表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンタクロース隊  作者: 彩葉 軀
3/3

平然

「──何……これ……!?」


 サラは驚愕のあまり、そう発してしまった。

 そして、その事実を信じ難いサラは、シェリルのカバンを漁り続けた。罪悪感などうに忘れて。


「……何をしているのかね……?」


 その様を目撃した何者かが、サラに問うた。

 背後からのその声に振り返ると、

 あの真っ赤な服を全身に纏った、少し若めのサンタクロース、クリスだった。


「えっ、あっ、その……」


 これはまずい、サラは思った。

 先輩のバッグを漁ってましたなんて、口が裂けても言えない。

 ましてや今日は出勤初日だ。いくらサンタクロースだとは言え、仕事は仕事、解雇(クビ)にされたっておかしくない。


 だが、サラの頭はここで機転を利かせた。

 ここはむしろ、助かったと言うべきかも知れない。

 思考はその結論にたどり着いた。

 何故ならば、この状況の背景、経緯を語り、信じてもらえるサンタは、唯一彼くらいだからだ。


「シェリルさんのバッグから、こんな物が……」


 サラは、手に持っていた、写真の切れ端を見せながら言った。

 クリスは眉間に皺を寄せ、いかにも怪しんでいる顔をしながらサラに歩み寄り、その手に持つものを受け取った。


「シェリルさんの親友の写真があるって聞いて、こっそり覗いちゃったんです。ごめんなさ──」


「これの他の部分はあるのかい……?」


「えっ?」


『ごめんなさい』と言い切る直前に遮られたサラ。

 対してクリスは、青ざめた顔で問い質す。


「これは一大事になるかも知れない……!ほかの部分を出してくれないか……!」


「わ、わかりました……!」


 クリスの言う『一大事』が何か判らず、サラも戸惑う。

 そこへ。


「……どうしたんですか……?」


 遅れて仕事を終わらせたシェリル本人が、更衣室に姿を現した。


「クリスさんも一緒して、何を……?」


「……君、これは……?」


 余計な前置きや挨拶はせず、本題に入るクリス。

 その手にある物を目にして、シェリルもまた、顔色を豹変させ──なかった。


「写真です。親友のキルスティンと……その彼氏(ボーイフレンド)……ですが何か?」


「何か……ではないよ。キミ……この写真は、どうして破られているんだい……?」


「何故ってカンタンなことですよ、クリスさん……」


 シェリルが平然とした表情で答えた言葉に、


 サラとクリスは戦慄した。



「──プレゼントを贈る人の顔を、


 忘れない為ですよ」



「……!フェアリー!誰でもいい、フェアリー!」


 クリスは我に返ると、更衣室の戸の向こうの工場に向かって叫んだ。

 声を裏返させながら。


「この……シェリルを!


 今すぐここから、追い出せーッ!──」





「──はあーあ」


 夜のロンドンの住宅街の隅に、白い息が舞った。


「……上手くいかなかったなぁ……今年なら行けると思ったのになあ……」


 シェリルは、猫背になりながらその閑静な空間を歩いていた。



 ──シェリルは、嘘はついていなかった。

 サラに対して、過去にあったことを確かに伝えた


 しかしそれは、あくまで断片的なものだった。

 彼女が、『サンタクロース隊』に入る理由になったのは、親がいないに同然だったことではない。



 彼女が18歳の夏、初恋をした。

 親友、キルスティンの学生仲間、サンダー。

 天真爛漫なその性格に、一目惚れに近い形で惹かれた。

 キルスティンとの仲を変えないまま、彼女はサンダーとの距離を徐々に縮めた。

 それを4ヶ月……12月が23日過ぎるまで続けた。

 そうして迎えた、12月24日、午後11時42分。


「ねぇ、サンダー」


 奮発して予約した高級レストラン。

 ロンドン全部の夜景が見える特別席で、彼女は意を決した。


「あたし、あなたの事が──」


 プルルルル……


 シェリルの決意を()(にじ)るように、告白を妨げる、携帯電話の音。


「ゴメン、ちょっと」


 サンダーは電話に出た。

 もしもし、何度かの挨拶、OKの声。

 2分弱の電話の末、サンダーは(おもむ)ろに席を立った。


「え、ねぇ、どこ行くの?」


「ちょっと別件でな」


「誰からの電話?」



「キルスティンだよ」



 サンダーが何気なく答えたその一言が、シェリルの脳内でエコーのように響いた。


「シェリルには伝えてなかったが……実は、一昨日(おととい)告白されたんだ。

 黙っててごめんな」


 無邪気に笑うサンダーに、シェリルは笑顔を向けた。



「私はあんたの恋を応援するよ!シェリル!」



 ああ言っていたキルスティンの顔は、

 クリスマスの夜空を彩るあの花火のように、儚く散った──。



 二人の写真は()()()しまった。

 その恋が憎くて。

 だから代わりに、プレゼントをあげよう。

 その時に、こっそり包みを借りよう。

 シェリルは働きながら思っていたのだ。



 キルスティンとサンダーに、



 “弾ける赤”のプレゼントを、包む為の。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ