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十七話「バスで寝たら友人たちに置いて行かれた件」

「――さん、お客さん」

「はい? え……」


 辺りを見渡すと、外はすっかり暗くなっていた。ついでに、ほかのお客さんの姿が見えない。おまけに、青宮たちも姿もない。まさか……僕の背中を、嫌な汗が伝う。


「お客さん、もう終点だよ」

「えっ。ああああ青の街! 青の街は?」

「青の街? それなら八個前のところだよ。もうバス出てないし、徒歩で行くには無理がある距離だよ」


 マジかよおおお! なんてこった、普段からキャラの濃い空森やイケメンオーラを放ってる青宮の影に隠れて存在感薄いとか滅茶苦茶言われてたけどまさか寝てたら友人にすら置いて行かれるほどだったのか……!


「ええと……ここは、どこですか」

「ここは炎の街って言ってな、ガラス細工が有名な街よ」

「ありがとうございます。近くに宿ってありますか?」

「んなもんないよ。観光地じゃないし」

「マジっすか……。とりあえず、降りますね。ありがとうございました」


 僕が降りると、バスは「回送」と表示してそのまま走り去って行った。


 さぁ、今からどうしようか。金はあるけど宿はない。困った……非常に困った。そう言えば、西に近い青の街は治安が悪いってリッツが言ってたな。てことは野宿もダメか。朝起きたら荷物全部なくなってたとか嫌だぞ、ありえそうで。

 とりあえず僕は歩き出すことにした。いつまでもバスの駐車場に突っ立ってるわけにはいかないし。にしても明るい街だな……あれは、ランプ? 近くに寄ってみると、やっぱりランプだった。綺麗だな、そう言えば運転手のおじさんがここはガラス細工が有名だって言ってたっけ。


「困ったなぁ」


 ポツリと呟いてみても、状況は何も変わりはしない。そもそも僕の呟きを聞いてる相手がいないのだから、当然と言えば当然だ。


「ちょっと! 離して!」


 女の人の悲鳴のような声にはっとなって前を向くと、はるか前方に人がもみあっていた。一人は女の人のようだけど、遠すぎて何やってるのかよく見えない。とりあえず気づかれないように近づいてみるか。

 僕は物陰に隠れながら、そっと様子を伺う。


「いいじゃねぇか、一緒に遊ぼうぜ」

「それとも奴隷にされたいのかよ!」


 乾いた音が響いて、女の人のすすり泣く声と男たちの下卑た笑い声が響いた。女の人が叩かれたのだと理解して、気が付くと姿も見えない男たち相手に向かって走り出して、そのまま勢いよく跳び蹴りをかます。華麗に着地して、驚いて目をまん丸くさせている女の人の手を取って必死で走る。後ろで男たちの声が聞こえたけど、構わず走る。しばらく女の人は僕に手を引かれる形で走っていたけど、段々追い抜かれて最終的に僕が手を引かれて走る形になった。何だこの人、足めっちゃ速い。


 女の人が一つの建物の階段を上がって鍵を開けてそのまま入ったので、僕も手を引かれたまま入る。鍵をしめて、はぁーとお互い息を吐きだした。


「ぜぇ、ぜぇ」


 結構な距離を全力疾走したから僕は息も絶え絶えだった。対する女の人は、息を切らすこともなく平然としている。よくよく見ると、女の人の頭には兎の耳が生えてピコピコ動いていた。通りで……足速いわけだ。兎だもんな。あいつらって可愛い見た目で油断させて意外と足速いんだぜ……。


 目の前に立つ僕と同じ年ぐらいの女の人はどうやら獣人と言う種族みたいだ。まおたびによれば確か魔力が弱くて人間や魔族の奴隷にされることが多い……だっけ。


 さっきの男たちの「奴隷にされたのか」と言う発言を思いだして、思わず顔を顰める。チラッと見たけど、男たちはどうやら魔族みたいなようだ。悪魔みたいな見た目してたし、性格も悪魔だったな。


 ようやくまともに息が吸えるようになって、改めて目の前の女の人を見る。髪は腰までのびた金髪で、目の色は青。でも、蒼魔女と違って海のような青色ではない。どちらかと言えば空に近い色だ。頭にはピンと伸びたウサ耳、服は清楚な白色のレースが施されたワンピース。上着はクリーム色。ネックレスや指輪などの装飾品はナシ。顔は可愛い。もう一度言おう。めっちゃ可愛い。合コンにいたらよっしゃと心の中でガッツポーズを決めるレベルな可愛さだ。まぁそう言う子は大抵イケメン君にお持ち帰りされるんですけど……。


「あ、の……」


 女の人から発せられた声は、思ったより幼かった。恐る恐ると言った様子で話しかけてくる。


「助けてくださって、ありがとうございます」

「いや、勝手に体が動いただけだから」


 もみ合う声に怯えて実は逃げようと思ってましたとか言えない。まぁ最終的に女の人を助けることができたのだから、よしとしようじゃないか。


「あの、ワタシ……西の国からきたんです」


 女の人の言葉に、納得。西の国には金髪青目が多いってどっかで聞いたからな。要は元の世界で言うところのアメリカみたいなもんだ。

 女の人の言葉は続く。


「それで、東の大国にわたる途中で……」

「何でまた?」


 思わず、女の人の言葉に質問してしまうが、女の人は気を悪くした様子も見せずに素直に答えてくれた。


「私のお母さん、魔王に捕まりました。それで、東の大国に魔王を打ち取ってくれる勇者が召喚されたと聞いて……」


 うんうん、実に泣ける話だ。魔王に捕まったお母さんのために長く厳しい旅をして東の大国まで勇者を探しに行く途中、と。その目的の勇者が僕じゃなければよかったんですけどねー……。

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