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十六話「旅立ちは慌ただしく」

 なんやなんかで三ヶ月近くもリッツのところで世話になってしまった。雑業の給料とは思えない金額を貰った僕たちは、リッツに家賃や何かを渡しつつも順調に貯金がたまり、今日この城を旅立つことにした。


「お前たちがいなくなると寂しくなるな……」

「シェラちゃん……俺は君のことわすほぎゃっ」

「ありがとな、リッツ」

「今まで世話になった」

「サンキュ」


 青宮が空森の平常運転を手で阻止して、いい感じの旅立ちの雰囲気に場が包まれる。


「ダァリン。寂しくなるわー、また時間があるときによってね」


 うっふん、とこの三ヵ月間僕相手にウインクしまくったおかげか上達したウインクをしてくるベルゼに、思わず苦笑する。こいつは最後まで揺るぎないオカマ野郎(・・)だったなー……。夜中にこいつが透けたダンベル持って「ふん、ふん」って鍛えてるの見ちゃったし。だから何でオカマのくせに体だけ無駄にマッチョなんだよ。

 呆れながらも、なんだかんだ言って本選びの時にはすごく助けられた。流石は書庫の精霊と言うべきか。


「さて、次はどこに行く?」

「西は」


 リッツを除く全員の緯線がシェラに集まる。シェラは少し気まずそうに答えた。


「西は……行ったことがないから無理」

「じゃぁ北は?」

「あそこは素人には厳しすぎる環境。お前らすぐ死ぬ」


 さらりと死の宣告をされてええー……と一気に萎える僕たち。リっツがそんな空気を壊すように明るい声をあげる。


「もう少し南の国にいろよ。西南の青の街なんてどうだ?」


 リッツの青の街、と言う言葉に食いつく僕たち。青の街。聞いたことがない場所だ。……まぁ、この三ヵ月間ほとんど城にこもってたからリッツやお手伝いさんから聞かない限り知らないよな。外は幻獣狩りの狩人がいるから危ないって言われて出れなかったし。


「青の街って?」

「水が綺麗な……とこ」

「へぇ! いいじゃん面白そう。行こうぜ」

「いいね。んじゃ決定」


 よっしゃーと騒ぐ僕たちを見て、リッツが笑顔をふっと消して真面目な顔で言った。


「青の街は西南にある街だ。西のグロテイルはすごく治安が悪いんだ。窃盗や強盗に気を付けろよ」


 お前ら弱いんだから、と付け足されてカチンときたがその通りなので言い返せない。何より、リッツは僕たちのことを心配して言ってくれているのだから、素直にその気持ちを受け取らないと。僕はリッツにお礼を言って、バスの時間に乗り遅れないよう慌てて出ようとすると、シェラに小さい水晶玉のような物をそれぞれ渡された。


「これは魔水晶と言って、主に遠くの相手との連絡に使うアイテムだ。これで連絡をとってもらえばいつでもお前たちのところに行く。国を超えたかったら呼べ。じゃぁな」

「また城に寄ってくれよな! またなー」


 僕たちはバタバタと走りながら、見送ってくれる二人に向けて手を振った。空森が投げキッスを送っていたので、青宮がアイアンクローで黙らせていた。僕と葛城は、それを見て笑う。


「やべぇ、バスきてる」

「急げ急げ!」

「葛城おせぇよ!」

「うるさいな……。はぁー、はぁー」


 ぎゃーぎゃー騒ぎながらバスに乗りこんだ僕たちは相当うるさかったようで、ほかの乗客に睨まれてしまった。僕たちはバスの中ではなるべく静かに過ごすように心がけた。しばらくバスの中で揺られていると、眠気に襲われる。ああ、そう言えば昨日も夜遅くまで本読んでたから寝不足だったんだっけ……。青の街まではしばらくかかるみたいだし、寝てもいいよな。


 僕は、そのまま眠りについた。この三ヶ月間ずっと四人で一緒にいたせいで、忘れていたのである。自分の影の薄さを――。

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