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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第一章 MOB男な新生児は他業無得の零才子
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EX03 我が家に天使がやってきた 3




「クレオリア様が誘拐されました」


 父上の補佐であるラウールからの使いが来たのは、日が変わる頃だった。

 僕はざわついた屋敷の空気が気になって、その使者からの言葉を扉の隙間から覗いていた。


「父さん!」

 執務室にいたのは父上と、起きていた兄さんだった。

 父さんが使者の言葉に気を失って倒れたのを兄さんが駆け寄っている。僕も扉の向こうでへたり込んでいた。


 クレオリアが誘拐されたって!?


 僕は明日、クレオリアに謝ろうと思っていたんだ。

 それなのに事態は子供の僕には理解できない状態になっていた。


 何とか体を起こして、ばれないうちに部屋に戻った。


 シーツを頭からかぶって、色々な感情が頭をめぐる。


「ウィー?」

 兄さんが部屋に様子を見にやってきたけれど、僕は寝たふりをしてごまかした。


 シーツの中で僕はクレオリアのことを考えた。


 まずしいギルベナでは、小さな子供が死んでしまうことはよくある。

 僕の知っている貴族の子供にも、商人の子供にも、死んでしまった子は沢山いる。貧民街の子供達ならなおさらだと思う。

 サウスギルベナで五歳から、下働きに出されるのは、五歳までは生きれるかどうかわからないからだ。


 だからクレオリアが生まれつき体が弱いということも珍しい事じゃないし、生まれつき体が弱い赤ん坊はきっと五歳を迎えることはないのは七歳の僕でも分かっていた。

 だから、兄さんの言うとおり、クレオリアが無事大きくなることができなかったとしても、僕がクレオリアのことを嫌っていたこととは関係がない。


 でも、僕は妹なんて生まれなきゃ良かったと、そう思ったのは本当のことだし。

 クレオリアが五歳になる前に死んでしまうかもしれないのも本当のことだ。


 そして、クレオリアは誘拐された。


 僕にはクレオリアの病気を治すことはできない。

 でも、誘拐されたクレオリアのためにできることはあるんじゃないかな?

 それはとても勇気のいることだけれど、勇気さえあればできるんじゃないだろうか?


 僕は大きく息を吸って、シーツから抜け出した。

 月明かりを頼りに、着替えを探す。

 それから僕は、そっと部屋を抜け出した。






 こんな夜遅くに、外に出たのは生まれて初めてだ。

 まだ、冬は来ていないけれど、外はすごく寒かった。


 誘拐されたクレオリアはどこに行ったんだろう。

 僕の考えるに、貧民街の中だ。

 夜は街へ出る門が閉められているから、街の外に出ることはできない。だとすれば、明るくなるまで隠れる場所が必要だ。

 この街で、身を隠すなら貧民街ほど適した場所はないと思う。

 他にも場所はあるかもしれないけれど、一番ありそうなのは貧民街だ。


 僕は服のエリを立てて、寒さに身を小さくしながら進む。

 ここから貧民街まではかなり遠い。

 夜が明けると、悪い奴らは妹を連れて街から逃げてしまうかもしれない。


 夜の街は人の姿が全くない。音もない。

 建物からは灯りがもれている場所もあるので、歩くことはできる。




 変な雰囲気になってきたのは、居住区に入ってからしばらくしてだ。

 ここを越えれば、やっと貧民街へ入る。

 時々、兵士達が走り回っているのを見かけたが、その度に物陰に隠れた。

 そうして家を出てから歩いて、2時間くらいはたったと思う。

 足の裏が激しく痛んだ。

 それでも、朝までの時間を考えると休むわけにもいかない。


 でも、僕は立ち止まった。

 変な雰囲気。理由は分からないけれど何か変だ。

 なんだろう?


 僕は通りの先と、後ろを振りかえって来た道を見た。

 暗いけれど、特に何かあるようには見えない。

 横にあった路地を見る。

 音がした? ような気がする。


 路地は通りよりもさらに暗くてよく見えない。

 僕はそっと路地に近づく。

 タルや木材が詰んである。

 何も変わったところはない。

「え?」

 僕は資材の影に何かいることに気が付いて、反射的に後ろに下がった。

「!」

 でも僕は何かに背中がぶつかった。いや、何かじゃない、誰かだ。

 叫び声を上げそうになった口が塞がれる。

 口だけじゃなくて、体も押さえられていて動かない。


「ンー!」

「騒ぐな」

 野太い男の声と、僕の喉に冷たい金属が押し付けられて、僕は一瞬で黙った。

 男は僕が黙ったのを見て、そっと口を押さえていた手を離した。


「そっと、こっちを向け」

 男の声に従い、僕は男の方を見た。僕が今、路地に入ってきた方。つまり通りの方に三人の人影が見えた。先頭の男が僕の口を押さえていたヤツだ。三人の姿は暗くてよくわからない。でも、誰かはすぐに分かった。

 盗賊ギルドの人間だ!

 男達は単なるゴロツキとは違う感じがしたからだ。


 男達も少し僕の顔を見て、驚いているような気配がした。

「貴族の子供? こんなところで何をしている?」

 男の質問に僕はなんと答えるか一瞬迷った。

 何も答えないのはいい結果になりそうにないのは空気で分かる。


「い、妹を探しているんだ。クレオリア・オヴリガン」

 僕は正直に答えた。もしかしたらコイツらがクレオリアを誘拐した一味かもしれないけど、それならそれで、なにか情報を聞き出せるかもしれない。

「オヴリガン……。公爵家の?」

 男は僕の答えに後ろの二人のほうを振り返った。

 後ろの二人は首を横に振って男に答えている。それがどういう意味なのかはわからない。


「お前達が妹を誘拐したんじゃないのか?」

 僕はもう一歩踏み込んで、男達に質問した。

「公爵家の子供が誘拐された? 街中を兵士がうろついているのはそういうことか」

 男はもう一度、後ろの二人を振り返った。今度は二人が縦に首を振る。

 どういう意味なんだろう。返答を間違えたのかもしれない。

 僕の背中に、いやな汗が流れる。


「公爵家のお坊ちゃん。俺達はお前の妹のことは知らない。でももし見つけたら、ちゃんと家に連れて帰ってやるよ」

「本当に?」

 僕は盗賊達の意外な答えに、思わず問い返していた。


「ああ、もちろんお礼は弾んでもらうぜ。そこでだ、お互いの利益のために正直に答えてくれ」

 男が僕の顔を覗き込んできた。暗闇の中に白い目玉だけがギョロりとしている。

「俺達以外の誰かを見たか?」

 男の声が一段低くなった。僕はゴクリと唾を飲み込んで、首を横に振る。

「じゃあ、路地で何をしていたんだ」

「……へ、兵士達が来たような気がしたから、路地で隠れようと思ったけど、あんまりにも真っ暗だからやめようとしたところだったんだ」

 僕はなぜか嘘をついていた。

「……」

 男は無言で僕のことを見つめていた。まるで僕の心臓の音を聞こうとしているかのようにじっと僕の目を見つめている。


「どこに行こうとしていたんだ」

 男の声が、若干緩んだように感じられる。

「ひ、貧民街に妹を探しに」

「なるほど、だがあんまりいい考えだとは思えないな。悪いがお前じゃミイラ取りがミイラになるだけだ。貧民街は俺達みたいにやさしい連中はいない。頭の悪い短絡的な連中も多い。お前を見れば、どうやったら金になるかを考えるような連中さ」

「あんた達はそうじゃないのか」

「ああ、俺達は盗みも誘拐もしない。俺達の仕事は仲間を裏切ったり、嘘をついたヤツに罰を与えるのが仕事さ」

 そう言って、男は持っているナイフを僕の顔の前に掲げた。


 僕の心臓は強い力でギュッと握りつぶされたみたいになっていた。口からは何かが出そうだけれど、恐怖でフタされたみたいになっていた。


「後ろを向きな」

 男の言葉に従い、固まった体をなんとか反転させる。

「公爵家のお坊ちゃん、俺達の事は見なかった。いいな?」

 男が耳元でささやいた言葉に、僕は必死で頷いた。

「よし。じゃあ、今から心の中で十数えるまでそのままにしていろ。それから家へ帰れ」


 男が耳元から口を離した。

 そして、男は何も言わなくなった。だが、立ち去ったような足音もしない。といっても気配もわからない。

 僕は必死で数を数えた。


 十数えたけれど、僕は後ろを向くことができなかった。

 目を思いっきり端に寄せて、後ろを見ようとしたけれど、頭の後ろはどんなにがんばっても見えない。


「連中なら行ったぜ」

 予想外の方から声がして、僕の心臓の鼓動ははね上がって、もう限界だった。

 僕は腰から下にまったく力が入らなくなって、地面にへたり込んだ。

 前方、路地の奥の闇からなにか引きずるような音が聞こえた。


 やがて目の前に誰かが立っているのがわかった。

 僕はその人影を見上げる


「ヘドニクス?」






 

前回、終わるといいながら、終わりませんでした。

というのも、なにやらなろうで投稿するには1回3000文字くらいがいいと読みましたので、それに合わせて2回にわけました。しばらくは1回3000文字で投稿していこうかと思います。もう書きあがったので次回で間違いなく番外編第3話終了です。

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