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37:旅館

「よう、櫻さん。久し振りに来たぜ」

「あら大犬さんではないですか。主人を呼んできましょうか?」

「いや、後でいいさ。今は部屋のほうに案内してくれ」

 いきなりナデシ語で話されたものだから、私ですら理解するのに数秒を要した。ランに至っては理解すらできていないだろう。

「では、こちらへどうぞ」

 女将の櫻さんはフロウ語でそう言うと、私たち中に招き入れた。

 靴を脱ぐように言われ、そうしてから木張りの床に上がり、二階に上がった。

 二階には部屋が二つあって、男女が別れて泊まる事になった。

 私とランが入った部屋はナデシ国の雰囲気が溢れるいわゆる和室という部屋だ。多分、シロツメさんたちが入った所も似たような造りになっているのだろう。

 およそ33000平方ミリピンチ、つまり十畳ほどの広さで、奥の窓からはテューダ海が一望できる。

「靴、履かないと変な感じ」

 基本的にこの辺り西北地域では寝る時以外は靴を脱がないため、違和感が出るのは当然の事だと思った。

「ねえ、ランの術を使える人の事は菫さん達に任せておいた方が良いわよね」

 私の質問に頷いて答えるラン。

「それなら術の練習でもしてみたら?」

 こう提案してみたのだが、首をかしげてランはこう答えた。

「ここに来る間も何度か風を起こそうと試してみたんだけど、何と無く掴み所が無い感じがして、うまくいかないの」

「それは?」

「うーん、何て言うんだろう。扉を開けようとしたら先に開けられちゃって、体勢を崩しそうになる感じ、かな」

「そう」

 それは、分子のvの二乗の総和は0になるが、vバーの二乗の総和は0にならないという事だろうか。

 全体的に動かそうとするとランの力は分散されてほんの僅かしか効果が得られないのだろう。逆に局所的に動かそうとすると操作が難しいのかもしれない。

 だが、局所的に動かせないと次の段階に行くのは難しいだろう。

「それならね、まずは一つの分子だけを動かすことに集中して」

 これが無理難題であることは重々承知している。

 だが、これができるに越した事は無いのだ。

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