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サンタクロース隊  作者: 彩葉 軀
1/3

面接

クリスマス特別連載短編です!

聖なる夜に、少しでもお楽しみ頂ければと存じます!

「──ええ……と?まず名前と出身地を教えてくれるかな」


「はい!」


 女は高らかに声を上げ、自らを紹介した。


「サラ=ターナー!19歳!ロンドンで育ちました!」


 日頃なら見せない威勢で、自分の名を叫んだ女──サラの前に座るのは、


「ホッホッホ……元気が良いのう」


 と笑う、裏の顔の無さそうな、ヒゲモジャのおじいさんと、


「そうですなぁ。元気が良いのは素晴らしい事ですじゃ」


 と同調する、少し面長の、髭の豊富なおじいさんと、


「随分と輝いた目をしてなさる……それに若いのう」


 と感心する、くるくると渦を巻く髭が特徴的なおじいさんと、


「うーむ……」


 と、そのたっぷりの髭の一部を触りながら、サラの出した履歴書(レジュメ)を見つめる、他の3人に比べてやや若く見えるおじいさん。

 以上4人である。

 年配の男性特有の臭いが、机と、彼等が対面して座っている椅子を始めとした、必要最低限の家具しかない部屋中に充満しているが、この四人を前にしているサラの緊張度に比べれば、どうということはない。


「何を悩んでおるのじゃ、クリス君。このご時世、若い者が来てくれるだけで素晴らしいことではないか」


「しかしですな、ロディさん。このような件は、3年前の“彼女”以来、例がない。慎重に審査せねばなりません。それにこの面接(インタビュー)は、きちんと手順を踏んでやらねばならないのですぞ」


 くるくる髭のロディが、(しわ)のやや少ないクリスと呼ばれる人に言う。

 クリスも怒ってはいないが、けれども困っている。


「なあに、これだけ元気が良ければ、他の皆も許可して下さるじゃろう。わしらの仕事は元気が第一。じゃろう?マークさんや」


「その通りでございますなあ、サイモンさん。他の皆さんは優しいですからのう」


 たぶんこの4人の中で一番偉いのであろうこの方がサイモンで、面長のこの人がマークか。

 後々上司になる方々だ、覚えておかないと。

 サラは念入りに彼らの話に耳を傾けていた。


「……勿論ワタシもこう言いたいのだが、面接(インタビュー)面接(インタビュー)。一応、順序通りに行くぞ」


「はっ、はい!よろしくお願いします」


 サラが何か言う度に、サイモンやロディは、ホッホッホと笑う。彼らのふくよかなお腹が浮き沈みする様は、見ていて楽しい。


「では……君はいったいどうして此処に?」


「動機、ということでしょうか……?」


「そうとも言う」


「…………」


「……?どうなさった?」


 マークがサラの顔を覗き込む。

 後から真似するように、他の皆も。


「……実は……」


「……はっきりとした理由が、無いのかね……?」


「い、いえ!そんなことは決して!」


「ではどうして……?」


 他の3人には無いような(しか)(つら)でサラを見るクリス。

 サラはその目を見られなかった。


「……孤児院育ちなんです。親が私を()てたんです。

 その頃に、私は毎年、皆さまの仕事にとても喜んで、勇気も貰いました。

 だから今度は、私が彼らに……孤児院の子供たちに勇気をあげたいから……!」


 なるべく簡潔であることを心がけ、鮮やかなブロンドヘアの少女は理由を述べた。

 彼女は、この事実を話した時の他人の目が嫌いだった。恥ずかしいとかではない。

『かわいそう』、『悲しそう』。そんな目で見る人々が憎かったのだ。

 今まで誰一人として、真に親身になってこの話を聞いてくれる人はいなかった。どれだけ涙を流そうと、語気に強弱や抑揚を持たせようと、所詮は他人事(ひとごと)止まり。

 そして彼女は、演技ではない涙を流すのに疲れ、そんな自分が恥ずかしくなり、そもそもボロボロと泣いてしまう程辛い話をしたくなかった。

 だから初め、彼女はクリス等の質問を断ったのだ。


 しかし、今回は違った。

 話し終わったサラが、涙を見せないようにと俯いていた顔を上げた。すると、


「な…………なんと悲しい子じゃ……おお……」


 とマークさんは唖然とした顔をして彼女の方を見ており、


「ううっ……おーう……おう…………」


 と、声にならぬ声が聞こえたので何かと思い、マークの隣を見てみると、

 サイモンが、『ぐしゃぐしゃ』なんて言葉では片付かない程の泣き顔でサラを見ていた。

 彼女がたじろいでしまうくらい。


「……それは本当に、辛いことを話させてしまったなぁ。詫びよう」


「い、いえ!あ、頭をお上げくださいっ!」


 クリスが頭を下げ見せた頭髪も、やはり4人の中で唯一黒かった。

 サラはそのクリスに頭を上げるよう頼む内心、とても嬉しかった。

 こんな表情を自らに向けてくれた人々は、本当に初めてだったから。


「そして……サラ、君はもう話さなくて構わない」


「え……?」


 顔をサラに見せぬまま、クリスはそう告げた。

 サラはその言葉の意味が掴めず──或いはそれを恐れて掴もうとせず──戸惑っていた。

 しかし、その次のクリスの言葉は、サラにとって、良い意味の裏切り行為をしてくれるのだった。


「合格だ。君にこれ以上、聞かなければならないことも無い。

 この面接(インタビュー)は、ロディさん達の言う通り、終わっても良かったんだ。君の採用不採用の判断は、書面審査でほぼ終わっている。ここに来られる招待状を送るのは、書類選考を見事突破した1名にしか贈っていないのだよ」


 自らの採用と、その理由を聞いたサラの顔は、一気に晴れやかになった。

 念願の夢が、遂に叶ったのだから。


「おめでとう、サラ=ターナー君」


 くるくるカールの髭を撫でつつそう言うロディ。


「ホッホッホ、君は今日より晴れて」


 縦に長い顔の満面に浮かぶ笑みと共にサラに言うマーク。


「私たち」


 サイモンがそう言った直後、練習していたようにピッタリと揃った言葉を以て、彼ら面接官(インタビュアー)達は、サラを歓迎するのだった。




『サンタクロース隊の一員じゃ──!』

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