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二話「選ばれし者」

「久々の客人だ、存分にもてなそう」


 リザはそう言って、僕の背中にまわるとぐいぐいと押してくる。大人しく押されながら歩いていくと、一軒のログハウスのような場所にたどり着いた。リザは僕を案内(?)すると一人でさっさとログハウスに入ってしまった。茫然とログハウスの前で突っ立っていると、リザが扉を開けて顔をだし「早く」と急かすので慌てて「お邪魔します」と言ってログハウスに入った。


 ログハウスの中は、主にぬいぐるみと本で埋め尽くされていた。ベッドの上には大量のぬいぐるみ。寝る場所あるのかな……と心配になるほど山積みだ。犬や猫、クマなどの定番のぬいぐるみもあれば蛇やトカゲなんかの変わったぬいぐるみも置いてある。


 そして、その大量のぬいぐるみと肩を並べるぐらい積んであるのが大量の本。分厚い表紙の難しそうな本もあれば、文庫本のように薄い本もあった。思わず、本好きの血が騒ぎ手が動きそうになる。リザに声をかけられ、はっと我に返る。


「おやつの準備ができたぞ」


 リザは嬉しそうに二人分のバケットとジャムの入った瓶を持ってくる。それらを綺麗に片付けられて花まで花瓶に活けてある食卓テーブルの上に置くと、一人でさっさと食べ始める。朝食を食べてこなかったので、僕も食べることにする。

 

 バケットにジャムを塗りたくりながら、考える。


 それにしても……リザは気づいていないんだな。僕が勇者の仲間かもしれないってことに。ここが本当にまおたびの世界なら、勇者は恐らくイケメンで真面目君な青宮あたりだろう。こう言う異世界トリップで選ばれる勇者は大体イケメンだと思う。勇者に選ばれるのは平凡な少年、とか何とか言われるけど正義感強くてハーレム築いている時点で十分イケメンじゃないかちくしょう。平凡な僕は、仲間その一みたいな感じの立場なんだろう。


 でも、勇者ミゼと名前が一緒なのは僕なんだけどね……僕の名前は木崎未世(キザキミゼ)。だけど、まさか名前が一緒だからあなたが勇者ですなんて展開はないだろうから、安心していいよな。


 物語の中では、勇者ミゼは確か王城の一室に友人三人と一緒に召喚されるはずだ。勇者は青宮で、三人の友人は恐らく僕、葛城、空森の三人のことだろう。でも僕だけ蒼魔女の住む森に召喚されたって言うこの違いは一体何だ? まおたびでは四人全員が王城の一室に召喚されていたからな……。


 色々考えながらもぐもぐしていると、バケットをテーブルの上に落としてしまう。あれ、おかしい。手が震えて……。どうしたんだ? 一体。


 僕はガタリと音を立てて椅子から崩れ落ちた。声をだすこともままならない。かろうじて動く目玉を動かしリザを見ると、ニッコリと優美に微笑んでいた。


「安心してよ、死にはしない。ちょっと眠くなるだけの毒だから。さぁ勇者よ、どうか強くなって精々私を楽しませておくれ」


 毒を……盛った? 


 ニッコリと微笑んでいるリザには悪意の欠片も感じられなくて、それが逆に恐ろしかった。悪意もなく人に害を為せる目の前の少女に、背筋がゾッとする。


 ぼんやりする頭で考える。勇者……? この子は一体何を言っているんだろう、僕みたいな平凡な人間が勇者に選ばれるわけが――。思考は途中で途切れ、僕は眠りについた。


***


「はっ」


 目が覚めると、天蓋付きのふかふかのベッドに寝かされていた。そんな僕の顔を覗き込むように見ているのは、青宮、葛城、空森の三人だった。


「おお、ようやく目覚ました」

「お姫様ー、木崎が目を覚まして……」

「具合はどうだ、木崎」


 空森は誰かを呼びに部屋を出て行った。青宮に助けてもらいながらゆっくりと体を起こして部屋を見渡すと、まるでホテルのような一室だった。

 しばらく経って、コツコツとヒール靴を鳴らす音が聞こえる。部屋の扉が開かれ、そこには髪を綺麗に巻いた赤髪美女が立っていた。赤髪美女は僕のベッドに近寄ると、スカートを持ってお辞儀をした。


「はじめまして、勇者様。私、この国フラワーウィドルの第一王女レティと申します」

「あ、はぁ。どうも……」


 レティさんは淑女らしく丁寧に挨拶をしてくれたけど、僕は間抜けな言葉しか返せなかった。


 ……待て、今レティさんの口から勇者(・・)なんて単語が飛びださなかったか。背中を嫌な汗が伝う。ドクンドクンと脈をうつ心臓を押えるように手をあてて、ゆっくりと聞いた。


「あの、今勇者って……」


恐る恐る聞くと、青宮が「諦めろ」と言うかのようにポン、と肩に手を置いた。待て待て待て! 僕は雷にうたれた(多分)かと思えば蒼魔女の家でキャキャウフフなお茶会もどきで毒を盛られてぶっ倒れたんだぞ? 状況が把握できてなくても無理はないだろう。


 僕の言葉に、レティさんはキリッと目もとを引き締めて老若男女聞き間違えようのないハッキリとした声で言った。


「はい。ミゼ様。あなたこそが勇者様なのです。どうか、魔王に苦しめられている我ら人間たちをお助けください」


 ……もう一回ぶっ倒れていいですか、僕。

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