13:無人の町
このカラスリ町には人がいないようだった。
ただ、まだ所々に生活感が残っている。町はまだ生きているようだった。
僕は、死んでいる町の話を一度だけ聞いた事がある。
まだ僕が小さい頃、父が調査団の話をしてくれた事があった。調査団に付いて行きたいとお願いしたが断られた事を、いつも鮮明に思い出してしまう。その時に、行かせられない代わりとして、死んでいる町の話をしてくれた。人がいなくなって長いこと経った町は、死んでしまうのだそうだ。
だが、この町はまだ生きていた。最近まで人がいたようだった。
「どういうことでしょうかね」
シロツメさんが誰にともなく言った。
さて、どういうことなのだろうか。何か、村全体が逃げなければならないような事態があるのだろうか。
「こきゃあ、急いで手分けして、探すっきゃないか。そんなら、俺と菫で左っ側、探すぜ」
そう言うと、二人は細い道に入っていった。
「では私は正面を、サザンカとラベンダは右側を、お願いします。それで、ランは・・・」
シロツメさんが言い終わる前に、僕達は右側の路地に入っていった。時間がないような気がした。
路地に入っても、人がいないことには変わりがなかった。
レンガでできた家の壁、ガラスの入った窓、木でできた扉。そのどれにも埃は無かった。
人がいるはずなのに、人を見付けられない。気味が悪かった。
シロツメさんや大犬さんは何か分かったのだろうか。
「なあ、サザンカ、何で僕達は走ってるんだろうか」
前を走っていたサザンカは立ち止まる。こっちを振り向いてこう答えた。
「北の空を見てごらん。黒い雲があるでしょ」
確かに、黒い雲がある。
「それが?」
「さっき渡った川は、南北に伸びているでしょ」
「もしかして、増水するのか」
「そう。川が増水する。ここはまだ雨が降っていなくて大丈夫そうだけど、上流で雨が降っているから、とっても危険だわ。たぶん、村人達はそれに気付いたのでしょう」
小声で、私は気付かなかったけど、と言った
サザンカは更に続ける。
「だけど、あくまで可能性でしかないわ。もしかしたら魔物が出たのかもしれない。それを確かめないと。それに、村人達がどこに行ったのかもね。さ、早くしましょう」
また、僕達は走り出した。
この町は典型的な形をしているようだ。クノッソスの迷宮に、大通りを三本、全てが町の中心を通るように引いたような町が典型的である。
大小様々な家が立ち並んでいるなかで、左手には常に高い塔が見えている。町の中心に建つ教会の建物だろう。
しばらく走っていると、大通りに出た。殺風景で何もない。空は相変わらず曇っていた。
そして、その雲の下を何かが飛んでいった。
「何だ?」
つい止まってしまう。サザンカも気付いて止まったようだ。一緒に空を見上げる。
緑色の髪をした少女が、箒に乗って飛んでいる。
「ラン、なのか」
「ええ、そうでしょうね。シロツメさんが指示をしたのでしょう」
聞き逃したが、最後に確かにそんなような事を言っていた気がする。
ランは顔をきょろきょろさせて何かを探しているようだったが、僕達を見付けるとやって来た。
「見つけた」
そう言って地面に立ち、箒を立てて持つ。箒はランの体よりも大きい。こう見ると、本当の魔法使いみたいだ。
「良かった、間に合って。あのね、川が増水しているの。図書館に皆がいるから、早く行って」
早口でそう言うと、また飛び立って行った。
サザンカと一度顔を見合わせ、すぐに大通りを中心に向かって走り出す。どうやら、図書館なら安全らしい。多分、町の反対側にあるのだろう。
それにしても、ランって空を本当に飛べたんだな。




