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六話「さよなら東の大国」

 どうする……目の前の少女が王城の人間だとしたら。眉間にシワを寄せる僕を見て、少女が急かすように言った。


「早くしないと見つかるけど、いいの?」


 ……くそ! 悩んでる暇もないのか! 僕は青宮たちを見る。


「もしこの子が王宮の人間でも、お前を恨みはしないから安心しろ」

「そうそう。今レティさんに見つかるほうがよっぽど怖いし」

「俺はちょっと会いたもごもご」


 空森の平叙運転な言葉は青宮の手によってふさがれた。皆の言葉を聞いて、目の前の少女に頼んだ。「ここから逃がしてほしい」と。少女は獲物を見つけた肉食獣のようにキラリと目を輝かせると、床に何かを描き始める。何かの模様みたいだ。


「おいおい、ここ図書館だけど……描いていいの?」

「術を発動させたら消える。安心していい。さぁ、全員円の中に入って」


 少女の言葉に、僕たちは頷き円の中に入る。少女がポツリと小さな声で一言。


「南の国フェモリスへ」


 少女の言葉に反応したように模様が光り始め、まばゆい光に目を瞑った。気がつくと、青空の下に立っていた。すぐ傍に青宮たちもいる。


「ここは……」

「南の国、フェモリス。ついてきて、(あるじ)殿にお前らを会わせないといけない」


 南の国……信じられないけど、フラワーウィドルの日差しとは比べものにならないぐらいじりじりと照り付ける日差しに、何となく納得してしまう。そして、前を歩く少女が王城の人間じゃないことにほっと安心した。だけどそんな僕たちを待っていたのは……。


「やぁシェラ。そいつらは噂の異世界からきた勇者とその一行じゃないか」

「こちら、私の主殿。この南の国で幻獣魔王と呼ばれているリッツゲネニア様」


 まおうだ。魔王だった。しかも、何で僕たちが勇者一行だってわかったんだ? 年は二十歳ぐらいに見える。海みたいに深い青色の短髪だ。初めて見たよ、青髪の人なんて。しかしそれよりも注目すべきは魔王の顔。彼は……所謂イケメンと言うヤツだった。僕、葛城、空森の目がカッと見開かれ、青宮が一歩後ずさった。


 イケメン、女の子を侍らせ彼女を作りながらも女友達と言う存在もいて、白い歯を光らせながらキザな態度で女の子からキャーキャーと黄色い歓声を受ける。僕たち平凡なモテない男共の敵。敵なのである! あ、青宮は別。

 思わず相手が魔王と言うことを忘れて憎しみをこめて睨みつけてしまう。


「あれ……俺、何かすっげー睨まれてるけど。何かやったっけ?」


 魔王の困ったようにな表情に、控えている侍女の頬がぽっと赤く染まった。ぐぎぎ、イケメンめぇぇ! その時、青宮を除く僕たち三人の心はイケメン魔王に対する憎しみで染まった。


「さぁ……。お前ら、主殿はお前らを助けてやった私の主なんだぞ、そう睨むな」


 はっ。いけないいけない……僕は我に返った。相手は魔王だ。こんなことして機嫌を損ねて殺されてしまうこともありうるかもしれないのだ。イケメンに対する憎しみは心の中にそっとしまっておこう。


「これは申し訳ありません。初めまして、幻獣魔王リッツ殿」


 失礼のないように……ってさっき魔王を睨みつけると言う思いっきり失礼なことをやらかした僕たちだけど、なかったことのように笑顔を向ける。それにしてもリッツかぁ……実に美味しそうな名前だ。あれ、上に何かのっけて食べてもいいしそのままでも美味しいんだよな。おっとよだれが。


「おう、敬称とかいらねぇから。で、シェラ。何でこいつら連れてきたんだ?」

「フラワーウィドルの王城の者たちに追われているとのことで、助けました」


 少女の名前はシェラと言うらしい。シェラの言葉に、リッツは不思議そうな顔をして僕たちを見つめる。首をかしげながら、疑問を口に出す。


「何でこいつらを召喚した王城のヤツらに追われてんの?」

「さぁ。それは本人に聞いてください」

「シェラさー……厄介事持ちこむのいい加減やめてくれよな。で、お前ら。何で王城のヤツらに追われてたわけ?」


 僕たちは目配せをして、素直に答えることにした。相手は魔王、相手は魔王。下手に嘘をついたらどうなるかわからないのだから。


「魔王と戦いたくないので王城から逃げ出してきたんです」

「あ、敬語とかいらないから。ふぅん、異界人なのに随分と大胆なことやるんだなぁ」


 呆れ半分、と言った様子だった。僕たちがここがまおたびの世界だと知らなければ、あんな大胆なことしないで大人しく従って魔王との戦いに持ち込まれていたんだろうな。そうなってたらどうなってたんだろう。途中で青宮たちが命落としたりしてたんだろうか。想像するだけでゾッとする。


「まぁいいや。何か面白そうだし、お前らを城に置いてやろう」

「え? でも、僕たち敵同士じゃ……」

「見る限りお前は今のところ勇者としての力に目覚めてない。魔力が強いだけの、普通の人間だ。だから安心していいぞ」

「はぁ……」


 僕たちは目を合わせて茫然とした。何か変わってる、何か変わってるよこの魔王様……!


 リッツは茫然とする僕たちを見て、満足そうに笑った。それを見た侍女がまたもや頬を赤く染め目をふせる。ぐぬぬ、やっぱりイケメン……!

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