12:水
シロツメさんの簡単な問題をランがやっとのことで解き終わった頃、対岸に人影が見えた。
「皆、川を渡れそうよ」
私の声に反応するように、皆が立ち上がる。
それからしばらくして、予想通り対岸の人がこちら側に渡ってきた。
軽く挨拶をして、入れ替わりに私達が乗る。
小さい舟なので、最初は私とランとラベンダとシロツメさんが渡る。続いてシロツメさんが一人で戻り、菫さんと大犬さんを連れてくることになった。
四人が乗ると結構小さく感じるが、沈むことは無さそうだ。
シロツメさんが櫂を漕いで舟が動き始めた。
川の流れは速く波も高かったが、舟はゆっくり進む。こうやって舟に座って低い所から景色を眺めると、いつもとは違う感じがするものだ。自分が小さくなって、世界が大きくなったかのような感じ。
ふと隣を見ると、ランが何かをやっている。
気になったので聞いてみる。
「ねえラン、何をやっているの」
だが返事がなかった。一心不乱に水面を見つめている。
私もそれをただ見ることにした。
しばらくそうしていると、水面から水のボールが浮き上がってきた。直径15ミリピンチほど。
だが、全体が水面から出る前に、水のボールは壊れてしまった。
「ラン、術の練習か」
一緒に見ていたのだろう、ラベンダが聞く。
「うん。でも、水は凄い力が必要みたい」
私はランの後に続けて言う。
「水も、分子の集まりでしょ。だけど、枝と違って、分子間に働いている力が弱いのよ。だから枝の時は一ヶ所に力を加えれば全体が動いてくれたけど、水の時は全体に力を入れないと上手く動かせ無いと思うわ」
もしかしたら気体も動かせるのかもしれないと思った。だけどまだ言わない方がいいだろう。気体は水よりも更に分子間力が弱いからだ。
ランがもう一度練習を始めたようだった。
全員が川を渡り終わり、無事に先に進むことができた。
空は、旅を始めてからずっと晴れていたが、いつの間にか陰るようになってきた。そろそろ雨が降りそうだった。
私達は運がいいのかもしれない。このまま歩けば、すぐに次の町、カラスリ町に着く。
雨というのは厄介で、ただ体が濡れるだけならまだしも、地面がぬかるむと歩き難く、疲れ易くなるのだ。
「なあランちゃん、聞いていいかい?」
無言で歩いている中で、大犬さんが聞いた。
「何、大犬さん」
「さっき、船に乗っているとき、何やってたんだ?」
「ちょっとね」
ランが珍しく誤魔化した。もしかしたら悪戯を思い付いたのかもしれない。気をつけておこう。
「へえ、水の中に、魚でもいたのか?」
「うん、そんな所よ」
そこで大犬さんは会話を止め、立ち止まった。
私達もつられて止まる。
「ここ、だよな」
大犬さんが、目の前にある町を見て、いつに無く小さな声で言った。
「ええ、ここでしょう」
シロツメさんが言う。だが、なにか納得していないようだった。
目の前のカラスリ町には人影が無かったからだ。




