005 師匠と弟子になりました。
どうも、エドことエドゥアルドです。
どうやら、異世界に転生したらしいです。
異世界に転生して2日目。
再び五感も働かず、体も動かない闇の中にいますが、心に灯るこの希望の光りはなんでしょうか。
爆発で巻き込まれ、寝たきりになったと思っていたのですが、それは爆発が原因でなく、生まれたばかりなので、まだ体が上手く機能していないだけだそうです。
昨日、師匠が教えてくれました。
師匠? と思われた方。
はい、そうです。師匠ができました。
その人物は、夢枕の平安イケメン、セドリック・アルベルトさん。
彼がワタクシ、エドことエドゥアルドの教師役を務めてくれることになったのです。
さてさて、
昨日、セドリック師匠から異世界に転生したと告げられたわけでっけども。
転生の原因は分かっていません。爆発が原因で死亡し、その魂が何故か前世の記憶を持ったままこの世界に新しい命として誕生したのかもしれないし、あの光りの爆発自体が召喚魔法に関わるものだったかもしれない。
お師匠さまの話によるとですね。
転生者と転移者がいるとのことです。
転生者と言うのは前世の記憶をもったまま、この世界に生まれた人間のこと。なので、俺のように異世界日本からこの世界に生まれた人間は勿論転生者なんだが、元からこの世界の人間が、再び前世の記憶や能力を持ったまま生まれても転生者と言うんだそうだ。
転生者の特徴としては、記憶の引継ぎは勿論だが、能力の引継ぎもできる場合が多かったりするので、成長すると歴史に名を残すような英雄になることが多いらしい。
おお、なんか希望のモテそうな話だ。ん? でもボク、前世でも平々凡々な高校生だったんですけど? いやいや、健康が一番、健康が一番。南無ぅ。
話を元に戻すと、異世界人で、更に転生者という存在自体の方は大変珍しく。師匠の300年以上の人生で初めて見たそうだ。
おおっと。また興味深い事実ですね。セドリック師匠は300歳?
んじゃ転移者の説明と共に、そのあたりのことも。
転移者というのは、異世界からやって来た人間のこと。
セドリック師匠はこの転移者というやつで、俺と同じ日本人。ただし、やってきたのは1000年以上も前の日本。そこで師匠は朝廷に勤務するお役人だったそうだ。空の様子から、それが地上に及ぼす影響を読み取り、朝廷に助言する役職らしい。天文占いか、お天気キャスターみたいなもんかね?
で、300歳という年齢の割には、どう見ても20代後半のイケメンなんだが。
これには理由があって、もうずいぶん昔に人間を止めたらしい。
あ、失礼。コホン
おれは、人間をやめるぞ! ジョ○ョー!!
一応、言っておかないとね。
まぁ、別にへんな仮面を被って人間を止めた訳ではなく、魔法を極めていったら霊体だけ(のような)の存在になったらしい。 さらっと言いましたが、この世界には魔法というものがあるらしいが、今更驚かんね。だってわたし、転生者だもん。
で、師匠がこの世界に来たきっかけだが、
それは300年前に王国で行われた召喚儀式が原因らしい。
ちらっと話してくれたところによると、異世界人の召喚は王国の王室にしかない秘儀で、今までこの世界にやってきた全員が、この王室の秘儀で呼び出された人たちらしく、師匠はその第1陣の一人なんだってさ。
とはいえ、突然呼び出されて、国家の犬となることを強要された師匠は憤慨し、並み居る王国兵たちを蹴散らし蹴散らし、帝国に逃れてきたらしい。
そして、この帝国で、日本で学んだ呪いとこの世界の魔術を組み合わせた新しい魔術。
黒魔術師達が『灰魔法』と呼ぶ新しいジャンルの魔術を生み出したらしい。
スッゲー! 師匠、開祖じゃないっすか。
『灰魔術』がどんな魔法かは追々わかると思います。師匠から教えて貰えるそうですから。
ここで、一つ疑問。
師匠は300年前に1000年前の日本から、この帝国にやってきた。
俺はその1000年後の現代日本から、300年後の帝国に生まれた。
フム、ずれとるね。
まぁ、師匠と俺が同じ世界の日本だったかどうかは確認できないわけで、もしかしたら似て非なる日本から来たのかもしれないし。
しかし、このことは俺にとってそんなに悪い話でもない。この先成長して、元の世界に戻れることがあったとして、実際戻ってみたら、浦島太郎でしたってことも十分ありえるが、時間軸が違うなら、それほど先でない日本に帰れるかもしれない。あ、ちなみにこの世界の時間の進み方は、現代日本と同じなんだそうだ。つまり、1日24時間、1週間、1年は365日で12ヶ月。もしかしたら異世界人がそういう文化を持ち込んで定着したのかもしれないな。
あと、重要なことだったね。
元の世界に戻る方法。
これは、残念なことに師匠は分からないとのことだった。
呼び出す儀式は王室の人間しかできない秘儀の上、師匠は王国と喧嘩して帝国にやって来て以来300年間、王国に足を踏む入れることはなかったらしい。
もちょっと、つっこんでその辺りの話を聞きたかったが、師匠が寂しそうな表情を浮かべたので、それ以上は聞かなかった。
そもそも、転移者じゃない転生者である俺が、同じ方法で戻れるかどうかはわかんないし、それよりも五体満足で転生できていたことに感謝すべきだな。うん。
それから、最後に冒頭で述べたとおり、師匠セドリック・アベルドにワタクシ、エドことエドゥアルドはこの国の言葉や、師匠が開発した『灰魔術』を教えて貰えることになった。
師匠が俺に接触してきた理由。
それが、『灰魔術』の伝承だ。
師匠は300年前、この世界に来て、『灰魔術』を生み出した。その後、術の研鑽に励み、霊体の存在まで上り詰めたのが250年前。それまでには、弟子達も沢山いて、『灰魔術』という新魔法もそれなりに広まっていったそうなのだが、ここで、一つ問題が。
それは、師匠が300年かけて開発した『灰魔術』の奥義を伝える人がいなかったそうなのだ。
特に、250年前からは、霊体 (のような)存在になり、不老に近いのだが、その代償として師匠が住んでいる大山脈の深山から動けなくなったそう。
で、200年ほど経ったところで、弟子達に奥義を伝えようにもそんな辺境の山奥に来る人もめったにいない。それが『灰魔術師』である可能性はもっとない。
となると、こちらから何とか『灰魔術』の奥義を伝えるに相応しい人物を呼び出すしかない。できるのは夢枕にたってメッセージを伝える方法だけ。夢の中に立つ方法もなかなか条件が難しく、しかも範囲はなんとかこの街までだったので、辛抱強く適任者が現れるのを待っていたそうなのだ。
あれでもない。
これでもない。
もちょっと良さそうな物件が良いでごじゃる。
とやっているうちに50年。
ようやく素質のありそうなのを見つけた。それが俺 (ウヘヘ)
見れば、なにやら魂の波長が近く(同じ日本人だから?)
前世の記憶がある転生人の赤ん坊(やっぱり一から教えた方がいいらしい)
これだ! というわけで、早速夢枕に立って、弟子になってくれるようにお願いしようとしたらしい。
が、ここで一つ問題が。
なぜだが、生まれた子供に接触しようにも、屋敷に防御結界が張られていて夢の中に入れない。
さて、どうしたものかと思っていたら、突然屋敷を覆っていた結界が吹き飛んだ。
ついでに、師匠も吹き飛ばされそうだったらしいが、そこはなんと言っても『灰魔術』の始祖。
邪魔するものがなくなったので、理由はどうあれ、今しかない。と俺の夢の中に入ってきたそうなのだ。
で、防御結界が回復するまでに一つお願いをされた。
それは師匠が夢枕に立つことを許可すること。
特別術をかける必要はなく、心の中で認識するだけでいいらしい。
これで、師匠は俺が眠っている間、防御結界が回復しても俺の夢枕に立つことができるらしい。
とまぁ、こんな感じで、第二の人生が生誕2日目からのお勉強という、超スタートダッシュで始まったわけですが。
んー。なーんか胡散臭いんだよねぇ。
別に、師匠がウソをついているとは言わないが。
なんかまだ話していないことがありそうな感じがするんだよなぁ。
とはいえ、今はこれ以上判断材料がないわけだし、師匠の申し出はこちらにメリットが大きくあるのも確か。
面倒くさいことになってきたら、ダッシュで逃げれるようにだけは心構えをしておいて、今は一生懸命勉強するしかないよな。
そいうえば、春から大学生でウハウハのキャンパスライフだったはずが、
闇の中で貫徹か……
まぁ、いいんですけどね。健康だったら。
いや、本当に。