実験1日目ー2-
色とりどりの花のおかげでカラフルなのに皆泣いている。カラフルというのは、決して楽しいイメージだけをもつものじゃないと、ありさはこの場で知った。
祭壇の鮮やかな色は、お葬式という悲惨さを演出するにはちょうどいいみたいだ。喪服よりも、白い棺よりも、祭壇の鮮やかな花のコントラストが一層悲しみを彩っている。なぜだろう。周りが無機質な色しかないからだろうか。
花の鮮やかさは悲しみの色だ。
ありさは、その悲しみに彩られている、少女の遺影をじっと見つめた。
大きな目にすっと通った鼻、雪のように白い肌、写真の中の彼女は生前のままの美しさを湛えながら、額縁のなかで楽しそうに微笑んでいた。
この写真は、今年の4月の林間学校の時の写真だ。ありさの部屋のクリップボードの真ん中にも、同じ笑顔の雪の写真が、飾られている。
多分、遺影として使われる前には、彼女の右隣にありさがピースサインして映っていたはずだ。
雪のご両親は、何故こんな写真を選んだんだろう。
ありさは写真を見つめなおした。
まるで、雪は自分が死んでいることを自覚していないようだ、死んでいるのだから当たり前なのだが、このお葬式という場で、雪の天真爛漫な笑顔の写真は、不釣合いな気がした。
自分が死んでしまっているのに本人は笑っている。
まるで、お葬式という場が、雪のステージのようだ。
アイドルを見に皆が集まった。雪は死んでいるのに。
その矛盾が気持ち悪い。ありさはそう思った。
その違和感が、雪がいつも見せていた、天真爛漫で、幸せしかしらないような純粋無垢な笑顔がありさにはとても怖いものに見えた。
多くの不幸のなかに一つだけ鮮やかな幸福がある。
雪。
ありさの大切な一番の親友だった、頭もよくて、少し我儘だったけど優しくて、曲った事が大嫌いな正義感あふれる子で、歌が上手くて、料理も上手くて、学校で一番可愛いって言われるくらい可愛くて・・・いつも皆の中心にいて、皆に愛されて・・・。
貴女、今何を思ってる?
そんなありさの問いも聞こえないように、写真の中の雪は皆に笑顔を振りまいていた。
ありさは、そんな遺影からそっと、目をそらして周りを見渡す。
前の列から4列目以降、青いブレザーを着た少女達で埋め尽くされている。
少女達は、皆が鼻をすすり、しきりに肩を震わしていた。
皆、雪の学校の友人達、そしてありさの友達でもある。式場を埋め尽くす青いブレザーの色に、ありさは改めて雪の友達の多さを認識した。
泣いていないのは、ありさだけだった。
皆が、雪の友達だった人全員が、目に涙を湛えている中、涙が出なかった。
確かにこの中に本気で雪の死を悲しんで涙を流している人間は何人いるかは分からない。