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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第一章 MOB男な新生児は他業無得の零才子
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ED グッバイ・マイ・ワールド



 どうも、エドこと、誘拐されていた新生児エドゥアルド・ウォルコットです。

 

 現実世界の俺達は、アーガンソン商会というお金持ちの屋敷で24時間厳戒快適体制でお世話して貰ってます。アーガンソン商会は例の俺の父親かもしれない危ない人物が経営している会社らしい。ただ、育ての親は使用人の人らしく、部屋で寝ている俺の顔を見に毎日訪れてくれていた。

 お世辞にも金持ちには見えないが、二人ともいい人そうで一安心である。


 ちなみにこの部屋にはもう一人、つまり三人の赤ん坊がいる。俺と姫様以外にいるのは、ソルヴとかいう俺の親父かもしれない人の正式な子供で、女の子だ。生まれたのは向こうのほうが早いらしいのでお姉ちゃんということか。ま、俺は今後使用人として生きていくので関わりはあまりなさそうだが。


 姫様の方にも毎日お父さんと、姫様のお兄さんにあたる男の子達が来ている。正直お父さんはメタボでなんだが残念な父親だが、お兄さん達は可愛らしい顔をしていたから、姫様も将来安心かもしれない。もちろん姫様は兄弟がどうであろうが、将来は美人になるだろうというオーラを放っていらっしゃるが。


 俺たちは、ここのところずっと眠っている。だからこそこうして『箱庭』の世界にいられるのだが。

 原因はエミリさんに二人の生命エネルギーを送ったことで、衰弱したからだ。

 エミリさんが刺されたのを見た姫様が叫び声を上げたと思った瞬間、俺の目は覚めた。どうやら姫様の『箱庭』からはじき出され、そのショックで俺まで目を覚ましてしまったのが原因だったようだ。


 殆ど視力の効かない目で、俺たちは一人の女性が、ずっと言葉を掛けてくれているのを感じていた。何を言っているのかは分からない。けれどそれはとっても優しい言葉だったのはわかった。だから俺達は彼女に力を送り続けた。やり方を教わったわけでも、二人で相談したわけでもない。ただ必死に彼女に祈りを送っていただけだ。


 再び俺が眠りに落ちて、師匠との意思が繋がり、夢の中に『箱庭』を作れたのは、俺の魔力が尽きてからだった。

 師匠の『目』が再起動して、外界を見れるようになった時には、エミリさんは既に息絶えていた。

 姫様も意識がないのが見えた。魔力量が俺よりも多い姫様が同時期に昏倒していたのは、彼女が全力で雷撃の黒魔術を放っていたからだ。


 姫様の『箱庭』にも再び入れるようになって、俺は彼女にエミリさんが死んだことを伝えるか迷った。

 嘘をつくことはできたと思う。でも俺は姫様にエミリさんの死顔を見てもらった。

 何の縁もない俺達を庇って、死の間際まで救おうと足掻いた女性の顔は穏やかに微笑んでいたからだ。その顔を姫様にも見て欲しいと思った。その顔を見た彼女がどう思ったかは分からない。俺もエミリさんの死顔を見て沸き起こった自分の感情がなんなのか、まったく理解ができなかった。

 それでも、この時のエミリさんの微笑を、俺は、俺達は、決して忘れちゃいけない気がした。




 今、俺たちはセドリック師匠の前で正座をして座っている。

 そう言えば、一度『箱庭』の灰魔術が解けた後、時間としてはすぐに師匠とは再会したが、その時俺たちが昏倒した理由を知って、師匠には初めてマジギレされて、説教された。生命エネルギーの譲渡という技は、下手をすれば死んでいたかもしれない危険な行為らしい。ま、俺も姫様もまったく反省なんかしていなかったし、師匠もそんな俺達を見て最後は苦笑いを浮かべていたが。


 で、俺達は今、最後の話し合いをしている。

 最後の、というのは、いよいよ姫様がアーガンソン商会の屋敷から、公爵家へ帰ることが決まったからだ。今は隣同士で寝かされているので、こうして姫様の『箱庭』で言葉を交わすことができるが、住む場所が違えば『夢見』の灰魔術を掛けることはできない。少なくとも何年間かは会えなくなるだろう。


「これから貴方の魔力を使って、眠った時には貴方一人でも『箱庭』に入れる方法を教えておきます。が、わたし達はクレオリアさんと離れてしまえば貴方の中に作った『箱庭』に入ることはできません。あくまで貴方だけが使える空間です」

「その『箱庭』の効力はずっと続くの?」

 姫様が質問する。彼女はエミリさんの死にかなりショックを受けていたようで、ここ数日は口数も少なかったが、ようやく元気が戻ってきたようだ。


「持つと言っても一月ほどでしょうね。その間に魔術の基礎訓練の方法を学んでください」

 そういうと師匠は扇を振って、一冊の書物を具現化すると、それを開いた。何も書いてない白いページが見える。そこに師匠はふっと息を吹き付けた。師匠の口から黒い霧のようなものが出て、それが白いページに黒インクというのか、筆文字で字を書いていった。


「これは灰魔術や黒魔術を専門的に学ぶ前に必要な、基礎魔力を鍛えるための方法を書いたものです。クレオリアさんは灰魔術師ではありませんから、私が教えることはできません。だから、この本を読んで魔力の具現化、純化、魔素把握操作。そういったすべての魔術に共通する基礎技術を学んでください。あとは起きている時にそれを実践してください」

 師匠から姫様が本を受け取ってパラパラと眺めているのを、俺も横から覗き込む。

「あら? 字が読めないのに意味が分かるわ」

 姫様がそう言ったが、横から眺めている俺には何が書いてあるのかわからない。それは確かに日本語なのだが、崩し字の古語だったからだ。どうやら姫様だけには意味が通じるように仕掛けがしてあるらしい。


「その本は私の記憶を貴方の魔力と交ぜて具現化したものですから、クレオリアさんが文字をみればその意味を理解することができます。ただしこの『箱庭』の世界でしか読めないですし、一ヶ月の期限が来て『箱庭』の効力が切れても読めなくなります。ですからそれまでに自分でできる基礎訓練の方法を学んでください」

「はーい」

 姫様はパラパラと本を捲った後に、それを脇に置いた。師匠が身なりを直して、きっちりと俺達に正対して座ったのを見て、俺もきっちりと正座した。慣れない正座で足が痺れそうだったが。


「二人はこれからどうするつもりですか?」

 師匠の問いに、俺達は顔を見合わせた。この世界に転生して数週間が経過していると思う。今までは目の前のことに対処することに必死だった。だが確かに今はこれからのことを考える時にきているだろう。


「私は日本に帰る方法を探すわ」

 姫様が先に、きっぱりと言った。

「日本には待っている人もいるから」

「ですが、それは困難な道ですよ?」

 試すような師匠の言葉に姫様はやはりきっぱりと答える。

「この世界で生きていくのも十分に困難な道ってやつだわ」

 師匠はその答えに頷く。それからこちらを向いた。


「俺? 俺はー」

 二人からの視線に俺は上を見て、答えを探した。

「わかんない」

 それが、答えだった。

「姫様と違って、日本にもこの世界にも特に待ってる人はいないし」

「日本にご家族はいるんじゃないの?」

 姫様の問いには、肩をすくめただけで答えなかった。


「というわけで、俺としては精一杯目の前のことを乗り切るよ。姫様の言うとおり、楽には生きて行けない世界みたいだし」

「帰る気はないってこと?」

 その問いには、俺は首を横に振った。

「うーんにゃ、帰れたら帰るよ、もちろん」

「なにそのふわっとした答え」

 姫様は呆れたように言った。


「分かったわ。私がエドの目標を決めてあげる」

「ん?」

「私が日本に帰るのを手伝いなさい。うん、それがいいわ」

「そうですね、それもいいかもしれません」

 師匠まで賛同しているが、俺にメリットがあるのだろうか?

「日本に帰る手段あったら、その時一緒に帰るか決めたらいいじゃない」

 そう言って、姫様は俺の背中をバンと叩いた。


 そうかもね、それもいいかもしれん。


「では、二人とも元の世界へと帰るということを目標にするということで」

 師匠が話をまとめる。なんだか流されている気もするけど、ま、いいかな。

「でも、具体的にどうすればいいのかな?」

 姫様の疑問は俺も思っていたことだ。確かにこの世界へ転生したが、日本に帰る方法と言われても検討もつかない。


「まずはこの世界で生きていくための力をつけてください。冒険者として方法を探るにしても、魔道士として方法を探るにしても、資金も力も必要です」

 師匠が提案してきた。

「そう言えば、師匠は転移者でしたよね? 帰る方法に心当たりは?」

 俺はちょっと嫌な予感がしていた。というのも、師匠は新魔術を開発できるほどの天才で、300年も魔法を研究してきた人物だ。それがいまだに帰れていないというのは……。


「心当たりなら……あります」

 しかし、帰ってきた答えは俺の予想とは違っていた。

「本当!?」

 師匠の言葉に、姫様も前のめりになっている。

「ええ、私が300年前、日ノ本からこの世界に召喚された初めての転移者であることは言いましたね?」

 そう。このセドリック・アルベルトと言う人物は、300年前にこの世界に連れてこられた日本人だった。師匠は当時、王国と帝国間で行われていた戦争に、兵器として使われるために、王国側に召喚された人物だということは聞いていた。確か、異世界人の召喚は今でも王室しか行えない儀式だったはずだ。召喚された後、師匠は元から呪術の使い手だったということもあり、その力を使って王国の手から逃れてこの帝国までやってきた。そこまでは聞いている。


「私は、この目で日ノ本からこの世界にやってきた儀式と魔方陣を実際に目にしているのです」

「でも、転生と転移じゃ違うんじゃない?」

 そうだよな。俺達がこの世界に来たのは、日本の高校で不思議な光に巻き込まれ、この世界に新たな命として転生したのだ。そのままの姿で転移した師匠とは随分事情が違う。誰がこの世界に呼んだのかも分からないのだ。


「何か、転移と転生に共通するところがあるんですか? 例えば王国の儀式を利用して日本に逆に転移するとか?」

 俺がそう言うと、姫様が「ああ、なるほど」と頷いた。

「学術的には、転移と転生にも共通点はありますが、それだとできたとしてもクレオリアとエドゥアルドとしてしか戻れませんね。まぁ、それも一つの手ですが。取り合えず二人は体を鍛えてください。少なくとも、西の大山脈にいる私に会いに来れるくらいにはね」


「セドリックさんに会う事と、転生の方法になにか関係があるの?」

「エドには将来積道の継承者として会いに来て貰わなければいけませんが……」

「ちょっと待って、後継者って、それじゃあエドは日本に帰れないんじゃ」

「ああ、心配ありません。エドが元の世界に帰るにしても、私の教えを広めてくれればいいのですから。元々どちらの選択をしていたとしても、現在続いているという積道宗家に私の魔道書は届けてもらうつもりでしたから」

 なるほど、確かに俺にだけ一子相伝で伝えても俺に何かあった時には、技術伝承はできなくなるもんな。例えば、一生独身だったりしたら、ってやかましいわ!


「とにかく、エドには私に会いに来てもらいますが、クレオリアさんも一緒に来てください」

「理由は?」

「まず、私のいるのは大山脈の深くにある庵。ここは秘境と呼ばれ、それなりに危険な場所ですが、そこまで来られるだけの実力が無ければ、とてもではないが元の世界に帰るなどできません」


「もう一つは、私は転生に関して色々と知っているからです」

「? どういうことですか?」

「私は転生者です」

 突然のカミングアウトに、俺も姫様も目が点になっている。

「は? 師匠って転移者じゃないの?」

 驚きすぎて俺もタメ口になっちゃったよ。


「確かに私は転移者です。しかし、元の世界。日ノ本にいるときから私は呪術が使え、そして転生することができたんです」

「えーっと、元から転生者であったセドリックさんが、王国の魔法でこの世界に召喚させられたってこと?」

「そういうことになりますね」

 あっさり頷く師匠。

「つまり、私は異世界からの召喚魔法の儀式についても情報を持ち、更には転生者としての知識もあると言うことです。おそらく、転生転移について私以上に知識のある人間は帝国にいません」


「でもそれならセドリックさんはどうして日本に帰らなかったの?」

 姫様の疑問はもっともだ。そして師匠の口ぶりからすると帰還の方法がなかったわけでもなさそうだが。

「それは、まず第一に私は転生者ですが、異世界間で転生したことはないのです。あくまでも日ノ本での『縁』の流れの中で転生を繰り返してきました。だからこの世界で転生の儀式を行ったからといって日本に帰れる確証はありません。方法は幾つか考えがあります。だがこの二百五十年間それを実行する機会がありませんでした。この世界でやっておかなければならないことがありましたからね。それがこの世界で私が開発した積道の伝承です。今ではこの世界に灰魔術師なる存在は認められましたが、彼らに伝えられなかった技術も三百年の間に随分な量になりました。これを後進に伝えるまではこの世界を離れるわけにはいきません」


「じゃあ、セドリックさんに会いに行けばその方法を教えて貰えるのね」

「はい。エドにはその後魔道書を積道宗家か、素質のある者に渡して貰わねばなりませんが」

「わかりました」

 姫様は覚悟を決めたのか、そう言うと、瞳を閉じて大きく息を吸った。

「じゃあ、それをいつ実行するかよね?」

 姫様に話題を振られて俺も考え込む。師匠のいるところまで行くのには何歳くらいを目標にしたらいいのかね。

「二十歳くらい?」

「じゃあ、10年を目処にがんばりましょう」

 うおーい! 聞いてたかい? しかも10年後って10歳でっせ。いくら見た目は子供、頭脳は大人でも、10歳は10歳だろう。


「それぐらいの気概でやりましょってことよ」

 俺の内心ツッコミを見抜いたのか、姫様がジト目で言った。

「とにかく、6年後。6歳になったときに私とエドは一度会いましょう。その時なら、エドは出歩けるようになってるでしょう? だから私に会いに来て」


 ふむ、この世界のことはよくわからんが、六歳なら外に出歩けるようになっているかもしれないな。特に俺はあまり裕福そうでもない使用人としての人生を歩みそうだから、小さい頃から働きに出される可能性もあるし。確かにその頃に一度コンタクトを取っておくのがいいかもね。

「でもさ。俺は外を歩けるようになってるかもしれないけど、姫様って公爵家だよね。そんな身分の人に会えるの?」

「さあ? そこはなんとかしてよ」

 丸投げかよ。っと思っていたら、師匠が助け舟を出してくれた。


「大丈夫ですよ。その頃にはエドも積道をある程度は使えるようになっているでしょうし、連絡を取り合う手段はあるでしょう」

「ああ、そうですね。私も魔法を学んでいれば、こちらから連絡できるかもしれないし。じゃあ、そういうわけで、次に会うのはエドの六歳の誕生日を目安にしましょう」

 こうしてこれからの俺達の目標が決まった。若干俺の意見がなかったのが気になるところだが。








 二日後。

 とうとう、その日が来た。今日の午前中に姫様が公爵家へ帰り。俺はその数日後にウォルコット家に引き取られることが決まっている。

 俺達は『箱庭』の世界の中で、向かい合って立っていた。最後の挨拶をするためだ。気を利かせた師匠が離れたところで立っている。


 俺達はなんとなくお互いの姿を眺めた。高校時代の制服姿だった。

「この姿も暫くは見納めね」

 姫様はおどけて両手を広げて、制服姿をお披露目してくれた。

 長身で、華奢な黒髪美少女の姿がそこにある。次に会うときはパツキン幼女か。

「んー? 日本に帰ってももう制服は着てないんじゃない(プレイ以外では)」

 後半部分は引かれるのも嫌なので、言わないでおいた。

「ふふ、それもそうか」


 会話はすぐに途切れた。

 そう言えば前世ではまったく接点のない二人だ。今回のようなことがなければ姫様と会話を交わすことなどなかっただろう。それぐらい俺と姫様では住む世界が違った。


「そう言えばさ、私エドの本当の名前を知らないわ」

 姫様こと、上郡美姫はそう言って俺の瞳を上目遣いに、覗いて来た。

 くそうっ、イチイチ仕草がカワイイじゃないか。


「ま、まあ、高校時代に接点もなかったからね」

 内心のドキドキを隠して俺は答える。上郡美姫は『姫様』と呼ばれるほどの学園の有名人だった。そんな有名人がひっそりと生息していた俺の名前など知るまい。というか、俺のフルネーム知ってる奴っていただろうか……、アカン! 涙がでちゃう!


「ああ、確かこの世界じゃ本当の名前って自分から言っちゃだめなんだったっけ?」

 ドキドキしている俺に構わず、姫様が言った。俺は密かに息を吐いて、気持ちを落ち着ける。

「んじゃさ、日本に帰れたらその時名前を教えるよ」

 俺の答えに、姫様は鈴のような笑い声を漏らす。

「いいね、それ……じゃあ、しばらくお別れだね」

「うん。姫様も気をつけて。無茶しないようにね」

 俺は最後に姫様に釘を刺しておいた。


 本当はもっと彼女の不安を和らげる言葉はないかと探していたのだ。何せ、姫様はこれから少なくとも六年間、この縁もゆかりもない世界で一人で生きていかなければならない。俺のように『箱庭』を使って師匠に助けて貰うわけにはいかないのだ。

 しかもこの世界は、日本に比べて随分ハードで命の軽い世界だ。そこに女の子が一人で生きていくのである。当然不安があるだろうと思っていたのだが、今姫様の顔を見ていて、彼女を気遣う言葉は浮かんでこなかった。その顔に浮かんでいたのは眩い笑顔と強い意志だったから。


「それじゃあ、六年後」

 俺は手を差し出した。姫様が頷いてその手を握る。本当はこのしんみりした雰囲気にまぎれて抱きしめてやろうかとか一瞬思ったが、ぶっ飛ばされるので止めておいた。多分それで正解です。

「六年後、エドの方から会いに来てね」

 最後まで可愛らしい事を言って姫様は握手していた手を離した。

 俺は『箱庭』の世界から出るために、師匠の隣まで歩いていく。


「そう言えば……」

 俺は、歩きながらふとあることに気が付いた。

 俺と姫様は、母校の教室で金色の爆発に巻き込まれてこの世界に転生した。

 あの時……その黄金の光を発し、爆発の中心にいたのは、姫様の彼氏だった同級生だ。

 俺達はこの世界に転生したが……。


「何か言った?」

 姫様に背後から声を掛けられて、俺は我に帰った。

「ううん、なんでもない」

 そう言って俺は師匠の隣に並ぶ。

「それでは暫くの間ですが、お別れです」

 師匠が姫様に言った。

「エドのことよろしくお願いしますね」

 なんか小さい子ども扱いされているのが気になるな。師匠も頷かないでください。

「それでは、六年後」

 そう言って、師匠が扇を振るう。


 そうして俺達はあっさりと、姫様の前から姿を消した。












 二人がいなくなって、私はこれから、一人で過ごすだろう暗闇の世界に、ポツンと一人で立っていた。

 セドリックさんの話では、この夢の中の世界にいられるのは長くて一月。

 つまりそれは、上郡美姫としての姿でいられる最後の期間。それが終われば私は、少なくとも10年以上はクレオリア・オヴリガンとして暮らしていくことになるだろう。


「ま、殺風景を通り越して牢獄みたいだけど、そこは我慢しましょう」

 

 クレオリアとして生きていく覚悟はできた、筈だ。


「一人で行動できるようになったら、取り合えずエドに会いに行かなきゃ。あの子のことだから、任せていたらいつまでものんびりしてそうだし。それから二人でセドリックさんのいる場所に向かってと」


 この世界にも、私を愛してくれる人がいて、その人にとってはクレオリアがすべての私。

 でも、日本人の上郡美姫もいて、それは諦めることができないもう一人の私。


 だから、私は決めた。


「それまでには、一人で身を守れるくらいにはなりたいよね」


 この世界で、本気で生きて、

 この世界を、本気で好きになろう。

 そして、本気で日本に帰るためにあがいてやろう。


「まずは、魔力の操作の特訓。……把握、操作、具現化、純化だったっけ?」


 その分かれ道に立った時に、私はどんな選択をするんだろう。

 今は想像もできないその時のために、

 決して後悔しないために、

 私は、必死に生きる。


「後は体も鍛えてと。この中じゃ型しかできないから、起きてる時にできるだけ体を動かさないと」


 この世界でも人は死ぬ。

 恐らくそれは日本よりも、もっと簡単に。

 誰かの命を奪うことになるかもしれない。

 誰かに命を奪われることになるかもしれない。


 その覚悟ができた、なんて軽々しく言えない。

 でも、


「赤ちゃんの時から肥満児とかありえないから、離乳食にも気をつけないとなぁ」


 まだ見ぬ新しい人生に胸が高鳴った。

 この世界にも誇るべき人たちは確かにいた。

 その人たちに感謝したい、この目で会いたい。

 この世界のオシャレもしてみたい。

 美味しいものを食べて、この世界を見たい。


「なんか独り言ばっかりで、正直さっそく寂しいんですけど。ああ、そうだ。言葉も覚えていかなきゃ。うーん、日本語禁止にした方がいいか」


 やらなきゃいけない事は、山積みだし、

 やりたいことも、きっと山積みになる。


 その原動力は、日本に帰りたいという想いだ。


「よしっ。それじゃあ、やりますか!」


 だから、それまで、



 さよなら日本。



 そして、

 


 こんにちは、異世界ファンタジーワールド。 















やっとこさ、第1部最終話投稿できました。

次回から5話ほど番外編を挟んで、いよいよ物語は本格的に動き出します。

……なんてことをいいながら、まだ番外編に手をつけていません。

仕事が忙しくて……と言い訳を。G.Iジ○ー2見る暇はあるので書けないわけないんですが。

来月までにはなんとか第2部を開始したいです。

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