面接
クリスマス特別連載短編です!
聖なる夜に、少しでもお楽しみ頂ければと存じます!
「──ええ……と?まず名前と出身地を教えてくれるかな」
「はい!」
女は高らかに声を上げ、自らを紹介した。
「サラ=ターナー!19歳!ロンドンで育ちました!」
日頃なら見せない威勢で、自分の名を叫んだ女──サラの前に座るのは、
「ホッホッホ……元気が良いのう」
と笑う、裏の顔の無さそうな、ヒゲモジャのおじいさんと、
「そうですなぁ。元気が良いのは素晴らしい事ですじゃ」
と同調する、少し面長の、髭の豊富なおじいさんと、
「随分と輝いた目をしてなさる……それに若いのう」
と感心する、くるくると渦を巻く髭が特徴的なおじいさんと、
「うーむ……」
と、そのたっぷりの髭の一部を触りながら、サラの出した履歴書を見つめる、他の3人に比べてやや若く見えるおじいさん。
以上4人である。
年配の男性特有の臭いが、机と、彼等が対面して座っている椅子を始めとした、必要最低限の家具しかない部屋中に充満しているが、この四人を前にしているサラの緊張度に比べれば、どうということはない。
「何を悩んでおるのじゃ、クリス君。このご時世、若い者が来てくれるだけで素晴らしいことではないか」
「しかしですな、ロディさん。このような件は、3年前の“彼女”以来、例がない。慎重に審査せねばなりません。それにこの面接は、きちんと手順を踏んでやらねばならないのですぞ」
くるくる髭のロディが、皺のやや少ないクリスと呼ばれる人に言う。
クリスも怒ってはいないが、けれども困っている。
「なあに、これだけ元気が良ければ、他の皆も許可して下さるじゃろう。わしらの仕事は元気が第一。じゃろう?マークさんや」
「その通りでございますなあ、サイモンさん。他の皆さんは優しいですからのう」
たぶんこの4人の中で一番偉いのであろうこの方がサイモンで、面長のこの人がマークか。
後々上司になる方々だ、覚えておかないと。
サラは念入りに彼らの話に耳を傾けていた。
「……勿論ワタシもこう言いたいのだが、面接は面接。一応、順序通りに行くぞ」
「はっ、はい!よろしくお願いします」
サラが何か言う度に、サイモンやロディは、ホッホッホと笑う。彼らのふくよかなお腹が浮き沈みする様は、見ていて楽しい。
「では……君はいったいどうして此処に?」
「動機、ということでしょうか……?」
「そうとも言う」
「…………」
「……?どうなさった?」
マークがサラの顔を覗き込む。
後から真似するように、他の皆も。
「……実は……」
「……はっきりとした理由が、無いのかね……?」
「い、いえ!そんなことは決して!」
「ではどうして……?」
他の3人には無いような顰め面でサラを見るクリス。
サラはその目を見られなかった。
「……孤児院育ちなんです。親が私を棄てたんです。
その頃に、私は毎年、皆さまの仕事にとても喜んで、勇気も貰いました。
だから今度は、私が彼らに……孤児院の子供たちに勇気をあげたいから……!」
なるべく簡潔であることを心がけ、鮮やかなブロンドヘアの少女は理由を述べた。
彼女は、この事実を話した時の他人の目が嫌いだった。恥ずかしいとかではない。
『かわいそう』、『悲しそう』。そんな目で見る人々が憎かったのだ。
今まで誰一人として、真に親身になってこの話を聞いてくれる人はいなかった。どれだけ涙を流そうと、語気に強弱や抑揚を持たせようと、所詮は他人事止まり。
そして彼女は、演技ではない涙を流すのに疲れ、そんな自分が恥ずかしくなり、そもそもボロボロと泣いてしまう程辛い話をしたくなかった。
だから初め、彼女はクリス等の質問を断ったのだ。
しかし、今回は違った。
話し終わったサラが、涙を見せないようにと俯いていた顔を上げた。すると、
「な…………なんと悲しい子じゃ……おお……」
とマークさんは唖然とした顔をして彼女の方を見ており、
「ううっ……おーう……おう…………」
と、声にならぬ声が聞こえたので何かと思い、マークの隣を見てみると、
サイモンが、『ぐしゃぐしゃ』なんて言葉では片付かない程の泣き顔でサラを見ていた。
彼女がたじろいでしまうくらい。
「……それは本当に、辛いことを話させてしまったなぁ。詫びよう」
「い、いえ!あ、頭をお上げくださいっ!」
クリスが頭を下げ見せた頭髪も、やはり4人の中で唯一黒かった。
サラはそのクリスに頭を上げるよう頼む内心、とても嬉しかった。
こんな表情を自らに向けてくれた人々は、本当に初めてだったから。
「そして……サラ、君はもう話さなくて構わない」
「え……?」
顔をサラに見せぬまま、クリスはそう告げた。
サラはその言葉の意味が掴めず──或いはそれを恐れて掴もうとせず──戸惑っていた。
しかし、その次のクリスの言葉は、サラにとって、良い意味の裏切り行為をしてくれるのだった。
「合格だ。君にこれ以上、聞かなければならないことも無い。
この面接は、ロディさん達の言う通り、終わっても良かったんだ。君の採用不採用の判断は、書面審査でほぼ終わっている。ここに来られる招待状を送るのは、書類選考を見事突破した1名にしか贈っていないのだよ」
自らの採用と、その理由を聞いたサラの顔は、一気に晴れやかになった。
念願の夢が、遂に叶ったのだから。
「おめでとう、サラ=ターナー君」
くるくるカールの髭を撫でつつそう言うロディ。
「ホッホッホ、君は今日より晴れて」
縦に長い顔の満面に浮かぶ笑みと共にサラに言うマーク。
「私たち」
サイモンがそう言った直後、練習していたようにピッタリと揃った言葉を以て、彼ら面接官達は、サラを歓迎するのだった。
『サンタクロース隊の一員じゃ──!』