実験1日目ー1-
「暑い。」
九月の上旬、まだ夏の暑さが残っているこの季節。
40人以上も女と他に何十人も人がいるこの部屋は、大きな部屋とはいえ、今朝から降っている雨の湿気と熱気、その中で、色んな人間の体臭と制汗剤、女達の香水の臭いが混じり合い、不愉快なくらい女臭い。
そんななかで、さらに汗と雨のせいでじっとりとした肌に髪の毛がまとわりつく。冷房の冷気は、人間達の熱の中では、全く役にたっていない。
実に不愉快。
ありさは、自分の黒い髪を前にやって手で首に風を送る。
雨と汗のせいで、せっかく巻いた髪も、取れてしまい、癖っ毛のように、色んな方向にはねてしまっている。
つうっと、首から背中に向かって汗が流れ落ちるのを感じた。
冷房がついていても、室温は、30度くらいだろう、並んでいる人と人の間隔が狭いせいで、それよりも、もっと高く感じる。
ブレザーを着ているせいかもしれない、脱いじゃいたい。ありさは思った。
通気性、機能性を重視して作られた制服もこんな人間が密集した部屋の中では、熱気を逃がしきれなくて、まるでサウナスーツのようだ。
もっとも、部屋の空気が熱気で暑いから、通気性もなにもないのだろうけど。
このブレザーを脱いで、ブラウスだけになったら少しはマシになるのに。
でも、残念ながら、こういうフォーマルな場では、ブレザーを脱ぐ事はできない。
ブレザー、ネクタイの着用が義務付けられているのだ。
背中と脇に汗が溜まっているのが分かった。きっとブレザーを脱いだら、くっきりと汗が染みて模様が出来ているかもしれない、それなら、反対にブレザーを着て隠している方がいい。ありさは年中同じ仕様の学校の制服を恨んだ。
ああ、でも脱ぎたい。暑い、クーラーよちゃんと仕事しろ。
不愉快。
「雪・・・。なんで死んじゃったの?」
今日、家帰ったらブラウス洗濯しなきゃ。と、ありさが考えてたら前の椅子に座ってた咲子が泣きだした。
それにつられて周りの、ありさと同じブレザー集団の女達もつられて泣き出す。
そこでありさは不愉快感から現実に引き戻された。
ああ、今は雪のお葬式だった。
ありさは風を送る手を止め、顔を上げる。
白く無機質な壁、無機質なパイプ椅子には、悲しみを表す暗い色の服をきた人間が座っている。
ありさが座っている列は真ん中に道をはさんで入口からみた左側の3列目。
後ろの席には少し空きはあっても、殆どの人が座って、このお葬式が始まるのを粛々と待っている。
一番前には、黒い色とブレザーの紺色、色とりどりのお花、そして雪がはいっていると思われる白い箱。
大勢のすすり泣く人々。そして、黒く縁取られた写真立てに飾られた少女の写真。