awaame
雨は降り続いている。きのうの夕方からずっとだ。
窓の表面はすっかり水の膜に覆われていて、まるで水槽を覗いているようだ。時折流れる小さな水流が、外の世界の表情をゆがめる。雨は霧だか水滴だか、そのくらいのあいまいな状態で空気中を踊っている。
早朝五時だから、雲がなければもう少し明るいはずだ。雨雲は文字通り天幕となっていて、朝の弱い日差しをさらに幽かなゆらめきにしていた。部屋は冷えた空気が滞留している。
衣擦れの音が鳴った。ブランケットに包まった彼は目をしっかりと開けて男を見ていた。男は「寝ていればいいよ」と言った。
「悪夢だ」
彼がつぶやいた。
「どんな」と男が聞くと、彼はすぐに「忘れた」と言った。
誰が見ても不機嫌だとわかる表情で彼は続けた。
「忘れたっていうか、何もなかったっていうか、そんな感じ」
「虚無とか、混沌とかか」
「大それた言い方だなぁ、もっと身近なの」
彼は起き上がって窓の外を見た。
彼も外の雨粒が見えたのだろう。
「道理で寒い」と言った。
「身近なものがなくなってるっていうか。寂しい感じだった」
寂しいという言葉が男は気になったけれど、彼はすぐに横になったから、それを問い詰めるのはやめた。彼の髪に触れながら「身近なもの」と言った。彼は髪を撫でる男の手に触れた。
「これも、」
彼の声はほとんど息だけだった。
「そうなったらどうするの」
男が尋ねた。すぐさま彼は「おまえがか」と言った。
「どうするって、どうもしない」
「そうなんだ」
「おまえもじゃないの。何もしないだろ」
彼はそれだけ言って目を閉じた。男は「何もか」と呟いた。
そうかもしれない、と感じていた。ある日の彼の涙を思い出していた。いつか、息がとまるほどの雨が降った日、その涙を流すことも、目を閉じて眠ることも、その息をすることも。
きっと男は、きっと彼は、何もしない。
タイトルをお渡ししたのを絵にしてくださって、それを文字にしました
ら、
なんとまんが化してくださいました !?
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