4:魔物
太陽が真上に来た辺りで、昼食を食べ終わった。
ログハウスの中は風が通っていて、適度に涼しかった。
「それでは、出発しますか。今からなら4時には着くはずです」
シロツメさんの落ち着いた言葉を聞くと、こっちまで落ち着いてくる。
実は、アカンス国に行くと皆に言ってしまって結構慌てていたのだ。体力に自信が無い訳ではないが、140キロピンチと聞いて心配なのは今も変わらない。
今までそんな距離を歩いたことが無いから、というだけでなく、魔物についても気に掛かっていた。
魔物といえば、今までに何度も人間と戦いを起こしている。私でも知っている有名なのが、カラー戦争だろう。
これはカラー国と魔物との間に起こった戦いで、終結までに10年近く掛かったらしい。結局は人間が勝ったが、犠牲になった人は沢山いたそうだ。
魔物は恐い。
私達四人はログハウスから出ると、道へ戻るために森の中を戻り始めた。波の音が後ろから聞こえてくる。
「それにしても、気持ち良かったな」
前にいるラベンダが伸びをしながら言う。腰に刺さっている長い剣が、足を出す都度に揺れているのが見えた。その剣は装飾が綺麗で、高価なものだと分かる。
続けるようにシロツメさんが言う。
「海には病気を治す力があると言われています。アカンス国までは海岸近くを歩く事になると思いますから、時々入るようにするのが良いと思いますよ」
病気を治す力か。町にいた時は、薬草や薬菜を砕いて飲んでいた。薬は苦かったから、海で泳ぐ方が良いかも。
と、突然ラベンダとシロツメさんが止まる。つられて私とサザンカも立ち止まった。
「どうしたの?」
私の率直な質問に答えたのは、意外にもサザンカだった。
「右側から、カブリサが三匹、近づいてくるわ」
カブリサって何だろう。疑問に感じたが、サザンカに手を引かれて近くの木の根本に座った。
「静かにね」
そう言われて、質問をする事もできずに口を塞がれる。
しばらく何の音もしなかったが、だんだんと何かが近づいてくる気がした。その足音のしない気配に、鳥肌が立つ。
ラベンダは剣を抜いて臨戦状態だった。いつもとは違う目をしている。
一方のシロツメさんは、目が笑っているようだった。ほとんど笑わないはずのシロツメさんが、である。その笑顔を見て気持ちが悪くなり、目を逸らした。
私が目を逸らして少し経った時、急に狼のような咆哮が聞こえた。だが狼ではないことは確かである。狼はこの地域にいるはずの無い動物だからだ。
その声に反応するように、あちらこちらから同じ声がした。
いっぱいいる。
ラベンダが舌打ちをした、かと思うといつの間にか前に走り出していた。
するとすぐに奇声が聞こえる。あの魔物の断末魔の叫び声のようだった。もう一度同じ声が聞こえ、もう一匹が倒されたことが分かった。
あと一匹、なの?
シロツメさんはあの笑顔のまま私達の右側に走ってくると、突然足で私の死角にあたる部分を蹴った。うめくような声が聞こえる。続けて、素手でその何か、たぶん魔物、を殴ると、シロツメさんの動きが止まった。
シロツメさんとラベンダが目の前で会話をしているようだった。いつの間にラベンダは動いたのだろう。それに、何を話しているのかが聞き取れない。耳でも悪くなったのだろうか。
「おーい、ラン、大丈夫?」
すぐ傍から聞こえてきた声に、びくりとした。すぐに体が震え始める。サザンカの声だと分かったのは、それからしばらく経ってからだった。
震えは止まらずに、サザンカに背中をさすられていた。




