20:疑問
宿を取った後、部屋でシロツメさんの話を聞いて、僕達が気にしていた事が何なのかランは分かったようだった。
「それなら、問題が無いと思うよ。レイアさん、すぐに飛(leap)したから」
「飛(leap)?」
「うん。たぶん、異世界に飛ぶことができるみたいなもの。それで、レイアさんって20個も」
そこで中途半端に口が止まる。
サザンカが手に持った本を見つめながら返事をした。
「へえ、凄いね。でも信じられないな。そんな事、できる訳が無いじゃないの」
「ねえサザンカ、その本、何?」
ランはサザンカの言葉を無視して聞いた。
「え、これ?」
「うん」
「ランには難しい本よ。空気を構成している分子と、気温の関係を説明しているのよ」
表紙には『気体の分子運動論』と書かれていた。
「分子運動論か。最新の研究だよな。王立研究所でも実験をしていたな。熱が、熱素によるものじゃあなくて、分子が運動する事で引き起こされるんだろ」
「まあ、大体そういうこと。正確には、分子の運動そのものが熱なんだけどね」
そこから、僕とサザンカは流体力学に関することを色々話した。
僕には有意義だったが、シロツメさんや菫さんや大犬さん、特にランは話に付いていけなかったようだった。
翌日、僕たちはカラスリ町を出発した。空は曇っていたが、地平線の近くには青空が覗いていた。
左側に山脈を見ながら、道に沿って歩く。
ランとラベンダが僕とサザンカの前を歩き、後ろに菫さんや大犬さんがいる。
しばらく歩くと、後ろから声が掛かった。
「なあ、ちょっといいか」
声を掛けてきたのは大犬さんだった。
「何でしょう」
「一つ気になっていたんだが、何で旅をしているんだ?」
「さあ。何でも、ランが自分の術について知りたいことがあるんだそうです」
一緒に旅をし始めた時の事を思い出す。
「ランちゃんの術か。あの念力は、確かに不思議だな」
「念力?」
「ああ、ああやって、離れた所から物を動かす技だな」
そんな技を使える人がナデシ国にはいるのか、と思ったが、すぐに大犬さんは付け加える。
「言っとくが、念力っちゅう大層な名前は付いてるが、そんなもん使えるやちゃ、いないぞ」
「そう、ですか」
少しだけ残念に思ったのは、気のせいだろう。
それにしても、本当になぜランは旅をしようと思ったのだろうか。
緑色の髪を揺らしながら楽しそうに笑うラン。その隣にいるシロツメさんは相変わらず笑ってはいなかった。
そう、シロツメさんに付いても気になることは多い。魔物と戦っていた時のあの目。ログハウスでの会話。
「ねえサザンカ、ランって何で旅に出ようと思ったの」
思ったことを聞いてみると、しばらく経ってから返事が返ってきた。
「話してもいいのか迷うけど、やっぱりラン本人から聞いたほうがいいと思うな。まあ、昔のある事件がきっかけだったんだけど。それで魔法に触れたくなくなったのよ」
本人の悩みを他人が勝手に言うことはできない、と言うことだろう。
いつか機会が来た時に聞くことにした。




