17 アーガンソン邸で朝食を
ソルヴ・アーガンソンの朝は早い。
と、言うわけでは特に無い。
貧民街を考慮に入れれば、このサウスギルベナは不夜の街であったし、アーガンソン商会の女中達や食堂の勤務は二十四時間交代制で、早起きという考え自体があまりない。そうでなくても使用人達は夜が明ける前には目を覚まし、この敷地内にある自宅から勤めにやってくる。
ただ、ソルヴの身分を考えれば、随分早起きだとは言える。
ソルヴとしては現役の一商人のつもりであったから、昔と同じように生活しているだけなのだが。
ベッドから抜け出し、用意されていたテーブルの前に立つ。
大きな手で果実水の入ったコップを掴んで、飲み干す。
すぐにコップを置くと、ローブを脱いで全裸になった。
もうすぐ四十に手が届く。
だが、その体躯は歴戦の将軍を思わせるように厚みがある。冒険者であった若き時に負った傷は白くなっており、筋肉によって突っ張るように小さくなっていた。
秀でた顎に、大きくギョロリとした目。
元は帝都の政商であったことをその姿からは想像はできない。商人にさえ見えないだろう。だが、この不毛の地、ギルベナといえどある地域の支配者であることはその放つ雰囲気には似つかわしいと思えた。いや、帝都時代の彼をよく知る人間ならギルベナ程度の支配者で満足している現状に首を捻るかもしれない。
別の大きなテーブルには洗面のための道具と今日の衣装が綺麗に並べられている。
手早く洗面を終えると、下着から順番に並べられているそれをやはり素早く着てゆく。
部屋の中にはソルヴの他に、執事のチャーベリンがいるだけだ。
着替えを助けるための女中の姿はない。そしてチャーベリンもソルヴが起きてから一言も発さずに、着替えを手伝ったりもしない。ただ離れた場所に立っているだけだ。
ただし、この置かれている今日の服は、先ほどこの年老いた執事が用意したものである。
決して主人の目を覚まさないように、果実水と、着替えを用意した。あとはソルヴが目を覚まし、いつもどおりの朝を迎えるのを見守るのが朝一番の仕事である。
ソルヴは特に何を着たいということをチャーベリンに言うことはない。今日の予定や季節などから主人の着たいであろう服を選ぶのもチャーベリンの役割であり、服装に無頓着というわけではないソルヴの好みとその日の気分から服を選ぶことができるのも二十年、帝都時代から執事を務めているこの老人だけにできることだった。
今日の服は白い絹の布地に、襟の部分を緑と赤の糸で刺繍縫いした、帝都にある工房製の衣服だ。
派手なものではないが、帝都の城壁内で着ていても眉を潜めるどころか、見るものが見れば一言唸るだけの一品ではある。当然このギルベナでこれくらいの衣服を着ている者はソルヴ以外におらず、公爵でも手の出ないだけの値段がする。
ソルヴは実利を取る一流の商人としての自負がありながら、瀟洒であることには気を使っている。商人としてというよりは、元からそういったことが嫌いではないからだ。
優れた商人として節約は必ずしも美徳ではない。カネを最大限に活かす事こそ才能である。
つまりは、自分を心地よくする、人生を豊かにする嗜好品に金を惜しまないということだ。
素早く着替えると、そこにはいつもどおりの、精力に溢れた男の姿があった。この男の場合は目を覚ました時点で思考がはっきりとしているのが分かるほど寝起きはいいのだが、やはり身なりを整えた時の存在感は相当なものだった。
着替え終わったのを見て、チャーベリンが寝室のドアを開ける。
「おはようございます」
一人の男が廊下に立って、頭を下げていた。
浅黒い肌の、壮年の男だ。
無愛想というより、無表情なその男は、腹心アベルである。
チャーベリンがこの私邸内の管理責任者であるとするなら、ソルヴは仕事上の腹心。つまりはアーガンソン商会のNo.2に当たる男だ。
「うむ」
ソルヴは短く、返事を返すとそのまま歩き出す。
アベルはそのすぐ先を早足で先導していく。どこに行くかはソルヴ自身にも分かっているので、先導の必要など無いのだが、警護人でもあるアベルは扉を開け先を進んでいくためだ。
チャーベリンはついては来ない、彼は彼で主人のいなくなった寝室にメイド達を入れて、清掃の指示を出し、自身は別の仕事に向かっているはずだ。
ソルヴとアベルは会議室に入る。
天井の高いその部屋には、中央に二十人近くが座れる長方形の大机が置かれており、今はその上に十数人分の食事と、上座の一席を除いた椅子にはアーガンソン商会の幹部の面々が座っている。
ソルヴは黙って、開いている席に座って、ナプキンをかける。
アベルは席には着かず、ソルヴの後方に立つ。
朝食を兼ねた会議だ。
参加しているのはアーガンソン商会の各部門の責任者、それに相談役である老婆ジガである。あとは珍しいところでは工産部のウォルボルトが参加していることだろうか。
部門責任者と言っても、工産部つまりはアーガンソン商会の専属鍛冶師の人数は現在ウォルボルトを入れて二名しかいない。業務的にも修理保全が主であり、わざわざ幹部会議に参加したりはしない。実際の身分的には同席している幹部連中より一段低いのだ。
とは言え、彼と、女中長である妻のマーサ。今、この朝食会議の給仕をしている恰幅の良い中年女性。この二人はアーガンソン家に仕えて十五年以上になる。ソルヴが拠点をサウスギルベナに移して以来の奉公人であるから、この夫婦に対する信頼は厚い。
会議と言っても、ほぼ細々とした報告と確認であり、淡々と進んでいく。
一段落したところで、アベルが口を開いた。
「少し気になる事案が一つ発生した」
それはソルヴに向かってではなく、幹部連中に向かってのものだ。
「中央、書令府より直接、我がアーガンソン商会に書状が届いた。当商会の鍛冶師見習い、ヴェルンド・ウォルコットに帝都学園の初等部特待生受験推薦状を出す用意があることと、ヴェルンドの学園入学に対する意志の有無についての問い合わせである」
少し毛色の違った議題に幹部たちがソルヴの顔色を伺う。
アーガンソン商会の見習い、つまり五歳から七歳までの子供達のことである。彼らは各部門で一定期間づつ見習いとして働き、適正を測られる。そして八歳から本格的に進路が決められて一人前になるべく修行が始まるというのがこの商会のシステムである。
だから子供達の職業訓練をしている責任者は各部門を統括している幹部達なのだが、反面子供達は商会の所有物、つまりはソルヴの所有物という考えだ。
アーガンソン商会はこの地で十五年。今の見習い制度ができたのものここに来てからのことで、その従業員の大半は成人してから雇われたのは当然のことだ。そしてわざわざ乳飲み子の時から教育を施す、この見習い制度は一奉公人を教育するものではなく、将来の幹部を育成するためのものである。そのために、彼らはソルヴの一人娘と同じ場所で一緒に幼児期を過ごした。もちろん将来実際に幹部になれるかどうかは縁故ではなく、実力なのは総帥の性格を考えれば間違いない。
そのソルヴの所有物である彼らの進路については、ソルヴの一存で決定しても誰も不満には思わないはずだった。わざわざこのようなことを議題に載せる必要はないのである。もちろん実際はソルヴ自身が一見習いの子供達の進路に口を出すことはほとんどなく、適正や幹部達の思惑と本人の希望で決定される。
そういう実情がありながら、ヴェルンドはこの商会において一番将来有望な見習いだというのがこの商会内での評価だったから、その子供の進路についてソルヴが口を出すことは不思議ではない。先ほども述べたとおり、そんなことはソルヴの一存で決めればいいことなのである。
ここで話は少し逸れるが、ウォルボルトがこの朝食会議に呼ばれた事情が判明した。
ヴェルンド・ウォルコットという六歳の少年の父親は、同じ性からも分かる通り、ウォルボルトとマーサの間の子供である。
そして、ヴェルンドは現在、工産部つまり鍛冶師見習いとして働いている。となるとウォルボルトは父親であり、直属の上司になるのだ。
「ヴェルンドの様子はどうだ? マーサ」
ソルヴはウォルボルトではなく、給仕をしていた母親のマーサに尋ねる。これはヴェルンドの仕事ぶりを尋ねたのではなく、私生活の素行について聴いていることがわかる。
「六歳だからかどうかはわかりませんけど一つのことに集中すると他に目がいかなくなることが多々ありますけど、几帳面でしっかりとした子ですね。神経質なところもあれば、きっちりとしていますからズルい事もしません。親としてはもう少し子供らしくしてほしいですけど」
マーサがハキハキと答える。ソルヴの声色は気軽な、世間話でもしているような調子だが、場は会議であるので親ばかにならないように気をつけて答える。
ソルヴは、曲者ぞろいのこの屋敷の中でも、何の変哲もない町民出身であるマーサの言葉には信頼を置いている。彼女が自分の子をそう評価しているなら間違いはないだろう。
とはいえ、久方ぶりに兄の方にも直に会ってみるか?
やはり品定めにおいて、自分の目以上に信頼のおける方法はない。
「ふむ、良い子に育っているな。で、仕事ぶりの方はどうだ?」
内心の思考とは別に、今度は教育係でもある父親のウォルボルトに顔を向ける。
「そうっすねぇ」
ウォルボルトが無精髭の浮かんでいる顎を擦りながら上を見上げる。本人はこれでも精一杯丁寧に喋っているつもりである。それでも会議の場でなければ、マーサの鉄拳が飛んだところだが、今は彼女が眉を顰めるだけで済んだ。
「仕事の覚えはいいですね。地頭がいいのもありますけど、ものづくりが好きなことが大きいとおもいますよ」
「そう言えば」
口を挟んだのは商営部、つまり商人部門の幹部だ。商営部のトップはアベルだが、彼はソルヴの秘書でもあるので、実務上の管理はこのNo.2が行っている。
「ヴェルンドはあまり商人には向いていませんでしたね。弟の方は意外と適正はありそうでしたが」
『意外と』という言葉に再びマーサの眉が上がったが、給仕でしかない彼女の様子など誰も気がついていない。
「まぁ、ヴェルンドは典型的な鍛冶馬鹿みたいですからね。父親だから言うわけじゃねぇが、鍛冶師としての適正はあると思いますよ」
ウォルボルトは、本心では適正があるというだけではなく、このままヴェルンドを鍛冶師として教育するのがいいと思っているが、それを決めるのはソルヴであることを分かっているのであえて口にはしなかった。
「で、あれから何か新しい発明はしたか?」
あれというのは、ヴェルンドが数カ月前に発明した『挽き肉機』のことだ。ウォルボルトにはその価値が分からなかったが、相談役であるジガが面白がり、それにソルヴも許可をしたので専売権を取得して販売を始めた。
販売しているのはこのサウスギルベナの東にある自由都市。そして帝都でも売りだした。最も売れたのはこのサウスギルベナで、次に自由都市、帝都ではほとんど売れていないらしい。商売としてはおそらく赤字だろう。
サウスギルベナで売っているものは卑金属製のもので、安いが構造も単純にしてあり壊れやすい。自由都市と帝都に卸したものは手間がかかっていて売れても利益がでない。
ただギルベナでは食肉事情に合っていたのか普及しているようだ。
「なにか色々と作っていますがね。まぁあれと同程度のものはないですね」
「天才児といってもそんなものか」
「俺としちゃ、その評判自体がどうかと思いますがね」
だがウォルボルトは親の贔屓目を差し引いたとしても、鍛冶師としての才能は自分よりヴェルンドのほうがあると思っている。
ウォルボルトはこのアーガンソン商会に拾われて、それから鍛冶師になった。つまり十五年ほど前のことである。元々手先が器用だったのとモノ作りも嫌いではなかったから鍛冶師として生計を立てることができた。
だが、本当に才能があるというのは我が子であるヴェルンドや、シクロップ家の長子の様な存在だろう。この子供達は生まれた時からそういった環境にあり、そして本人たち自体が鍛冶仕事さえできればあとはどうでも良いというような気質なのである。食うための選択肢として選んだウォルボルトとは根本的に違う。彼らはどちらかと言えば、鍛冶師が人種的な天職であるドワーフに近いのだろう。
『挽き肉機』にしてもその商業的な価値はウォルボルトには分からないが、発想自体は彼には考えもつかないものだった。単純な才能の差が現れた事例だとウォルボルトは思っている。
「色々変なものを作っちゃいますよ。ガラクタにしか見えないものも多いですがね」
しかし、『挽き肉機』も元々そうやって無数の創作から偶然出来た道具なのだ。親のウォルボルトとしては『天才児』などと過分な評判が立っているのを子供の将来のために快くは思っていない。
「少し、親ばかに聞こえるかもしれませんが、エドも含めて勉強も得意みたいですしね」
親ばかと言ったが、それは謙遜であるとウォルボルト自身が思っていた。ヴェルンドは同い年の子供、つまりはソルヴの一人娘と比べても格段に頭がいい。ヴェルンドに及ばないとはいえエドもそこそこ勉強ができるそうだ。ウォルボルトはもちろん、マーサも学がある方ではないので出来過ぎた子供達だといえる。
「で、先ほどの話だが、ヴェルンドは帝都の学園で学ぶつもりはありそうか?」
ソルヴの質問に、ウォルボルトはあからさまに顔を顰めた。
「帝都の学園ですかい?」
「いい。正直に言ってくれ、親としてでもいいぞ」
ソルヴはしかめっ面のウォルボルトに苦笑して、発言を促す。元々アーガンソン商会の見習いであるヴェルンドの進路について親であろうとソルヴに意見することはできない。そのことを「許可する」と会議の場で言っているのだ。
「俺たち夫婦は学がありませんから、学園の初等部ですかい? そこで何を学べるかはわかりませんが、鍛冶師としてなら学べることがあるのか疑問ですね。ただ、ヴェルンドの頭じゃ、もう教会の教室で学ぶこともないですし、このままいけば鍛冶師としても俺が教えることもなくなりそうです。今も主に教えてるのはガーランドのジーさんですからね」
ガーランドというのは、もう一人の鍛冶師で、ドワーフの老人だ。
ウォルボルトの答えに、ソルヴは笑う。
「学園では鍛冶師の教育はないな。とりあえず教会での勉強時間を鍛冶師修行に当てるとして、お前はヴェルンドを他に修行に出すほうが良いということか?」
「もちろん鍛冶師として育てるなら、ですがね。自由都市とか鍛冶師育成がしっかりしているところは色々とありますし、この街でもシクロップ家もありますからね」
ある家の専属鍛冶師や工房の鍛冶師が、他家や、所属ギルド以外のところに修行に行くのは珍しくない。ソルヴのところにも数年前までエッツという少年が修行に来ていた。だからソルヴがヴェルンドを鍛冶師として育てるなら、学園の初等部に通わせる必要は全くないのだ。学院となる高等部には建築学などを学べる学科があるが、学園の初等部は基本的に貴族や上流階級のための教育機関なのである。
ただヴェルンドは学力も高いので、ソルヴが鍛冶師として育てるつもりがないなら初等部に通わせるのも一つの選択肢かもしれない。
「普通に考えれば、そう思うな」
ウォルボルトの言葉にソルヴは頷く、
「そんなことは書令府にも分かっているはずだが」
才能のある子供を青田買い、つまり学園なり、学院なりの特待生試験の推薦状や学費の援助などで後見人となることは昔から行われている。が、あくまでそれは政治家や貴族としての才能であった筈だ。
「風潮が変わったという感じはないがな」
つぶやくように言って、そこでソルヴは話を変えた。
「それでは、エドゥアルドの方だが」
「また何かしやしたか?」
思わずウォルボルトは親としての一面を出してしまった。
「いや、小屋をふっ飛ばして以来何かしたという報告は上がっていないな。相変わらず自由奔放に過ごしているようだが」
「そ、そうですか」
ウォルボルトとマーサは内心でホッと胸を撫で下ろした。弟の方に対してはもう色々と麻痺している。
「実は、エドゥアルドの進路のことで報告がある。ジガ」
ソルヴは自身の右斜前に座っている小柄な老婆に目を向けた。
「ホ?」
まさか寝ていたのであるまいが、大きくクッションの効いた椅子に座っていたジガが、皺くちゃの眼を上げた。
「ジガ。エドの魔術師修行について皆に説明してくれ」
ソルヴがもう一度促す。老婆はモゴモゴと口元を動かした後に、ガラガラの声で喋りだした。
「前に、エドゥアルドに魔術師としての素養があることが判明したという話は覚えていると思う」
ジガはこのギルベナの魔道士ギルドのギルド長という肩書もある。
「それ故、ワシの主催する魔導塾に入会させ、行商人と黒魔術師の見習いとして育てるつもりじゃった。だが、先日当商会の新しい従業員として雇った者に灰魔術師の指導資格を持つ者がおった。ワシがエドゥアルドの適正を見るに黒魔術師よりも、灰魔術師としての才能の方があるように思える。またあの坊主は常日頃貧民街に出入りしているとの噂も聞く。この家の者に手を出す愚かさは分かっていようが、馬鹿はどこにでもいる。それにあまり無茶をされても当家の評判にも傷もつくだろう。そこで目付役の意味も込めて、エドにその男を付けることにした。ま、つまりはそういうことじゃ」
もう喋るつもりもないのか、そこまで一気に言って、ジガは目の前の湯のみに手を伸ばして、ゆっくりと飲み始めた。
ソルヴがウォルボルトとマーサのそれぞれに視線を送る。
「行商人のジャックを指導員としていたが、今日からはその灰魔術師を指導員にする。商人見習いも行商人から娼館酒場での下働きに変わる。マーサもそれなら不満はなかろう? 娼館酒場への出向は少し悩んだが、指導員の灰魔術師と少しでも長くいられるように配慮したつもりだ。それならあの子の好奇心も少しは満たされるし、ジャックよりもずっとつきっきりで見ていられるからな」
言われたマーサの方は夫に視線を送ってから頷いた。
「ウチとしては問題を起こさずいてくれたらありがたいですけど……」
「うん。エドゥアルドの場合は修行の進行具合次第では来年には学園に入学させることも考えている」
ソルヴの言葉に、ウォルコット夫妻の顔が同時に引きつった。
「ええっと、アイツを帝都の学園にですかい?」
ウォルボルトが一家を代表するように、ソルヴの意志を確認するように、言われたことを繰り返した。
「ああ。ナタリーが来年から初等部に入学する予定だ。そのお供としてエドを一緒に入学させようかと考えている」
「それはさすがに……」
エドゥアルドの素行を知っているだけに、ウォルボルトは戸惑いを見せた。息子に帝都の学園という未来の皇帝も通う場所で、ソルヴの一人娘のお供が務まるとは思えなかった。この辺境都市と違い、問題を起こせばエドの首が物理的に飛ぶだけでは済まない。ナタリーお嬢様のお供で入学するならソルヴにも責任が及ぶだろう。
だが、ソルヴも、ジガもウォルコット夫妻とは違う考えのようだった。
「なに、心配するな。エドはお前たちが思っているほど愚物ではないぞ。それに魔術師として育成するなら帝都に行くのが一番だからな。もちろんエドの場合は半年後の特待生試験に受かればの話だから、その受験の際に水が合うか合わないかは判断すればいい」
そう言うソルヴだが、ウォルボルトからすれば、水が合うとか合わないとかいうレベルの息子ではない気がする。だがソルヴとジガの様子は自身の判断に自信満々のように見えた。この二人が自信なさげにしているところなど見たことはないが。
「しかし……」
それでも、まだウォルボルトは懸念がある。
「そもそもエドのヤツはナタリーお嬢様に死ぬほど嫌われてた気がしましたが……」




