7:練習
カタバミ町を出発してから数日が過ぎた。
まだ次の町まではしばらく掛かるようで、野宿をする度に私が薪を取らなければならなかった。といっても強制的にやらされていたわけではない。自主的だ。
そして、今日も薄暗くなってきた所で、枝を折りに行った。
私達が夜に休む場所は、道から少しだけ外れた所にある空き地だ。正規の道の近くには何箇所もこういう場所があり、ほとんどの場所には以前にも焚き火をしていた形跡があった。
今日休む場所はいつもよりも広かった。私の町の講堂くらいはある。サザンカ達はその真中より少し道寄りの倒木が四角く並んだ所で野宿の準備をしていた。
私は空き地の端まで来て、三本の枝が折れる想像と、それに併せるような力の動きを見出す。
そういえばサザンカがよく分からない事を言っていたな。ベクトルなんとかかんとか。よく分からなかったが、なんだかどうでも良い事らしいので深くは考えないでおこう。
力が見出せたら、それを想像通りに出す。
すると、想像通り三本の枝が折れた。
枝は宙に浮かしたまま近くまで持ってきて、脇に溜める事にしている。
そのような事を何回か繰り返して、大分枝が溜まってきた時だった。前の方から何かがやってきた。一瞬、魔物かと思ったが殺気が全く感じられないので違うと私でも分かった。
その何かは、真直ぐに私に向かってくる。
イノシシだ。
魔物ではなかった。
そう思うと、ホッと気が抜けてしまった。
だが、イノシシは猛烈な速さで私に向かってくる。
あれはまさに、サザンカに言わせればナデシ語で猪突猛進、と言うのだろう。
突然、足から頭にかけて震えが走っていった。このままでは、ぶつかる。
今更ながら、逃げようと思った。だが恐怖か何かで足が動かせない。
ラベンダに精神も強くなれって言われたのにな。
ラベンダ達は殺気が感じられない為か、私の危機に気付く様子が無いようだった。
どうにかしなきゃ。
イノシシはどんどん迫ってくる。
術を使おうと思ったが、頭が真白で想像する事ができない。以前は想像しなくても良かったんだけどな。新しい方法にすると一々考えないといけなくなる。
ああもう、一々考えてるから、近くまで来ちゃったな。当たるな。痛いな。
妙に落ち着いてしまい、体から力が抜けていく。まあ、力を抜いておいた方が大怪我にならないから、これで良いのだ。と開き直ってみる。
ぼうっとイノシシを眺めていると、突然横に吹っ飛んだ。
イノシシが横っ飛びをするものだろうか。
そんな事を考えていると突然、前から声がした。
「大丈夫だったかい」
いつの間にか私の前に立っていたのは、紫色の髪が魅力的な女性だった。
私を助けてくれたその女性は、菫と名乗った。弓師だそうだ。
彼女ともう一人、大犬と名乗った男が一緒だった。
二人とも、ナデシ国出身だそうだ。
「よくナデシ国からフロウ国までやってきましたね」
シロツメが言う。それに答えたのは、大犬さんだった。
「まあな。だが、もう何年も旅をしているから慣れちまった」
名前通りの大柄な体を大きく揺すらせて、盛大に笑う。
続けて菫さんの威勢の良い声が森に響く。
「それに、あたい達は旅商人だからな。旅が命なのさ。あんた達、何か買うかい?」
そう言って、荷物を広げ始めた。
大犬さんの荷物の中から出てきたのは、様々な武器。菫さんの荷物の中から出てきたのは、様々な薬草だった。
「本物だ」
「凄いな」
サザンカとラベンダが感嘆する。
「詳しそうだな。一つ一つ触ってみてもいいぞ」
菫さんにそう言われたサザンカは、近くにしゃがみこんだ。
ラベンダもいつの間にか、大犬さんから説明を受けている。
残された私とシロツメさんは、商品に見入る二人が満足するまで近くに座って黙っていた。




