34:風
「へー。そんな事があったんだ。それで、お礼は?」
そこまで聞き終わって、そう聞いてみた。
夕食はもう食べ終わっている。
「家に招待してくれて、紅茶とケーキを食べた」
「良いなー。私も食べたかった」
ケーキは高級品だ。私は一度も食べた事が無い。
「それで、その人の名前は?」
サザンカが大切な事を聞くと、ラベンダはうろたえた。
「え、えっと、シロツメさん。何でしたっけ?」
「私は聞く必要が無いと思ったので聞きませんでした。向こうも聞いてきませんでしたから」
そこで話は終わったようだった。
「ところで、ラン」
「はいっ」
急にサザンカから私の名前が出てきてびっくりする。
「驚かなくても良いでしょ。それよりも、夕方、水の球を作った時、余裕があるって言ってたわよね」
「うん」
「それじゃあ、水で立方体は作れる?」
「やってみる」
コップに残っていた水に想像を送る。一辺が5ミリピンチ弱のさいころ。
その想像は、難なく目の前に現れた。
「凄い。これができたなら、次の段階に行けそうね」
「段階?」
私は水のさいころをそのままにしたまま聞いた。
「そう。私ね、ランの術をいくつかの段階に分けてみたの。それで、次の段階は風よ」
「風」
「そう、風。空気を動かすの。ここは室内だから外に出た時にやればいいと思うけど、ランなら出来るはずよ」
確信した声でそう言った。
「ちょっと良いかい。これからの事なんだけどよ」
菫さんが突然言う。
「気になる噂を一つ聞いたんだが。あたい達の仲間の旅商人にな、ランちゃんがやる術と良く似たのを起こせるっつー人がいる、っつー話を聞いたって奴がいてな」
「本当ですか?」
「まあまあ、落ち着け。言っておくが、信憑性は低いんだ。参考までに、話しとこうと思ってな。参考までに、だ」
私と、同じ術を使える人。
会ってみたいような気がする。
「私、行きます。どこにいるんですか、その人」
「ケルプらしいんだ。ブルベリじゃあ、最北の港町になる。ここから近い。半日足らずで着くぞ」
「皆、行っても良いよね」
それぞれ、頷いてくれる。
「菫さんと大犬さんは?」
「あたい達は別に急いでるって訳でもねえし、旅は道連れ世は情けってんで、付いてく事にするよ、な大犬」
「うむ」
「有難うございます」
こうして、私はその人に会いに行くことになった。




