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黒い炎を胸に抱く者  作者: インデックス
プロローグ
6/25

06.特訓(後)

 

 …………あれから数週間が経過した。

 いまだに魔力の自覚は出来ていない。


 変わったことといえば、何か手掛かりはないかとクルーガーが魔術を使う時に観察を続けた結果。

 魔力を鋭敏に感じられるようになり、魔術の発動する瞬間が分かるようになったことだ。

 後は、「出来るようになるまでの間、素振りでもしておけ」と、森で使った剣を渡された。


 太陽の光を浴びて、刀身が光っている……。

 今も素振りをしながら、魔力について考える。

 クルーガーが魔術を使うときに、ほんの一瞬だが身体の中心から魔力が移動しているのが分かった。

 それが手に集まった瞬間に魔術が発動している。


 それからは身体の中心――胸の部分に意識を集中させて、魔力を感じられないか試し続けているが、成果はない。


 しかし、考え方は間違っていないはずだ……。

 そう思いながら剣を振る。


 素振りをずっと続けているせいか最近は筋肉がついてきた気がする。

 以前もあまり重さを感じなかったが、いまでは木の枝でも扱うかのように剣を振ることが出来る。

 剣の腕が上がるのはいいが、魔術をはやく修得したい……。


 そんな事を考えながら、想像の敵――あの魔猪の突進を躱し、焦げ茶色の毛を狙って横薙ぎに剣で斬り裂く。

 怯んだ隙に、剣を返して首めがけて突きを放つ。

 深々と刺さったそれは致命傷になり、魔猪は倒れた。




 最近は想像の敵と戦えるようになったが、勝てるのはまだ五割ほどで安定しない。

 油断していると突進を避けられず死んだり、体当たりで吹き飛ばされた後潰されて死ぬ。

 せめて想像の中では確実に勝てるようになるまで、また魔物と戦いたくはないと思った。


 だが、そろそろ魔猪の肉が無くなる。

 あれが無くなったら、きっと狩りに行かされるだろう……。




 一旦休憩しようと思い、剣を振るのを止める。


 身体を休めながら、また考える……。

 どうして自分の魔力は分からないのに、他人の魔力は認識することが出来るのか。


 初めて魔力を感じた時のことを思い出す……。


 クルーガーの持っていた杖から不快な気配を感じた。あの時は分からなかったが、あれが魔力だ。

 あれは杖にある石から発せられていた。石を中心としてその周りに気配が広がっていて……その一部が俺の身体を包み込んだように思える。


 ……クルーガーが魔術を使う時もいつもはじめは身体の中心――胸の辺りから魔力を感じている。


 なら、魔力とは胸の辺りから発生しているはずだ……。

 そもそも魔力を生み出しているものは何だ? 胸から魔力が生まれる原因は?


 何かわからないかと、手を胸に置く。


 さっきまで剣を振っていたので心臓が鼓動を速め、その振動が手に伝わる……。

 鼓動を落ちつけようと大きく息を吸い、深呼吸をする。


 ……何回か続けていると、だんだんと鼓動が静まり一回一回がゆっくりと大きい動きになる。




 ――不意に気が付いた。

 魔力とは、心臓から生み出されているのだ。


 心臓が止まれば、死ぬ。つまり生きるための力を生み出しているのが心臓だ。

 なら魔力もまた心臓がつくっているのではないか……?




 俺は眼を閉じて、心臓の鼓動を聞くことに集中した。

 そして……集中を続けていると、心臓の鼓動に合わせて何かが発生している気がした……。


 ――認識して、自覚した。これが俺の魔力だ。

 クルーガーから感じたものとは比べるべくもないほど小さく弱いものだったが、確かに魔力を感じた。

 一回自覚してしまえば感じることは簡単で、眼を開けていても問題なくわかった。




 クルーガーに自分の魔力がわかった事を伝えると、次の段階に入ると言われた。


「自覚が出来たら、次は移動だ。魔力を動かしてみろ……。動かし方は簡単だ。魔力が動いている所を想像(イメージ)すればいい……」


 そう言われ、クルーガーが魔術を使う所を思い出し……俺は眼を閉じて魔力が胸――心臓から身体を伝って腕に移動をするのを想像した。

 すると、心臓に感じる魔力が少しずつ動き始めた。……しかし、遅い。遅々として進まず、なかなか腕まで移動してこない。

 集中を途切れさせないようにしながら想像を続ける……。


 額から汗が流れ、顎を伝って落ちる。

 数分かけてようやく魔力が腕まで移動した。

 それを確認したのか、クルーガーが次の説明をする。


「移動が出来たら、魔力を一点に集めるよう集中させろ。場所は手がいいだろう……。気を抜くなよ? そのまま放出まで想像し続けろ。途切れれば初めからやり直しだ」


 それを聞いて、一切気を緩められなくなった……。

 流れる汗を拭う事も出来ず、移動させた魔力が掌に集まり圧縮されるのを想像する。


 腕まできていた魔力が掌に移動し始め、拳ほどの大きさに感じたものが徐々に小さくなっていく……。

 半分くらいまで圧縮されると、「そのまま放出しろ。魔力が身体から外に出て行けば成功だ……」と、声が聞こえた。


 ――手に力を込め、魔力を押し出すようにすると、圧縮されていた魔力が身体の外に抜けていった。




 疲労が酷く……肩を上下に揺らしながら、いつの間にか前に向けていた手を降ろす。

 成功したのを確信し、疲労感から倒れるように座り込む。


「初めてにしては上出来だ。……今のが魔術を発動させる手順だ。覚えたな?」

「…………あぁ。一回やるだけで立てなくなるほど疲労したけどな……」

「それはお前の魔力が少ないからだ。繰り返していれば増える。

 魔術を発動させるには今の放出を媒介に対して行い、その際に起こしたい現象を想像する。そして、魔力が足りていれば魔術は発動する」


 ――想像。それが魔術か。

 発生させる現象を正確に想像すれば、それが現実になる。……そう説明されたが、今分かった。




 ――つまるところ魔術とは、想像力だ。魔力が足りて、媒介があり、想像できれば発動する。

 想像力とはすなわち操作力(コントロール)だ。より正確にできれば強力な魔術が発動する。

 位階とは、魔術師の魔力の高さと操作力を分かりやすく表すものだ……。

 魔術に本来、名はない。起こす現象を分かりやすくするために普及したものだが……、一部の者はそれを勘違いしておる。

 魔導士と呼ばれる連中は一々叫んだりはしないし、独自の魔術を持っている。――




 クルーガーの説明を思い出し、気付く。

 手を翳すだけで魔術を使う。それは、魔導士と呼ばれる条件のようなものではなかったか……?


「なぁ、クルーガーは魔導士なのか? だから何も言わずに魔術を使えるんじゃないのか」

「…………儂は魔導士ではない」

「じゃあ魔術師なのか?」

「……口に出さねば使えんのは三流だ。そんな事より、次は魔術を発動させてみろ。これを使ってな」


 誤魔化すように言うと、前に見た歪な形の剣を渡してきた。


 剣を手に取り、全体を確認する。

 柄と刀身は一体で、一つの素材で作られているようだ。柄には革が巻いてあり、持つと滑らず握ることが出来る。鍔は無い。刀身は少し厚く、幅が広い。その分長さはないようで、腕と同じくらいだ。刃が少し波打つように歪んでいる。

 それは、木や岩を削るだけで整えたかのような、武骨な印象を受ける剣だった。


「これはもしかして、魔猪の牙か」

「そうだ。加工してその形にした。お前は剣の方はなかなか上達が早いようだからな、身に着けるものよりもそちらのほうがいいだろう。

 元々鉄並みに硬い、荒削りだが十分斬れる」

「これが……俺の媒介」

「見惚れてないで準備しろ。今度はそれに魔力を込めて発動させるんだ。やるのは初級の『発火』だ」


 俺は立ち上がり、剣を両手で握り目の前に掲げる。

 薪を燃やす火を思い出し、それが剣に灯る光景を想像(イメージ)する。

 そして魔力を手に集めて、放出を行う。


「『発火』ッ!!」


 ――すると、放出された魔力が剣に吸い込まれていき、刀身の先。先端に小さな火が灯る。

 同時に身体を倦怠感が襲い、倒れそうになるが足に力を入れて堪える。


「出来た……」


 剣を見る。

 今にも消えそうだが、たしかに火が灯っていた。


「それが魔術だ。どうだ? 素晴らしいだろう。想像したものが現実に起きる。神の奇跡などではない、確かに現象として存在しているその(ことわり)……」

「そこまでは分からないけどな」


「……ふん、まあいい。初級なら苦労せずともとりあえず発動はする。しかし、鍛えねば役に立たん。今のも時間が掛かりすぎて実戦なら使い物にならんしな。

 戦闘で使うなら、魔術は瞬きの間に発動できねば相手の的だ。そもそも、一々言葉にしていたら防がれる」

「鍛えれば『発火』が強くなるのか」

「分かっていないようだが、『発火』を一定以上にすると、『発炎』と呼ばれる。それを使いこなせば『業炎』という中級魔術だ」

「……なるほど、じゃあ『業炎』を使いこなせば上級になるのか」

「そう単純ではない。上級に関してはまた別の要素が関わってくる。今のままじゃ教えても意味はないがな。まずは『発火』程度、息をするように出来てから言え。

 それと……今日はもう休んでおけ。明日からはひたすら魔術を使ってもらうぞ。倒れても回復薬がある。安心しろ」


 全く安心できないことを最後に言って、クルーガーは小屋に戻っていった。

 俺も後ろを追いかけ、従うわけではないが疲労していたので眠ることにした。


 ――魔力を放出したのが体感よりも負担になっているのか、眼を閉じるとすぐに意識は微睡みに消えた。

 

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