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十三話「書庫の精霊」

 僕は目を覚ましてからしばらく、ベッドの上にいた。


 恐ろしい夢を見た……何人ものオカマ野郎に追いかけられて、捕まえられる夢だ。捕まったあとのことは、あまりにも恐ろしくて口にはだせない。


「お、は、よ。ダァリン」


 野太い、頑張って裏声だしてます! って感じの声が聞こえ、ベッドに寝転がったまま声のするほうへ視線を向けると、開いた口がふさがらなかった。そこにいたのは、半透明で儚げで、だけどものすごく筋骨隆々な体……たくましい胸筋に六つに割れた腹、つまりは上半身に何も着ていない男が、浮いていた。しかも、僕が書庫から持ってきた本の上に。


「ええ……っと、どちら様で……?」


 あなた透けてますよ、とは流石に言えなかった。もしかしたら自分が死んだことに気づいていない哀れな幽霊なのかもしれない。幽霊なんて見たことなかったけど、案外僕も冷静だった。


 透けたマッチョな男の人は、ふっと困ったような笑みを浮かべる。


「やぁね、書庫の精霊に決まってるじゃなーい。ダァリン」


 まるでわかってるでしょとでも言いたげな態度。だけど僕はああ? よぉ聞こえんからもう一回言ってくれんかのう婆さんや状態だった。つまりはワンモアと言うことである。


「す、すいません。よく聞こえなかったのでもう一度……」

「だ、か、ら。書庫の精霊よ書庫の精霊。もーう、ダァリンってば耳が遠いのね、うふっ」


 ……こいつはオカマだ。僕はそう確信した。と言うか誰でもオカマってわかるだろう、この喋り方を聞けば。しかし殴りたいほどムカつく喋り方だ。世のオカマたちはもう少し細目と言うか、スリムではないか。なのに何だこいつの体。男です! と主張せんばかりの筋肉。胸筋! 腹筋! オカマなめてんじゃねぇ! と跳び蹴りをかましたくなる。僕はオカマのことなんてよく知らないし夢見たからむしろ避けたいぐらいなんだけどさぁ。


 そして、だ。書庫の精霊と言った。あの書庫はリッツや掃除係りの人も出入りしているから、オカマ野郎であるこいつが僕の前にだけ姿を現すのはおかしくないか? むしろ、城の主であるリッツの前に姿を現すべきじゃないのか。


 そう言うと、オカマ野郎は満面の笑み(キモい)で言った。


「アタシがダァリンを選んだからに決まってるでしょぉー。マ、ス、ター」


 語尾にハートマークでもついてそうなねっとりとした喋り方。これはあれだ、ぶりっ子と話す感覚に似ている。実際はマッチョなんだけど。

 いや、て言うか知らんがな。何勝手に選んでくれちゃってんの? フラワーウィドルで勇者に選ばれると言い、僕にはとことん運がないらしい。その時、コンコンと扉が叩かれる。いつも通り返事をすると、いつも通り「朝食の準備が整いましたので……」とのことだったので、ベッドから起きる。


 部屋から出ると、ぷかぷか本の上に浮いていた自称書庫の精霊のオカマ野郎もついてきた。長い廊下を歩いていると、前を歩く人影が目に入った。


「おはよう。青宮、葛城、空森」

「おーう。おはよ」

「よ、木崎」

「んー。おはよう」


 空森はまだ眠そうにしてる。それを見て葛城と青宮が苦笑している。いつも通りの朝だ。僕の後ろを、自称書庫の精霊ことオカマ野郎がついてこなければ。と言うかこんなヤツ、絶対空森たちにからかわれると思ったのに、どうやら見えてない様子。

 僕はこっそり後ろに回って小声でオカマ野郎に話しかける。


「なぁ、もしかして僕以外には見えてない?」

「リッツ様は別だけどね」

「え、やっぱ幻獣だからわかるの?」

「違うわ。リッツ様は特別な()を持っていらっしゃるから」

「何、それ――」

「木崎、置いて行くぞー?」

「あ、わり。すぐ行く!」


 青宮に声をかけられ、僕とオカマ野郎との会話は中断されてしまった。いつも通り食堂とは言い難い部屋に入ると、待っていたリッツが僕の後ろを見て爆笑した。

 クソッやっぱ見えてやがる……笑ったなリッツめぇー……!

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