そうだね。それは失敗したと思ってる。でも木霊も失敗してる」

  「?」

  木霊は首をかしげる。心当たりがないようだ。……演技じゃないといいなあ。

  「僕は交差点にくるか、二回誘った。一回目は来たけど二回目は遠慮した」

  「それは……」

  そこで木霊は何か気づいたようではっとして口を押さえる。惜しかったな。

  これも確かに根拠は弱い。だけどそれを反論しようとするとバタフライエフェクトを説明する必要がある。具体的には一回目と二回目は違っていて当然ということの説明だ。

  けれどこれを言うと木霊はあることを自白することになる。それは何か。焦らしても仕方ないので言ってしまおう。


  「木霊、お前は僕と同じくタイムリープの能力を持っていたんだろう? だから僕がタイムリープしてることに気付き、妨害出来たんだ」


  静寂が訪れる。図星、とはいかないだろうがそれなりの動揺はあっていいと思う。こんなことを指摘できる人など他にいないのだから。

  「あはははっ」

  木霊は屈託なく笑う。いつも見てきた無邪気な笑顔。しかし今はそれがまるで嘲笑のように聞こえる。本当の木霊を知ってしまったからだろう。

  「計くん、突拍子もなさすぎるよ。そんなタイムリープなんてあり得ない」

  まあ、こんなもんだろう。否定されて当然だ。だけど机上の空論で終わらせてはいけない。これだけが木霊が元凶と決めつける鍵なのだ。


  「まあ、落ち着こう。すぐに化けの皮を剥がすから」

  すると木霊は一気に冷めた表情になる。それで動揺させるはずの僕が動揺してしまう。……いけない、いけない。深呼吸だ。

  「とは言っても根拠を探し出すことはできなかった。」

  僕はおどけてそう言う。木霊は相変わらず冷めた目。いや、ちょっと温度が下がったかも。けれどこれだけは言える。

  「探し出せなかったけど、木霊が根拠を僕に()()()()()

  「へえ」

  木霊は興味がなさそうだ。むしろそういうのを虚飾しているのかもしれないと思った。

 

  「さっきの僕が誘ったときの話で、木霊は一回目と二回目で全く異なる返事をした。始めはそうしたのには理由があるのかと思ったけどそうじゃないよね。ただのヒントだ。僕が木霊のタイムリープの能力に気づくかギリギリを狙っていたんだ」

  体が暑くなる。僕は冷静に努めようとするが、早口になるし、体も前屈みになる。……ああ、僕は怒っているんだな。

  「他もそうだ。無理矢理、袖を引っ張って誘拐を防がせないようにした。行動だけじゃない。言葉にも顕れている」

  もう止まらない。止まれない。ここで止まるなら僕にはなにも残されていない。

  「散歩してるなんて言ってないのに木霊は『計くんと同じ。ただの散歩』って言ったし、ああそうだ。

  今、思えば『計くんはずっと優しい』っていう言葉も本当にずっとだった。僕がしらない僕を君は知ってたからこういうことが言えたんだ!」

  言い切って、僕は木霊を見る。木霊はさっきと何も変わっていない。ただ静かに僕の言葉を聞いている。


  「そうだよ。私はあなたと同じタイムリープ能力を持ってる」

  あっさりと白状した。もう少し粘ると思ってたが、何か切り替えたようにすっぱり言った。

  僕は少なからず安心した。木霊はタイムリープの事実を匂わせていたなんてあまりにも馬鹿馬鹿しく、詰めが甘いものだと思った。だからこれまた根拠としては弱い。そういうことがあったのであまり長々とした説明はしたくなかった。

  ここで木霊は不敵に笑う。口角が上がり、口元だけが笑っていて目が笑っていない。……これこそ嘲笑だろう。

  そして突き付ける。


  「それが何?」


  衝撃を受けた。やけにあっさりとはしてると思ったがまさか開き直るとは。そんな衝撃をよそに木霊は更に言葉をつぐ。

  「私がループしてるからと言ってあなたには何ができるの?」

  何もできない。僕は既に終焉を迎えたのだから。

  「あなたは何もできない。私にはこれがあるもの」

  そう言って、床に投げ捨てられていた鞄からあるものを取り出す。

  黒光りしたフォルム。美しいと一瞬、思ったがその暴力的な魅力に心を惹かれただけだ。すぐにそれを見てぞっとする。

  銃だ。詳しいいうとたしかSIG SAUERというハンドガンだ。でもそれは日本の警察に配備されている拳銃だ。


  「なんでお前がそんなのを……」

  「情報っていうのは強いのよ。警察の都合が悪い情報流すぞーって脅したら、急に媚びてきてね」

  「警察……それは……」

  警察といえば心当たりがある。あの看板のことだ。それを訊こうとしたが、その前に木霊が何気なしに

  「この銃をもらったのもねだっただけだし、……あ、看板設置するように言ったのも私。あんな不可思議な看板立てるから大分、警察も困ってたけどね。あれは傑作だったなー」

  唖然とする。話せば話すほど異常が滲み出てくらくらする。何も返せずにいると、

  「まあこんな牽制する道具なんてなくても、君は()()()手を出せないと思うけどね」

  木霊がそう言い、にやっとする。

 

  僕は何も返せずにいる。本当に図星だったからだ。木霊にあまり悪い感情をもともと抱いていない。いや、それではふわっとした言い方でわかりづらい。なにより嘘だ。

  だからここで言う。


  「そうだよ。僕は木霊に手を出せない。……だって君のことが好きだから」


  木霊は目を丸くしている。告白したことに驚いたのかな? 確実にそれは違うと言える。木霊は僕がまさか好きだというのを言うとは思わなかっただろう。だからこんな表情なのだ。

  木霊は僕をヘタレとくらいは絶対に思っている。だからここでこう言うのは木霊の思考を止めるには十分すぎる。

  「えっ、えっ」

  あはは。木霊じゃないが悪い笑いが出てくる。言うならここしかない。一気に畳みかける。


  「僕は別に木霊に対してどうこうしようだなんて思わない。危害を加えるなんてそれはもう考えられないね。だから僕は教えてほしいだけなんだ」

  「それって……」

  おずおずと木霊は訊いてくる。なんだ。この心の動きを見たらなんてことはない。ただの一人の女の子だ。

  今までずっと強ばっていたでやろう表情やら緊張やらが抜けていく。この言葉もそのおかげで自然と出てきた。


  「僕は木霊のことをもっと知りたい。だから教えてくれないか? 木霊が今までどういう人生を送ってきたか」

 

 



幼なじみというのはなんか甘美な響きがあります。子供の頃からの付き合いなので全部、わかっているようで実はその無条件の信頼関係に甘んじている。そういうことがこの裏テーマになってます。

表テーマは明日更新の最終回できっとわかると思います。そちらの方も是非!

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