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21:平行世界

 もう、大分歩いた。

「アカンス国まで、あとどれ位なの?」

 今は野宿の準備中だった。

「国に入るまで、二十日かな。その頃には収穫月メッシドールに入っているな」

 隣にいるラベンダが答えた。私は枝を折ってはいるが、木には登っていない。

 しばらく枝を貯めていると、ラベンダが急に聞いてきた。

「なあラン、なんで旅をしてるんだ?」

 私はしばらくその質問に答えられなかった。いや、答えたくなかったのかもしれない。

 そして、やっと出てきた言葉はこういうものだった。

「うーんと、忘れちゃった」

 顔は笑っているだろうか。引きつっているかもしれない。

 でも、本当の事は言いたくなかった。

 ラベンダはそれで納得してくれたようだった。それを見てほっとする。ちょっとの罪悪感は、大きな安堵によって打ち消されてしまった。

「そうか」

 そう言ったきり、黙っていた。



 夕食を食べ終わった後、私はサザンカに気になっている事を聞いてみた。

「ねえサザンカ、ちょっと聞いてもいいかな」

「何?」

「レイアさんが言っていた、平行世界って、実在するの?」

「それは、伝説上ならば確かに存在はしているわ。だけどこの現実となると、証拠不十分ね。悪魔の証明みたいに、有るとか無いとか言うのは簡単だけど、それを示す事ができないのよ」

「悪魔の、証明?」

「悪魔がいるかいないかを問題にした時に、存在しないと言う立場の人は何もしないで、存在すると言う立場の人が悪魔がいるとのみ証明すれば充分だ、という考え方よ。身近なものにたとえると、例えば、カラスは皆黒い色をしているという事を証明しようとしたときは、この世界にいる全部のカラスを示さなくてはいけなくて大変になるの。でも、カラスは皆黒い色をしていないと言う事を証明しようとする時は、ただ一匹でも黒くないカラスを示せば充分なのよ。つまり、賛成する側か、あるいは反対する側の証明が非常に難しいときには、その逆の立場の人が証明をするべきだ、という事。実は、黒くないカラスはいるけどね」

「そうなんだ。それで、平行世界は存在するの?」

「さっきも言った通り、不確かだから、私は何も言えないわ。ただ、まあこれも同じ事なんだけどね、レイアさんが魔法使いかどうかも」

 そこで急にサザンカの言葉が止まった。

「どうしたの?」

 と聞いてみるが、返事がすぐに返ってこない。

 シロツメさんも私を見て少し驚いているようだった。滅多に変わらない顔が、微妙に変わっている。

「ラン、魔法って、言われても、大丈夫、になったの?」

 サザンカから途切れ途切れに紡ぎだされた言葉に、自分自身が驚く。

 魔法、マホウ、まほう、魔、法。

 考えても嫌な気持ちがほとんどなかった。

「魔法、て言っても、大丈夫、になったみたい」

 髪の毛を手でだらしなく掻きながら、照れ笑いをする。何に照れているかは自分でも分からなかったが。

 レイアさんの話をした時には、本当はもう言えたのだろう。ただ、条件反射で言わないままだったから気付かなかったのかもしれない。

「そう。それは。良かったのではないでしょうか」

 落ち着きを取り戻したシロツメさんがそう言った。

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