プロローグ2
その噂を聞いたのはいつの事だっただろうか。もう一ヶ月以上も前だった気がする。だがフロウ国の首都フラウからこの町まで八日しかかかっていないから、たぶん二十日ぐらい前だろう。もし聞かなかったならばこの町に来ることも無かっただろう、と思う。
その噂とは、このボタンという町に魔法使いの少女がいる、というものだった。ちなみにこの町は服の釦の生産で有名だ。それが町名の由来になっているようだ。もちろん、ここで作られた衣服もブランド物だ。
魔法使いなんて本当にいるとは思ってもいないが、僕はその少女に会うために父上の監視下からわざわざ逃れてここまで来たのだ。
だが僕が来たという噂は、すでに町中に広がっていた。
隠す事も無いと思い、せっかくだからこの町一番の広さを誇るボタン講堂で舞踏会を開くことにした。そうすれば向こうからやってくるだろう。
その講堂は町の中心にあり、正円の形をしている。周囲が100ピンチ――1ピンチは7メートル――もある、田舎町としては大きなものである。
ここは、冬に入ると釦付け大会なる催しをするらしい。町中の女がここに集まり、釦付けの速さを競うのだ。だから広い。
だが今は夏でここはほとんど使われていない。町長にさっき会ってきたが、自由に使って良いそうだ。
舞踏会は今日の午後六時から開かれる。治安はそれ程悪くないという事なので、夜の十一時に終わる予定だ。
さて、あの魔法使いは舞踏会に現れてくれるだろうか。町長に名前や容姿を聞いておくべきだったかもしれない。
まあ、見れば分かるだろう。魔法使いは、黒いマントに黒い尖り帽子と決まっているのだから。




