第一章 真美の家にて
窓の外には、黒々とした深い闇。室内の電気が煌々と着いてるから、さらに暗く見える。
白木城家がある北塩原村は、本当に寒村だから、街灯もほとんどない。
「ふぁあ~あ」
わたしは、大きなあくびを一つすると、室内に視線を移した。
「じゃあ、みんないい?」
勉強机の前に座った真美がみんな―わたしとカンカンを見回して言う。今の真美は、真っ黒なパーカーとグレーのグロップドパンツ姿だ。
「いいわよ。」
「うん、OK」
わたしたちもうなずく。
「じゃあ、これを見て。」
真美がくるくると丸めた紙の束を出す。そして、車座に座った私たちの真ん中に広げた。
『おおー!』
わたしとカンカンが声を上げる。
「ちゃちゃっと描いたんだけどね。どう?こんな感じで。」
そこには、蒸気機関車の組み立て図面が描かれていた。
円筒形のボイラーにチムニーキャップ付きの優雅な煙突。シンプルだが手の込んだワルシャート式弁装置。図面で見ても、美しい機関車ということがわかる。
水タンクは、ボイラーの両脇に置くサイドタンクと板組の台枠内に収めるウェルタンク、動輪が三軸あるC型だ。
「これまで考えてたののサイズを智治さんの持ち込んだ部品に合わせてみた。CADを使えば簡単だったよ。」
「なるほど・・・・・・ボイラーをオフセットすることによって重心を低くし、安定性を高めたのね。なかなかやるじゃない。」
カンカンがぼそりとつぶやく。ちなみに、今のカンカンは白地にコバルトブルーの水玉模様のパジャマを着ている。これは、今夜は沼鉄会JC組のお泊り会だからだ。
「サイド、ウェルタンク両方装備することによって、少ない給水回数で長距離を走れるんだね。これはなかなかいいかも。」
わたしもつぶやく。
「でしょ!と、いうわけで、さっそく動輪を作ろうかなって思います。」
「はぁ!?」
真美が高らかに宣言し、カンカンがあきれたような声を上げる。
「もう動輪作り始めるって、動輪だけの設計図とかはあるの?」
わたしの問いに、真美が笑って答える。
「大丈夫ダイジョーブ!この機関車はわたしが前々から構想してたヤツで、すでに図面はできてるの、そして・・・・・・・・・」
真美が、自分のノーパソを持ってきた。カンカンがディスプレイを読み上げる。
「『拝啓 晩秋の候、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、蒸気機関車動輪三対の鋳物をご発注いただき、誠にありがとうございます。
あと三か月ほどで完成し、納品できるものと思われます。料金のほうは先にお支払いいただいておりますので、元払いで送らせていただきます。お届け日時は、また日を追ってお知らせいたします。
敬具』・・・・って何よこれ!」
「もうすでに発注しちゃったんだ~!」
真美があっけからんとして言う。
「さすがお金持ちの社長令嬢。やることが違うねぇ。」
わたしが言うと、真美は預金通帳を出した。
「部品製造の外注は、もうすでに全部出してあるからね!お金は全部わたしが白木城運送の経費から出させるよ。」
さすが社長令嬢、お金のスケールがわたしたちとずれてるのかな?しかも、会社の金出させるって、それはいくらなんでもまずいような・・・・・・・・・・・・・
「わたしたちも少しは出そうね・・・・・・・・」
「だね・・・・・・・・・・・」
こっそりささやきあうわたしとカンカンだった。
一方の真美は、うきうきして話し続ける。
「わたしたちの夢を詰め込んだ世界に一つだけの機関車!ああああああああ!萌える~!」
立ち上がると、部屋の中をぐるぐる歩き始めた。
「智治さん、国鉄蒸機の動輪削正にも使える大型旋盤持ってきてくれたから、まずはそれの整備だね。と、いうわけで大和!カンカン!明日は早いよ!と、いうわけでお休み!」
自分のベッドにもぐりこむ。
「真美!真美~!」
「スゥ~、ピ~・・・・・・・・・・」
カンカンが起こそうとするけど、真美はすぐに夢の国に行ってしまった。
「真美、寝ちゃったね。まあ、寝顔もかわいいけど。」
「そうね。でも・・・・・・・」
カンカンが周りを見回す。
「このベッド以外、寝れるとこないよね。どうする?」
「どうしようか・・・・・・・・・」
この部屋にあるベッドは、今真美が入った一つだけ。そのほかは、タオルケット一枚すらない。
ボーン、ボーン、ボーン・・・・・・・・・・・・
階下の大時計が、十二時の鐘を鳴らし始めた。
この後、三人仲良く同じベッドで寝たそうです。