01.始まりの炎
空が真っ赤に燃えている……。
熱が身を焦がし、叫び声が聞こえる。何が起きたのか分からない。さっきまではいつも通りだったはずなのに……。壊れた天井から炎が見える。おかしい……今は夜のはずだ。崩れた壁だったモノを避けながら扉に向かうと、吹き飛ばされでもしたのか扉は粉々になっていた。呆然としていると、不意に体が熱いのに気が付いた。
視線を下に下げると、破片でも当たったのか服に血が染みていた。よく見れば左腕もおかしい。本来曲がらないだろう方向に曲がっている。そう思ったら、ズキズキと痛みだした。熱い。熱くて痛い。焼けるようだ。
「アアアアアアァァァァァッ――!」
僕は思わず叫んだ。
のろのろと、瓦礫を避けて家だったものから出ると、周りは地獄絵図だった……
建物は崩れて無残な姿になり、炎が辺りを埋め尽くしている。人が走っている。よく見るとそこかしこに血が見える。瓦礫の下敷きになった人が呻き声を上げている。
そこで僕はふと、両親の事を思い出した。
そうだ、たしか晩御飯の材料を買って来るって言って、ワーグナーさんの所に行ったんだ。
僕は歩き出そうとした。すると、近くで絶叫が上がった。
「ったく。面倒な事しやがって。こっちまで熱いじゃねーか、あの野郎」
声のした方を見ると、甲冑を着た男が立っていた。頭までしっかりと覆われていて顔は見えない。だが、声の主がその男であることは確かだった。
今斬られたであろう男性が血を噴き上げながら地面に倒れ、その向こうに無慈悲な銀色の輝きが見えた。その輝きは、今吸ったばかりの人の血で濡れて光っている。
「ん? なんだ餓鬼かよ。死にかけみたいだけど、王様の命令なんでね。殺さないといけないんだわ」
言葉とは違いその声色は喜悦に満ちていた。まるで、人を殺すのを楽しんでいる様に聞こえる。
男がゆっくりと、一歩ずつ近づいてくる。歩くたびに甲冑がガチャガチャと音を鳴らす。まるで死の神の足音の様だと思った。男の右腕にある剣が持ち上がる。後数歩で目の前だ。僕は剣が振り下ろされるのを想像し、せめて少しでも眼を逸らそうと、周りを見る。
そこで気が付いた。さっき斬り殺された男性が……父によく似た服を着ている。思わず、最悪を想像してしまった。すると、それに気づいたのか、男が言った。
「ああ、もしかしてさっきの奴の餓鬼か? 何だったかな? ……そうそう、たしかヴァンだったかなぁ。そんな名前を言ってたぜ」
ヴァン。それは僕の名前ヴァーンシュを呼ぶときの愛称だ。それを聞いて分かってしまった。あそこで死んでいるのは僕の父なんだと……
「どうやら当たりみたいだなぁ。いやー家族がみんな俺に殺されるとは。とんだ災難だったな? 実はもう少し向こうになぁ、お前の母親も転がってるよ。二人して、ヴァン。ヴァン。って騒いでたから、母親から殺してやったよ。キハハハハハッ!」
実に楽しそうな、歪んだ喜びに満ちた笑い声だった。
それを聞いて心の底から怒りが沸き上がってきた。こんな奴に両親が殺されて、今僕も殺されるのが悔しくて、それでも何もできない自分にまた怒りが込み上げてくる。
「お前が。お前がぁっ!」
思わず言葉になって叫んでいた。
それを聞くと男は、ニタリと笑った。見えないがそうだと確信した。
目の前まで来た男は、ゆっくりと剣を振り上げて……すぐそばで爆発が起きた。
爆風の熱さを感じながら、碌に抵抗もできない身体は簡単に吹き飛ばされる。身体中を打ち付けながら転がり、痛みに絶叫しながら、僕は何かが崩れる音を聞きながら視界が暗くなっていくのを感じた。
♢♢♢
水の音が聞こえる。
僕はゆっくりと眼を開ける。最初はぼやけていた視界がだんだんとはっきりしてくる。知らない天井だった。僕は身体を起こそうとして、痛みに呻き声を上げた。痛みに耐えながらなんとか身体を起こすと、すぐ横に桶が置いてあり、中には水と、所々赤くなっている布が浸されていた。どうやら、この音で目が覚めたらしい。
そう納得すると、自分の身体を見た。上半身は裸で、腹には清潔そうな布が巻かれている。少し赤いのは、血が滲んだからだろう。折れていたであろう左腕は添え木がしてあり、少し見るだけでも応急処置がしてあると分かった。
そうして、気が付く。そうだ。壁がいきなり吹き飛ばされて。町が炎に包まれていて。甲冑を着た男が……両親を殺した。思い出すとまた怒りが沸いてくる。男を前に何もできなかった自分の無力さを思っていると、
「……ようやく目が覚めたか。このまま死んだらどうするかと思ったわ」
しゃがれた、低い声が背後から聞こえた。思わず後ろを振り向いて、身体の痛みに呻くことになった。
痛みを堪えながら見ると、そこには、顔を覆い隠してしまうほどの黒いローブを着た人物が、右手に胸元から足元まで届くほどの長い木の杖を持ち、立っていた。よく見ると、杖の上部にはなにやら光る赤い石が埋め込まれていて、その周りに細い枝のようなものが巻き付いていた。なにやら得体の知れない、粘りつくような不快な気配をその杖から感じて、痛みも忘れて、思わず後ずさってしまう。
「む? ……ああ、そうかお前はこの気配が分かるのか。ククク」
ローブの人物は、左手を持ち上げてローブの上に手を掛けたと思うと、ローブの顔を覆っていた部分を降ろした。するとローブの人物の顔が露わになった。その顔は、声から予想していたような老人の顔だった。
しかし、色の抜け落ちたような白髪は長く肩までかかり、老人特有の皺が入った顔だが、唯一その眼光は鋭く、獲物を狙う狩人の様であり、何かを決意した者の様であり、そして、僕の心を見透かして、何もかもを射抜くかのような眼をしていた。
小説を書いてみたいと思って、書き始めました。自分の表現力とかの未熟さを書いてみて痛感しました。
何か指摘等ありましたら、是非感想に書いて下さい。面白い小説が書けるように努力します。