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プロローグ5

 ランを連れて図書室に来たものの、なかなか読みたい本が見つからなかった。

「ねえ、サザンカ、まだ?」

「うん。もうちょっと待って」

 早くしたほうが良いのかもしれない。そう思い、手近にあった『物質の原子説』という本を抜き出した。

 駆け足でテーブルに戻る。

「何持ってきたの」

「これ」

 そうして見せた本に、ランは難しい顔をした。

 本をテーブルに置いて、ランの隣に座る。

「何、これ」

 私の好きな自然分野ではあるが、物質に原子、いわゆる最小単位があるとは思えなかったため、この手の本はずっと読んでなかったのだ。

「ランには、多分すっごく難しい本よ。簡単に言うと、このテーブルを細かく千切っていくともうそれ以上は千切れないものが出てくる、っていう仮説」

 ランの頭の上には、疑問符が浮かんでいる、ように見えた。もちろんそんな事は無い。

「逆に考えると、微小の物が集まってこのテーブルができている、っていう仮説。その微小の物を原子と呼ぶ、らしいわ」

 その時、図書館の扉が開かれた。そこからシロツメさんと茶髪の少年が入ってきた。ランも振り向いている。

「あちらでございます、ラベンダ王子」

「おお、そうか」

 王子と呼ばれた少年は、こちらにつかつかと歩み寄ってきた。

 ランからは、わずかに殺気が感じられた。

 テーブルの前で立ち止まる。

「お前がランか」

 私を指で指して言う。人を指で指すなんて、しかも間違えるなんて、失礼にも程がある。

 だが相手は王子だ。失礼をしてはいけない。

「いえ、私はサザンカです」

 私が言い終わる直前、王子は書棚に飛んでいった。

 背中をぶつけ、少しだけ呻き声が聞こえてくる。

「ラン、やめた方が」

「そうですよ、相手は一国の王子であります。怪我をさせるのは」

 私とシロツメさんの忠告も聞かず、鬼の形相で王子に近寄る。ちなみに鬼とは、ナデシ国の十二支という考え方で丑寅の方角、つまり北東にいるとされる、恐い妖怪である。その国の御伽噺にもよく出て来るそうだ。

「私の、成人の日を、よくも、ぶち壊しにしてくれたわね。しかもサザンカを私と間違えるなんて。絶対に、許さない」

 どすの利いた声、とでも形容しようか。だが王子は気にする様子も無く爽やかな顔をランに向けた。

「そんな顔をしていても、可愛いよ、ラン、さん」

 ランは左手を軽く振る。たったそれだけで、王子の体は左にすっ飛んでいった。

「サザンカ、帰ろ」

 気絶したように見える王子を放っておくわけにもいかないが、ランをこのままにしておくのも危険だ。

「シロツメさん、王子のことをよろしくお願いします」

「かしこまりました」

 シロツメさんは王子のほうへ素早く駈け寄っていった。もとからそうするつもりだったのかもしれない。

 私はそこから視線を外し、今にも図書室を飛び出しそうなランを取り押さえに行った。

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