五話「魔法のお勉強」
図書館は何と言うか……派手だった。ピンクと黒の見事なコントラストで、イメージするならゴスロリ系と言った感じだ。ここは本当に図書館なのかと思うけど、近くの看板にハッキリと「図書館」と矢印つきで書いてある。
僕たちは、一様に「はぁー」とため息をついてから図書館へ入る。
中は、普通だった。外の奇抜さが嘘みたいに落ち着いた内装だった。壁はクリーム色で、明かりは落ち着いた淡いオレンジ色。
本好きの血が騒ぎ、思わず近くの棚の本を手に取ってみる。表紙を見ると、「はじめてのごうもんしょ」と可愛らしい丸っこい字で書いてあった。絵も子供向けの絵本のような水彩画だけど……うん、僕は黙ってそっと本を棚へ戻した。
目的は魔法について書いてある本だ。危うく目的を忘れるところだったね。イカンイカン。
やたらと露出の多い服を着た、セクシーな美女の司書さんに魔法に関する本を置いてある場所を聞くと、二階だと言うので全員で階段を上る。空森は司書さんが見えなくなるまで、階段を上りながらチラチラ一階を見ていた。「美人だったなぁ……」なんて呟いていたりもした。流石筋金入りの女好き。揺るぎない。
二階につくと、ずらりと本が綺麗に棚に収まっている。本好きの僕としては、図書館はまさしく天国。しかし、今から読むのは魔法に関する本。魔法なんてファンタジーなものが存在しなかった僕たちの頭で理解できるだろうか? とりあえず、「魔法書はこちら」と書かれた棚の前に立つ。そして、適当に一冊の本を棚から取り出して広げてみる。
……うん、さっぱりわからない。青宮は難しい顔をして何とか内容を理解しようとしていた。流石真面目君。空森なんてすでに子供向けの絵本コーナーに向かってるぞ。葛城も適当に棚から本を取り出して広げてて見るけど、うんざりした顔をして静かに本を棚へ戻した。
心が折れそうになるけど、青宮だけに任せるわけにはいかん。僕も何とか理解できそうななるべく簡単な魔法書を探そう。
「うん、これなら何とか……」
僕が手に取ったのは、「初めてのまほう」と書かれた子供向けの魔法の使い方が書かれた本だった。最初に取った専門用語だらけの本よりはマシだろう。空いてる席を探して、適当座って本を読み始める。
魔法を使うには、自然の中に存在する精霊の存在が必須である。精霊は大きく分けて四体。火、水、風、地の四体だ。主にこの四体の精霊の力を使って魔法を使うことになる。
ちなみに、精霊の力を借りて使うのが魔法、自身の魔力を使うのが魔術と区別されている。魔法を使うのは魔法師や魔法使いなどと呼ばれる者で、魔術を使う者は魔術師、と呼ばれる。
ほかにも、転移魔法や治癒魔法など精霊の力を借りない人間独自の魔法も存在する。これらは、魔術を使った魔法であり、術式を書いて使う魔法だ。これらの魔法は人間が独自に生み出した魔法であり、ほかの種族は使えない者がほとんどである。
人間には生まれつき魔力が存在する。この魔力の差は、例えどれだけ修行しようとも埋まることはない。生まれつき魔力の高いものは高いし、低いものは低い。しかし、低いものは魔法の代わりを剣術や体術などで補ったりする。そして、生まれつき魔力の高いものでもうまく魔法を使えるかと言えば、そうではない。魔法にも才能が必要である。しかし、魔法を使いこなすには才能のほかに努力も必要であり――。
ここまで読み終えて、僕はふぅと息を吐きだして眉間に寄ったシワを指でもみほぐす。すると、絵本コーナーから空森が慌てたように走ってくる。
「おい木崎、やべぇよ。王城の人間がきた!」
「何だって……」
難しい顔で難しそうな魔法書を呼んでいる青宮と、ボケーっとしていた葛城を呼んで一階を見る。そこには、王城の兵士を引き連れたレティさんがいた。
幸い、まだ僕たちには気づいていない模様。とりあえず二階の奥のほうに身を隠してこそこそ話す。
「どうするよ」
「逃げ場所ねぇぞ。入り口はもう兵士が封鎖してる」
「困ったな」
「くそ……!」
「何が困りごと?」
不意に、舌っ足らずな幼い少女の声が聞こえた。全員で声のしたほうを見ると、片手に分厚い表紙の難しそうな魔法書を持った十七、八歳ぐらいの少女が立っていた。その見た目は紺色のとんがり帽子に黒いロープと、いかにも「魔法使いです!」と主張している。
「お前たち勇者とその仲間でしょう。困ってるのなら、助けてあげないこともないけど。代わりに、四人の中で代表一人が私の言う事を一つだけ聞くこと。それでどう?」
少女は、天使のように愛らしい笑みを浮かべてそう言い放った。