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一話「少女との出会い」

 その日は分厚い灰色の雲が空を覆っていて、蒸し蒸しする非常に気分よろしくない天気だった。そんな中を、僕は大学へ向かっていた。

 どこにでも転がっていそうな、大学二年生。二十歳。僕は、こう言うハッキリしない天気が嫌いだ。雨なら雨、晴れなら晴れ。そうハッキリしてほしいものだ。何より、湿気が多くて肌がべたつくのがいただけない。


「うはよーっす」

「よ、木崎」

「はよ」

「おはよう」


 三人の男が、話しかけてくる。一人は空森、一人は葛城、一人は青宮。三人とも小さいころからの友人で、同じ大学だ。たまに、時間が合うとこうして四人そろって大学へ向かう。この中に女の子が一人でもいれば癒しになるんだろうけど、生憎四人全員女友達なるものは存在しなかった。実に残念なことだ。

 青宮はカッコいいし、紳士的だからモテるけど、女の子に興味がないのか女友達や彼女を作る気配はない。いつも僕たちとつるんでいるから、一時期はホモかと噂されたこともあったけど、青宮は無関心を貫いていたためすぐにその噂は消えた。


 厚い雲が、ゴロゴロと唸り始める。これは、一雨きそうな感じだ。


 何気ない話をしながら歩いていると、一瞬空が光ったかと思うと、近くに落ちたのか耳をつんざくような音が響いた。僕たちの傍を歩いていた女子学生が、「怖いねー」と他人事のように喋りながら去って行く。そう、雷が鳴っていたとして、その雷が自分に落ちるなんて考える慎重な人間は中々いない。そしてまた僕も、そう言う人間の一人だった。自分に雷が落ちるなんて、露程も思っていない。


「なぁ、一雨きそうだから走ろう」


 僕の言葉に、全員が賛成した。この選択を、僕はあとから後悔することになる。

 さぁ行くぞと走り出した瞬間、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの大きな音が聞こえ、視界が暗転した。雷にうたれたのだと理解するのに、時間を要した。


 気が付くと、静かな森の中にいた。新緑がそよ風に揺られてざわざわと音を立てる。木々のすきまから日の光りがもれ、キラキラと輝いている。鳥のさえずりが聞こえるだけの、静かで穏やかな森。


「は……」


 思わず、間抜けな声がもれた。何だ、ここ。僕は大学へ向かうために歩道を歩いていた。大学の近くにこんな爽やかな森などない。じゃぁここはどこだ。ふと、視線を感じて辺りを見渡すと木から、キツネの面をつけた黒髪の一人の少女がこちらを見ていた。


「ねぇ、ここは一体どこ?」


 自然に、するりと言葉がでた。少女はクスクスと小さく笑って、長い黒髪を揺らしながらこちらに向かって歩いてくる。そして、面を取った。


 現れた素顔は、それはそれは美しいものだった。雪のように白い肌、リンゴのように真っ赤なプルプルの唇にパッチリ二重の目は――深い海のように、吸い込まれそうな青色。

 少女は白色の簡素なワンピースを着ていた。ワンピースから覗く手足もまた雪のように白く、触れたら折れてしまいそうなほど細い。おうとつのない体で、長い黒髪を揺らしながら僕の横に立った。いざ、横に並んでみると随分と小さい。僕が百七十ちょいだから、この子は百五十ぐらいだろうか。


「はじめまして。私はリザリーフェネッツェ。別名東の蒼魔女と呼ばれる者。ぜひリザと呼んでね。ちなみにここは東の大国、フラワーウィドルよ」


 ニッコリと微笑みを浮かべて自己紹介を済ませる少女……いや、リザ。僕は、リザの名前に聞き覚えがあった。


 リザリーフェネッツェ。東の蒼魔女。そして東の大国フラワーウィドル。様々な名前や単語が頭の中を駆け巡る。そして、一つの結論にたどり着いた。これはもしかして……僕の愛読書、完全フィクションの冒険譚。「魔王を打ち取れ、勇者ミゼの旅」通称まおたびの世界では? 


 そして僕の記憶が正しければ、横にいるリザは勇者ミゼが最後に打ち取った――魔王の一人だ。

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