最終話 弱小野党の未来
選挙運動最終日。
この日が終わり明日が投票日となる。私にとって最後の戦いの日となる。社会党の議席を1でも増やすため、比例での社会党と書かれた表を1票でも増やすために演説を繰り返す。
東京。それも中心でもある新宿駅で演説をする。池袋駅、東京駅。今日狙うのはすべて東京の中心駅である。多くの人が通るため少しでも社会党という名前を人々の耳に入れてもらおうと私は考えた作戦だ。実際にうまくいくとは思えない。でも、やらないよりましだ。やってダメなら仕方ない。
選挙期間中に大きな事件はなかった。与党の平和党にも野党の民友党にもスキャンダルになるような出来事はなかった。もちろん社会党にも。選挙の情勢は選挙戦開始時からまったく変わっていない。今もがんばって選挙活動をしているものいい反応を感じ取ることができない。
ああ、社会党終わったな。
私は正直言ってそう思った。このまま民友党にでも吸収される未来しか感じ取ることができない。いや、民友党側もこんな左派政党吸収したくないだろう。じゃあ、あの大衆党に吸収されるのか。それはもう仕方ない気がする。
この日演説を全部終えて自分の家に帰る。
明日は投票日。私の議員生活もこれで終わりだ。
社会党議員として28歳で初当選してからずっと頑張ってきた。その議員生活最後の日を迎えることとなるとは……
私はもう何もかも諦めて寝た。
◇◇◇
翌日。
衆議院議員総選挙投票日。
運命の日である。
この選挙しだいの結果次第で今後の社会党の執行部や党の予算などが変わってくる。やはり党所属の国会議員というのは多い方がいいのだ。
昔の多かった時代の社会党が懐かしい。でも、こうやって今でも懐かしんでいることが社会党の可能性という名の幅を狭めていたのかもしれない。そう考えれば私は社会党の委員長としてふさわしくはなかったのかも。
自分がやったことは満足している。でも、成果を出すことができなかった。其れだけが一番の悔しみであるやり残したことだ。出来れば当選してもう一度一国会議員として社会党再生のために頑張っていきたいと思う。
でも、それももうダメかもしれない。
朝7時のニュースではもちろん総選挙の話が出てきた。
時間は7時、8時、9時、10時……とどんどん過ぎていく。総選挙の投票時間は20時までだ。20時になった瞬間におおよそ各テレビ局も10~5分前に放送開始していた選挙特番の各政党の議席獲得予測と議席獲得情報が流れ始める。
私は自分の選挙である北海道での投票はすでに記事前投票においてしてきた。そのため党として委員長として結果を報告するのも8時からなのでそれまでは党本部で今日の予定の打ち合わせをしている。各マスコミから記者会見・インタビューを受けるのでどこから受けるのかその時間はどれぐらいなのかが書かれた紙を党の職員の人からもらう。
その予定をしっかりと頭にたたきつける。
予定を見ている中でやっぱり一番大変だと思ったのはテレビ東都の池下さんのインタビューだろうと思った。
池下さんとは池下昭光氏のことである。ジャーナリストでありよくテレビで時事問題について子供にも分かりやすく説明してくれることと選挙のたびにズバッと確信をつくような質問をすることで有名である。政界内においては初当選議員の最初の関門が池下氏のインタビューだとも言われているぐらいだ。そんな彼からも今回インタビューを受けることになっている。是非ともお手柔らかにお願いしたいものだ。
時刻は19時になった。選挙の結果が分かるまであと1時間。私は緊張していた。胸がバクバクであった。もう国会議員を何年もやっているというのにこればかり慣れないものだ。何せ国会議員というのは選挙で落選すればただのニートだ。この国はつまり4年に1度衆議院選挙においてニートを大量に生んでいるということになる。まあ、参議院選挙があるとか言わないでほしい。今回はあくまでも衆議院選挙の話なのだから。
19時半。
ついにあと30分。
緊張している。あと、30分。何とかして私が当選していてほしい。気になる気になる。
19時50分。
選挙特番が始まる。20時までは現在の議席の状況や解説が始まる。
そして、19時59分。残り30秒のカウントダウンが始まる。10.9.8.7.6.5.4.3.3.2.1
カウントダウンが開けると与党平和党280議席超えと第一報が出る。そして、画面の下の方には当確の人の情報が流れる。ほかにも各政党の獲得議席予測が出る。
社会党の選挙前の議席は12であった。
そして、獲得予想議席を見てみると
9~18だった。
「えっ!?」
意外と健闘していたのであった。とりわけいつも通り。いつもであれば6~14ぐらいであったが今回は18。最高で18議席獲得できるチャンスが残っているということだ。これには私は驚いた。接戦区が多いということだろうか。
選挙開始から30分。20時半にようやく社会党の小選挙の議席が入った。比例代表はすでに北海道で1議席。東北で1議席。南関東で1議席、東京で1議席。近畿で1議席。九州で1議席を獲得しており6議席は確定していた。そこに新たに島崎氏が小選挙で当選を決めていた。
この報告を聞いて一番最初に思ったのはよかっただ。島崎氏なら当選できると思っていた。応援した甲甲斐があったものだ。
ついで池純也、川島のぼり、粟田晴彦と前回も小選挙区で当選してきたベテラン勢が当選する。ベテランと言っても池氏が3期、川島氏が4期、粟田氏が2期と私よりも当選回数は少ない。
「ついで当選が今決まりました。京都3区社会党新人の沼田日出美候補が民友党水野候補に勝ち初当選です」
今、新たに新人の当選が出た。
京都3区。
よかった。新人が出ない政党というのは終わっていくものだ。1人でも新人が出てくれることはうれしく思う。
その後、続々と開票作業が進んでいく。
全体475議席のうち430議席は既に決まった。そして、私の北海道9区はまだ当確がどの候補にも出ていない。
北海道9区は私の方かに出馬しているのが与党平和党で前回も立候補し比例復活している現職児島芳樹氏、野党第一党民友党新人金島花音氏、大衆党新人小泉洋一郎氏の3人。つまりは私を加えて4人出ている。出口調査の結果を見ると僅差で私が勝っているようだが油断はできない。
現在、社会党は北海道内において8人が立候補した。小選挙区が5人、比例代表が2人である。そして、北海道の小選挙区で当選確実が出たのは2人。川島氏と粟田氏の2人だ。私を含めた残り3人は私がまだ結果が出ておらず2人の新人が相手候補が勝ったため比例で復活するための惜敗率次第となっている。比例の2人はすでに比例順位が6位となっており、小選挙で誰か1人でも落選した時点で落選が確定する。其れも社会党が比例北海道ブロックで獲得した議席が1議席であったためだ。仕方ない。次回からは2議席以上とれるように検討していかなければならない。
そして、22時過ぎ。実に開票開始から2時間がたっていた。私は各テレビ局の取材を受けていた。党としてどう感じているかと聞かれまくった。しかし、一番多かった質問はこの取材を受けていた時点でも私の選挙結果が出ていないことにより私の今後のことについて聞かれた。委員長をやめるんですかとか、党の代表としてどんな責任を持っていますかとか、次期代表にだれがふさわしいと思っていますかとかだ。自分でも落選しているかもしれないとは思っているのだが、それを他人から指摘されるのはかなり腹だった。とりわけまだ決まっていないのに次期代表の話をされるのはかなりマスコミの馬鹿さ加減だ。人の気持ちをもっとわかれよ! あんたら人間なのか。そんなに人の不幸で飯を食いたいのか。
後半笑顔で対応しつつも内心怒り狂っていた。そんな中吉報が来た。
「北海道9区現職社会党委員長森本氏当確出ました!」
私の当確がどうやら出たようだ。ほっとした。
どうにか当選できてよかった。落選しないでよかった。取材が吉報が来たことで一気に流れが変わった。まったく、こいつらどんだけ節操がないんだ。落選しなくなったとわかった瞬間犬のようにおめでとうございますとごますりやがって……マスコミは本当に腐っているな。
◇◇◇
結果から言おう。
今回の衆議院の結果はこうなった。
与党平和党285議席。
野党民友党142議席。
野党市民民主党11議席。
野党民主改革党4議席。
野党大衆党8議席。
無所属9議席。
そして、野党社会党16議席。
社会党は16議席獲得した。残念ながら現職3人が落選してしまったがその代わりに元職2人と5人の新人が当選した。その結果は今の社会党にとっては十分なものではないか。確かにこんなもので満足はしてはいけない。将来的にはまた昔のように衆議院で100以上の議席を持つ政党に再生しなければ……だから、私がやることは。
「本日の定例会見で話すことは……私森本は本日をもって社会党委員長を辞任します」
社会党のより良い未来のために私達の奮闘はまだ始まったばっかりだ──
完。




