十四話「ハロー、オカマさん」
「ぶっひゃひゃっひゃ! キザキお前……!」
「リッツー……。お前わかってて僕を書庫に入れたな?」
オカマ野郎が見えてない青宮、葛城、空森の三人が不思議そうな顔をしている。シェラは見えなくても事情は察したようだ。憐れむような視線を送ってくる。
椅子に座ってヒーヒー笑ってるリッツを睨みつけると、目じりに涙を浮かべながらリッツが言う。
「わりーわりー。そいつこの城の主である俺が書庫に入っても姿現さなかったから、主を選ぶヤツだとは思っていたけど……まさかキザキがなぁ」
「おいやめろ。その平凡なくせに勇者に選ばれたから意外と素質あるのかもなぁみたいな目」
「おお、よくわかったな」
リッツがわざとらしくのけぞったので、そのままラリアットをくらわせて椅子から落としたくなった。しかし相手はまおう。魔王なのだ。ここは我慢すべきだ。おまけにシェラもいるし。ラリアットくらわせた瞬間切られるとかありえそうで怖い。
「安心しろって。俺の城以外には出れないからさ、そいつ」
「金たまるまで一緒にいろと」
「だってキザキが選ばれちまったんだからしゃーねーだろ」
にゅーと唇を尖らせるリッツ。くそう、やっぱムカつく……!
「なぁ、何の話?」
「キザキが筋骨隆々な書庫の精霊に憑かれた話」
「マジかよ! 精霊なのに筋骨隆々って!」
空森は現実の厳しさに打ちひしがれたように見えない相手を見つめ、葛城はリッツ同様に大笑いしたのでラリアットをくらわせた。青宮は苦笑。
そうだよ、リッツの言う通りまさしく憑かれたと言うわけだ。精霊どころか悪霊にすら見える。こいつがオカマじゃなく見た目通りのハードボイルドな男だったらもう少し好感を持てたかもしれない。なのにこいつときたらオカマなくせに体ばっかり鍛え上げやがって……。オカマならオカマらしくしろよ!
「とりあえず食事とろうぜ」
リッツの言葉で、いつも通りのメンバーに半透明のオカマ野郎が加わった。オカマ野郎は何をするわけでもなく、ただ僕の後ろにくっついているだけだ。食事を終えても、それは同じだった。もしかして透けてるから僕に触れれないとか? そう思って訪ねてみたら「ダァリンはマスターだから触れるわよ」とのこと。おまけに下手くそなウインクをされた。両目瞑ってたぞ、もっと練習してからやれ。
僕がふざけた歴史書を書庫に戻しに行って、ついでにファンタジー小説でも読もうかと思い本を漁っていると、声がかかる。
「ダァリン、これおススメよ」
どうせろくなもんおススメしてこないんだろうなーと思っていたら、僕の好みにドストライクなファンタジー小説だった。内容は平凡な少年がある日異世界に呼び出されるんだけど、実は手違いでしたーってことで王城から放り出されてあてもなく異世界をぶらぶら旅する話。今の僕にピッタリな小説じゃないか……!
「オカマ野郎、だてに書庫の精霊名乗ってないな」
「嫌だわダァリン。アタシにも名前はあるのよ。だから名前で呼んで頂戴」
「え、あんの?」
「そんな本気で意外そうな顔されるとアタシ傷つくんだけど……ベルゼよ。ベルゼリリー」
随分と可愛らしい名前がきたもんである。オカマ野郎のくせに。これからもオカマ野郎って呼ぼうと思ってたのに、名乗られたんじゃ名前を呼ぶしかあるまい。
「わかったよ、ベルゼなベルゼ。サンキュー。部屋戻ったら早速読もう」
「うふふ。喜んでくれて何よりだわ。アタシはねぇダァリン。本好きな人が好きなのよ。ダァリンを選んだのも、ふざけた歴史書にも律儀に突っ込み入れながらも最後まで読んでくれるダァリンの性格を知ったから」
少しだけ、真面目な声でベルゼが言った。本好きな人が好き……か。書庫の精霊らしいな。て言うか突っ込み入れるとこ見てたのかよー。恥ずかしい。
「さ、早く部屋に戻って本読みましょ」
「ああ、そうだな」
僕はベルゼを連れて、自室へ戻った。