表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第二章 MOB男の人言奸計と片隅の原始星
57/132

13 ウ○コとチ○コが鉄板なのはどこの世界でも一緒








 どうも、エドこと、エドゥアルド・ウォルコット、六歳です。

お久しぶりです。いい天気ですね。




 赤目に白髪です。

 兎じゃないよ、子供だよ。


 今世では白人の少年やってます。

 前世の記憶を持つ転生者です。


 電波じゃないよ、子供だよ。




 あいもかわらず、帝国最南端の貿易都市、サウスギルベナで暮らしています。


 もっと正確に言うと、現在僕は、貧民街にいる。


 もっともっと言うと、たった今僕は、『箱庭』の中にいる。


 『箱庭』。

 覚えているだろうか?

 灰魔術の一つ。自他の夢に働きかける夢見系統の魔術である。

 夢の国というと、鼠が徘徊する世界を想像するが、まあ、言ってみれば自分の意識下に創った仮想世界といったところか。

 

 六年前、この世界に赤ん坊としてやってきた時にも活躍した魔術だ。

 六年前は師匠が造った『箱庭』だったが、今は自分で作れるようになった。二層世界になっており上層界は相変わらず、暗闇の中に六畳の畳、その上に茶箪笥とちゃぶ台が置かれているだけのシンプル設計だが、もう少し成長すればリフォームしようと思っている。

 いつもは下層界、つまり地下室的な場所に篭っているので、そちらの建築を優先している。

 

 今、この時、僕の意識は自分の中に造ったその『箱庭』にいる。

 肉体はどうなっているかというと、貧民街の掘っ立て小屋に寝かされていた。


 一応現実世界の様子も探ることはできる。

 額にある、魔術で造った『魔力の目』を通すことで周りの様子を見ることはできるのだ。


 セドリック師匠が使っていた時は発現者を起点に数メートルの範囲で自由に視点を変えられた。しかし、僕の場合は俯瞰で見ることはできず、視野は普通の目で見るのと変わらない。

 これは僕の能力の限界であって、何の意味があるのかと言われそうだが、寝ている時に外の様子が分かるということ以外に……ないな。いつもはほとんど使うこともない。


 その『魔力の目』を使って今の状態を確認する。

 見た感じは倒れたビデオカメラの映像みたいになっている。


 僕の横には病気の老婆がどす黒い顔で寝ている。

 なにか微かにうめき声が聞こえるが、これは足元のほうで座っていたナイジェル・グラフとか言うおっさんの、たしか二十五歳の灰魔術師だろう。


 僕はその二人と同じように、意識を失って倒れているのである。

 なんでこんな状況になったかというと、灰魔術、つまり積道の薬による薬害事故だ。


 魔病という病気で寝込んでいるおばあさんの治療のために、気化して、吸うと体の感覚を鈍化させる薬を炊いたのだが、別の作用もあったらしい。吸った瞬間にとても楽しい気分になった。


 ナイジェルさんが倒れているのは、香が原因でなく、消毒用のお酒をラッパ飲みしたからである。僕はお酒を飲んだことがないからわからないが、蒸留を繰り返した消毒用アルコールである。どうやら飲料には適さないようだ。 


 つーわけで、僕らはふたりとも動けない状態だ。


 治安がマックスに悪い貧民街で意識を失う危険性は、僕も十分認識している。

 若干ピンチではある。でもどうすることもできないし、やることもない。


 先ほど、この小屋から追い出した子どもたちが異変に気がついて、換気してくれるまではできることはない。気が付かなくても掘っ立て小屋なので、二時間もすれば香炉の薬も尽きて、自然と換気はできるかも。しかし子どもたちが助けてくれるかはわからない。目が覚めたら路上に捨てられていたということが不思議でないくらい荒んだ環境なのだ。

 

 そうはいっても、目が覚めるまではまな板の上の鯉。

 なので、この六年間どうしていたのかを振り返るにはいい機会だろう





 両親はアーガンソン商会という表向きは地方豪商、後ろではブラック企業なところに勤めています。社宅はこのアーガンソン商会の総帥、ソルヴ・アーガンソンという人の邸宅内にあり、家族みんながこの会社に勤めています。日本では六歳で働くなんて労働基準法云々以前の問題ですが、この世界、サウスギルベナでは五歳から見習い修行が始まります。


 だから、子供のうちから働いているからといって貧乏なわけではない。サウスギルベナの家庭の中では中の上かな。または上の下。三食ご飯が食べられて、一回一時間強、週三回といってもちゃんと教会の学校に通わせて貰えている。貧困層の多いサウスギルベナではかなり幸せな立場にいるんだろう。これはたぶん、アーガンソン商会というか、ソルヴという人が先進的で合理的な商人だからだと思う。


 家族仲は良好です。父ちゃんがよく母ちゃんに殴られていますが、姉弟間も仲がよくDVも虐待もありません。母ちゃんに殴られることはよくありますが。


 これが僕の家庭環境だ。


 僕自身のことというと。

 

 今世での僕の外見は、白い坊主頭に、赤い目。身長は一メートルとちょっと。同い年の兄と比べると十センチくらい低いが平均の範囲内だよね?。


 坊主頭にしているのは、ウチの姉ちゃん。七歳年上のミラお姉ちゃんとの折衝の結果だ。

 以前はスキンヘッドにしていた。なぜかというと髪を伸ばしていると不衛生で、シラミなんかが心配だったので、それならということでツルツルにしたのだが、ミラ姉ちゃんから泣いて止めて欲しいと懇願された。


 このミラ姉ちゃんというのは現在十三歳。

 茶パツで痩せてて、背の高い、見た目モデル風外人みたいな(自分もそうなのだが)姉なのに、我等二人の弟に対しては過保護な面がある。ブラコンと言ってもいいだろうか。

 しょうがないので長さで一センチくらいの坊主頭にしている。切ってくれているのはそのミラ姉ちゃんだ。


 体格は、ガリでもデブでもない。

 毎日質素少量ながら三食食べ、働いているのでガリにはならないが、当然デブなんて絶対ならないだろう。どれだけ日本が飽食かって話だよ。


 白髪に紅い目玉というと、なんだがどこかのVBのメンバーみたいな外見だが、この世界にはピンクや青と言った、もっとド派手な髪や目玉の人種もいるので、それほど目が引く外見ではないな。


 白い髪は北方系の民族に一部いるらしい。北方系というと、始皇帝に代表される金髪碧眼の白人種が有名だが、当然様々な人種がいるのだ。


 僕の本当の両親については多くのことは分かっていない。母親はアーガンソン邸の馬小屋で死んでいたということは分かっている。名前はエリス。どうやらソルヴ総帥の昔の知り合いだったらしいが、総帥達によって隠匿されているので詳しいことがわからない。


 父親の方はビスマルクだということだが、これも秘密。

 僕が父親の性を知っているのは六年前に師匠が総帥の話を盗み聞きしたのを教えてもらったから、ソルヴ総帥は僕が父親や母の名を知っていることをしらない。


 『名乗ると問題があるビスマルク』姓ということらしいが、この世界で最も有名なのは東方の大貴族ビスマルク家。この血縁者であったなら僕は大貴族のお坊ちゃんだということになるが、さすがにそれは都合が良すぎるか。一族の末席ぐらいには連なるのかもしれないけど、どこのビスマルクなのかは今のところわからない。


 どちらにせよ、生みの親より育ての親。この先も実の父親と会うことはないだろう。でも命をかけて産んでくれた実の母親には少しばかりのシンパシーはあるのです。こちらはソルヴ総帥の知り合いだからもしかしたら教えてもらえることもあるかもしれない。


 身体的なことと言うと、この六年間で興味深い変化があった。


 今僕は六歳だが、精神は前世の記憶があるので二十四歳であるはずだ。しかし時間が経つに連れて精神状態は六歳児の方に近くなっていっている。

 一人称も『俺』から『私』に変わることなく『僕』に自然となってしまった。


 決定的なのはこの『箱庭』の世界での僕の姿は以前は日本人の、高校時代の学生服姿だったが、今は六歳時の僕である。『ウンコ』と『チンコ』というキーワードが爆笑ギャグの鉄板になったり、叫びたくなったり、走り回りたくなったり、甘えたくなったり。


 精神は肉体に引っ張られるというのは興味深い。ただ実際問題があるのかというと、持っている知識がなくなるわけではないので気にしていない。

 いやー子供をたてに(かわいい)女の子に抱きつくのは至福の時間ですよ。



 仕事は、現在は厩舎の掃除をしている。


 行商や商隊を組む時に使う馬を、邸宅内の厩舎で飼っているのだが、その厩舎で馬のボロ、つまりウンコなんかを掃除している。一日何度も掃除しなければならないので結構大変。


 元々は、父ちゃんが鍛冶師なので、鍛冶師見習いを同い年の兄弟であるヴィと共に始めた。


 だけど、僕には向いていなかったのだろう。少なくとも兄ほどには。

 大体が工房の掃除なのだが、合間に教えてもらえる物づくりがまったく上手くもできず、面白くもなかった。そしてついに癇癪を起こしてクビになった。鍛冶はそんなに好きでもないのでいいが、まわりの評価が下がった。ヴィのできがいいんで尚更ね。


 次に配属されたのは、食堂の見習い。皿洗いと床の掃除係とかだ。


 料理長のドラミニクさんは言葉の多いほうではなく、見て盗めという昔気質な人だ。この世界では当世風ではあるのだが。僕としても別にそれに不満がない。ドラミニクさんは無口だし、水を井戸から汲むこと一つとっても重労働なのだが、黙々と働くのは嫌いではないし、料理をつくるのも前世の時から好きだった。


 んが、ここも一月も待たずにクビになった。


 当初ドラミニクさんの教育方針通り、その料理を見て学び、さらに発展されるべく頑張った。

 褒められたりしていたのだ。


 料理って基礎とレシピとアイデアがあればなんとかなる。前世でも自分でキャンプ料理くらいは作っていたし。特に宮廷料理人になるのわけではないので味覚だってそれほど鋭敏である必要もない。そもそも日本人の感覚だと繊細とは程遠い味付けなのだ、ギルベナ料理って。

 器用さはネックだったが、好きこそものの上手なれ。前世での料理の知識もあるし、まめな性格なので結構食堂の調理人ってあってるんじゃないかと思っていた。


 料理を食べるのも作るのも好きな僕は、自分でも空いた時間に端材を利用して作らせてもらえることがあった。

 僕はこの不衛生で、病気の蔓延しやすい世界で快適に暮らすために薬を極めてやろうと思っていたのだ。なんでかっていうのは色々あるので端折るがそう思っていたのだ。

 そして食も健康に重大な関わりがあるでしょ?  


 おまけにこの世界の料理って、飽食日本の出身だとかなりキツい。離乳食なんてとても食べられたものじゃない。美人のお姉さんにかしずかれてでもなきゃ食べる気なんてまったく起こらないよ。


 そこで僕は料理を試作した。いわゆる薬膳料理。

 美味しく食べるだけで健康になれるというやつだ。

 それをドラミニクさんに食べてもらったら、なんだか彼の全身に正体不明の出来物ができた。何か言葉を喋る怪しい出来物だ。凄いでしょ? 結局、食堂は一週間閉鎖になって、僕はクビになった。


 次に、回されたのが商営部。つまり商人部門のことだ。


 アーガンソン商会というだけあって、最大の部門である。

 色々な仕事があり、一定期間ごとに部門内の色々な部署に回されている。

 前世で大学に合格した僕、しかも五年もこの世界にいたので、読み書き算盤はまったく問題はない。


 やっとこさ自分の適性と社会の許容範囲での折り合いが見つかった気がするが、この頃にはもう僕の評判は落ちるところまで落ちていた。自業自得とも言う。でも幼いころの奇行なんて後々笑い話になるだろうと気にしないふりをしています。


 今は言ったように厩舎での掃除だ。


 あまり器用でない僕だが、動物の世話は性に合っているみたい。重労働だけど、馬と番犬という同僚とは文字通りウマが合うらしい。この歳で馬に乗れます、というのが唯一の自慢か。またがるまでは持ち上げてもらわないと乗れませんが。


 で、毎日、馬のウンコ、ボロを掃除する毎日。

 誰と喋るわけでもない。日がな一日ウンコを放り投げる日々。相手になってくれるのは番犬だけ。


 馬の奴らは意外とツンデレで、興味のない時やブラッシングや食事する時以外は本当に相手になってくれない。しょうがないのでどれだけ遠くからボロ取りフォークでウンコを投げられるかをやっていたら、怒られた。



 ウンコと言えば、エド。

 エドと言えばウンコ。


 これが僕の仕事だ。


 







何の変化もない思い出話が三回ほど続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ