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2:野宿

 道から少しそれた場所にあった空き地に、薪を積んでいく。

 周りは森だから薪なんてすぐに集まる、なんて思っていた私は、一時間くらいかけてラベンダとシロツメさんが薪を持ってきた時は仰天した。

 どうやらこの辺りの森の地面には全く光が当たっていないので、地面に落ちている枝は湿ってしまっていて火を点けられないのだそうだ。

 戻ってきた二人はすぐに、更に薪を持ってくるために森の中に戻っていってしまった。

 それからしばらく経つ。もう二時間は経っただろうか。まだ明るいが、陽光は高い木に遮られて地面に当たっていないため、薄暗く感じる。

「ねえサザンカ、火、点けようよ」

 少し離れた所にいるサザンカは、読んでいた本から視線を上げた。

「もう少し経ってからのほうが良いわよ。この辺りだと薪は大事に使わないと」

 彼女は本を閉じて、こっちに寄って来た。

「それに、こんな細い薪だと、すぐに消えちゃうでしょ。夜が短い時期とは言っても、まだ十二時間は点けていたいわ。それにしても二人とも遅いわね。大丈夫かしら」

「大丈夫でしょ、さっきも帰ってきたんだから」

「まあ、迷いはしないと思うけど。結構視野は開けてるし。だけど、それが逆効果になる事もあるのよね」

「逆効果?」

「そう。まあフロウ国はどちらかと言うと平和な国ね。北は山脈、それ以外の周りを海に囲まれているから。魔物もわざわざここまで来るとは思えないけど、獲物が見つけやすいから」

「魔物」

「そう。ちなみに、魔物っていうのは」

「知ってるよ、それくらいは。学校で習ったもん。動物の中で特に必要以上の狩りをするもの、でしょ」

「まあ、一般的にはね。でも、定義に関してはこう言う専門家の方が最近は多いわ。高い知能を持った動物のうち、人間に危害を加えるものの総称が魔物だってね。人間に危害を加えないものは、例えば妖精が有名かな。まあでも、その辺は今でも議論が分かれてるのよ」

「えっ。妖精って、架空の生き物じゃないの?」

「本当にいるのよ。ちゃんと科学的資料も揃っているわ。正確には昆虫のうち高知能かつ無害のものを妖精って総称するわね。童話に出てくる妖精は小型の人間に羽が生えたような感じだけど、その元になったのは蝶々の妖精だったかな。その科学用語がいつの間にか童話に出てくるようになって、架空のものとしても使われている、というだけよ」

「知らなかったな」

 突然、後ろからラベンダの声がした。

「ラベンダ」

 驚いた拍子に、大声を出してしまった。

 後ろを振り向くと、笑っているラベンダとシロツメさんがいた。ちょっとむっとする。少し眉にしわが寄ったかもしれない。

「まあ、そうやって落ち込むな」

 ラベンダは優しく励ましてくれた。別に、落ち込んではいなかったけど。

 よく見ると、薄暗い中に立つラベンダは、とてもかっこよかった。

「さあ、今夜分の薪を持ってきましたから、夕食にしましょう」

 気を取り直すように、シロツメさんの声を聞いて立ち上がった。

 疲れただろう二人に休んでもらっていて薪にマッチで火を点けると、私とサザンカで簡単な料理をする。

 料理と言っても、いつも家で食べるようなものが葉っぱに包まれているだけだったので、すぐに準備が終わった。

 焚き火に戻ると、二人は楽しそうに話していた。

「何話してたの?」

 私の質問に、シロツメさんが答えてくれた。

「私がランやサザンカに付いてきた理由ですよ」

 そんな事かと思いながら、手に持った二人分の料理をシロツメさんに渡し、隣に座る。

 サザンカはラベンダに渡して、私の隣に座った。

「それでは、食べましょうか」

 シロツメさんに対してサザンカが言う。

「そうそう、せっかく旅に出たのだから、趣向を凝らしましょうよ。例えば、そうね、ナデシ国では、食事をする前に、いただきます、と言うそうよ」

「いただきます?」

 私が聞いた。

「そう。この料理を作ってくれた人に、そして、この材料を作ってくれた人に、感謝の気持ちを込めて、いただきます、って言うそうよ」

 それぞれ、小声でいただきますと言っている。

「悪くないな。長すぎないのがいい。それにしよう」

 ラベンダの声に、私達は賛成する。私も食事前の挨拶は長いと思っていたのだ。

「それでは、食べましょう」

 さっきと同じように言ったシロツメさんの言葉に答えるように、言う。

「いただきます」

 四人の声が、薄暗い森の中に溶けていった。


 夜は段々と深まっていき、食事が終わった頃には真っ暗になった。焚き火の周りと空だけが明るい。

 星空だった。

「これなら、明日は晴れるな。せっかくだから、海に行ってもいいんじゃないか」

 ラベンダの提案に、私は胸が躍った。

「確かに、いいかもしれません。ここからなら、歩いても大した距離ではないはずですし、明日の日没前までにはカタバミに着いているでしょう」

 シロツメさんの賛同する意見のあと、サザンカの不満そうな声が聞こえた。

「本当に、行くの」

「あっと、サザンカは泳げないのでしたね」

 そうだった。私が学校三年生の時にサザンカが転校してきて、その日に水泳の授業があったのだ。そこで溺れそうになっていたサザンカを思い出す。サザンカは勉強ができても運動は全般的に苦手だった。

 だが、ここで食い下がっては海で泳ぐ事ができない。

「サザンカは海辺にいればいいのよ。そうすれば大丈夫。泳がなくってもいいんだから」

 そう私が言ったものの、サザンカは不満そうだった。

「まあまあ、泳がなくてもいいのですよ。そう長居する事もありませんから」

 シロツメさんが微笑みながら言った。

 サザンカは渋々といった感じで頷いた。

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