loop.11 THE PAST STORY sideB
私には人生を永遠にループする、そんな能力を持っている。
『例の廃ビル。次のループで』
「それって……」
それきり電話は切れてしまう。どうも計くんはそっけない。多分これは前の私が何かやらかしてしまったんでしょう。とは言っても全部それを覚えてるし、確信犯なんだけどね。
まあ仕方ない。これは次の人生のお楽しみにとっておこう。とりあえず今回は計くんと会っても、話しかけないようにしよう。刺されたりしたら大変だし。
それにしても計くんから電話が来るのは中々、珍しい。彼は根っからのアナログ人間で今時、高校生でそういうのを全くしないのはかなり異端。だから友達少ないんだよ。
まあこれも調教の結果かな。こうやって自分から異性に電話するなんて今までと比べれば大きな進歩だ。このまま彼がいい人生を送れるといいな。
どんなことを計くんは言ってくれるのかは楽しみだ。だけどそれを聞けるのはもっと、もっと先になりそうだ。こればっかりは自分の不自由さを恨む。
だけど私は好物は最後に残す派だ。なのである程度は我慢できる。それにこの不自由さもそれなりに慣れたし。
それにしてもやっとここまで来たかという感慨が強い。計くんとは子供時代の友人で、俗にいう幼馴染というやつでしょう。だからこそお互いの成長を見てきた。
計くんがここまでたしかな決意を持って何かをしようとするのは私の人生史上初めてかもしれない。やっと計くんが積極的になるのは、かなり感動。計くんが立った! と言えちゃうくらいにね。
私は一度、家に戻る。計くんに茶々を入れてあげようと思ったけど、怒られちゃいそうだからやめた。
そこであるものを見つける。計くんが待ち合わせの場所に指定した廃ビル。もっとも待ち合わせをするのは今回ではないのでスルーしようとする。
だけど一旦、立ち止まる。彼はここを思い出の地と感じている。私はどうだろう。まあもう飽きたかな。
あ、でも一つだけ覚えていることがある。その話を今日はしようかな。あれは確か廃ビルに入り込んで一ヶ月くらいたったころの話だな。
*
「なんか最近、一人でいること多いね」
そうすると計くんはあからさまに動揺する。こういう所が可愛いんだよなー。
「ま、まあね」
「なんで?」
「それは色々と、色々あるんだよ」
色々の内容はなんとなくわかるが、それを直接、言ってしまうのは可哀想だからやめておこう。でもここでなら言えるね。多分、私が「一匹狼な人ってかっこいいよね」と以前言ったからでしょう。全くミーハーだなあ。
計くんは流されやすい人だとはあまり思わない。クラスで何か決めるときも周りを見て手を挙げたりしないし、無理に話を合わせようともしない。決してKYという訳ではなく、自分の意志を持っているということでしょう。
でもそれには例外がある。それは多分、私だ。私がぽろっと何かを口走ると計くんはとりあえずあわめふためく。そして私に話を合わせてくる。
それがなんというものか私は名前を知っている。だけど私はそんなのに興味はない。しいて言うなら承認欲求くらいは満たされるけどそれだけ。もう飽きたし。
それ自体の興味はまるでないけど、それによる影響にはとても興味がある。私が何か言えば彼は忠実にそれに従うから。
だからついからかってしまう。今日はどんなことを言って慌てさせよう、そんなことを考えていると、
「そういえば今度の運動会どうする?」
「どうするって何が?」
正直、運動会ほど暇なものはない。彼らには運動会は少ないだろうからこうやって躍起になるのも仕方ないが、私にその理由はない。だからこんな返ししか出来なかった。
「いや、競技何に出るのかなって思っただけ」
ははーん。なるほど。何がしたいのか大体、わかった。だけどここでそれを言うのはフェアじゃない。彼には一生に一度の思い出になるかもしれないから。
「うーん、考え中。計くんは何したいか聞かせてよ。それに合わせるからさ」
そう言うと計くんはぱっと表情を輝かせて、私に歩み寄る。これまたかわいい。ショタコンではないけどそう思うのはいいよね。
「うん。じゃあ俺は綱引きにしようかな」
計くんは不安そうに訊いてくる。だけど私の答えはYESと決まっているので首を縦に振って、返事に代える。
するとまた計くんは笑顔になる。やっぱり子供は純真無垢だ。
それ以上に気になることがあった。計が一人称を「俺」と言ったのだ。
今までこんなことはなかった。私が知る限りではずっと「僕」だったはずだ。
たまにそういうのはある。いわゆるバタフライエフェクトというやつでしょう。基本的に歴史の収束性から結末は同じだけどね。
そうだ。今回はこれにしよう。そう思うのは私のいたずら心。言い換えれば幼稚な心だ。だけどこれがないと私は退屈に思う。
「おっ! 計くんが『俺』とはやっぱ男の子だねぇ」
「えっ、いや、そんな大したことじゃないよ」
計くんはとても照れ臭そうにそう言う。
そうだね。これは一人称にいちいち反応する私が絶対におかしい。けど正しさは本来、大人数で決めるものだ。今回は私とは計くんしかいない。なら正しさはより強く言ったものにある。
「やっぱり男子はこうじゃないと。オレオレが流行ってるらしいし」
我ながら酷い暴論だ。だけど計くんはこんな訳のわからない詭弁にもどこか嬉しそうだ。ここまでは容易に読めた。だからそれを見計らって、この一言を浴びせる。
「でも計くんに全然、合わないなー。やっぱり似合うのは『僕』だよ」
そう言うと計くんはぼけっと口を開け、なんか魂が抜けたみたいだ。心なしか顔色も悪い。
「そ、そうだよね。僕もそう思った……」
笑いが出そうになる。上手くいきすぎだと感じた。こんな他愛もない私の一言。それは計くんにとっては神の天啓と同じなのだ。
何も私は悪いと言ってない。けど合わないと言っただけでこの慌てよう。そしてすぐさま一人称を変えるあさましさ。これはもう効果抜群。最早、喜劇の域ね。
言霊信仰というのがある。言葉にすればそれが魂を持ち、あり得なさそうなものも徐々に実現していってしまう。彼は正にそれだ。
自分を否定し、私を肯定する言葉を無意識に発している。この時点でもう明確な差が生まれている。
それにも気づかないで彼は。
*
今でもこのことは私の中じゃお笑い草だ。だから唯一、鮮明に覚えている。これこそが計くんが私に敵わない絶対的理由でしょう。
今回、こうして真面目に話そうと言われたのは初めてだ。彼がどんな話をして私を楽しませるか、とても楽しみだ。けれどこれだけは言える。
計くんは私の予想を越えてこない。
彼の人格は完全とまでは行かないが、私に創られたものとも言える。私に囚われている。人を見て育った人間は人と同じことしか出来ない。独創性を産み出すには人と関わらないのが一番だ。
これはテストみたいなものだ。どれだけ私の思想が計くんに染み込んでいるかの。
彼がどんなことを見せてくるか私は楽しみだ。だけどそれはネタの分かる手品と同じ。自分は不思議にはまるで感じないけど、周りがわかっていない優越感の愉快さ。
彼の話がつまらなそうだけど楽しみね。
今回は木霊視点でのお話です。木霊は一見、普通だけど狂っている、そんな感じのキャラ造形です。
これを書いてるのが今までで一番、楽しかったですが性別が違うので難しいところもありました。
やっぱり小説を書くのは難しいです。




