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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第一章 MOB男な新生児は他業無得の零才子
21/132

021 黒月 VS 魔女

注:グロ





「グウィネスと申します。南瓜パンプキンクィーンの魔女、とでも覚えて頂ければ」


 突然現れた金髪美女はそう名乗った。

 ラウールは壁に叩きつけられたことや、先ほどからの状況の急展開に全くついていけずに、ただ床に這い蹲ってことの成り行きを見ていた。先ほどまで中年の男だったのが、いきなり目の前で二十代の美女に姿が変わったのだ。ラウールが現実感なく傍観していたのも無理はない。


 だが、ジガを殺したカネリや、その仲間である四人の男達はグウィネスと名乗った女性の言葉に殺気を放ち始めた。

「ジガの配下だな」

 黒装束の男達がグウィネスを取り囲む輪をじわりと縮めていく。だがグウィネス本人は自身に向けられる殺気に臆した様子もなく、微笑んでいる。

「配下というより、身内といった方が宜しいかと思いますわ」


 シッ!

 背後を取った男の一人が、グウィネスが言い終えるか否かのタイミングで襲い掛かる。

 だが、グウィネスが伸ばした指先を一度だけ振るった。

 その途端、グウィネスの体を中心に紅く輝く炎の輪が出現したかと思うと、周囲に向けて衝撃波となって飛ぶ。

「グア!」

 襲い掛かろうとした男に直撃して、壁まで飛ばす。ラウールの頭上にも衝撃波が通過し、壁にぶつかった。だが、距離のあった他の男達やカネリは素早い身のこなしで炎の衝撃波を交わした。

 衝撃波が直撃した男もすぐに立ち上がる。衣服が燃えていたが、短く呪文を唱えると自身の体を撫でた。すぐに火が消える。


「あらあら、さすがは黒月の皆様、魔術まで使えるのですわね」

 まるで小さな子供を褒めるように、柔らかな笑顔を浮かべて両掌を合わしている。

「たった一人で我等の相手ができるとでも思っているのか」

 男の言葉に、グウィネスは不思議そうに首を傾げた。

「わたし、争い事は苦手ですから、遠慮いたします」

 そう言ってからグウィネスは台座の外側へ足を踏み出した。

 まるで、柔らかな土の上を踏むように、グウィネスは空中を歩き始める。そのままラウールの頭上まで歩いてくると、羽が舞い落ちるようにゆっくりと降り立った。

 完全に男達に背を向けているが、先ほどの一撃の効果かカネリたちの誰も動けないでいる。


「ラウール様、お怪我はありませんか?」

 グウィネスはそう言って手を差し出して、ラウールが立ち上がるのを手伝う。

「あ、ああ」

 戸惑いながら、手を借りてラウールは体を起こした。ラウールが立ち上がると、グウィネスは嬉しそうに微笑んだ。

「それでは、わたし達はここから失礼しましょう。わたし達に荒っぽいことは似合いませんから、上で待っていたほうがいいと思いますの」

 そう言って、ラウールの右腕に、自分の左腕を絡める。まるで街路を共に歩く恋人に言うような口調だ。


「は?」

「逃げられると思っているのか!」

 ラウールは呆気に取られ、男達が激昂する。

 カネリが、グウィネス達と階段の間を塞いだ。

 グウィネスが、困ったわ、という風にほっそりとした指先を顎に添わせて首を傾げる。

「わたし見たくありませんのに。皆さんが肉の塊になってるのって、きっと綺麗じゃないと思うんです」

 そう言ってグウィネスはラウールに同意を求めるように、上目遣いで視線を向けてきたが、ラウールにはどう答えてよいのかわからなかった。  


「それに皆さんの相手はお婆様がしてくださいますから」

 そう言ってグウィネスはラウールと自身を囲むように指先で印を切り、呪文を唱えた。指先でなぞった床が青白い光のカーテンを作り出し、ラウール達を囲む。

「お婆様?」

 ラウールの疑問に答えるように、凄まじい悲鳴があがった。


 黒装束の男達に向かって、ピンク色の触手が三本、伸びていた。

 避け損なった二人の男が触手に体を貫かれている。一人は肛門から脳天までを貫かれており、眼球を裏返して絶命している。もう一人は左足を吹き飛ばされて、床をのた打ち回っていた。悲鳴を上げているのはこの男だ。

 触手は床に打ち捨てられていた、ジガの部下である、三体の魔術士達の死体から伸びていた。

 三本の触手は細い樹木ほどの太さで、天井近くにまでその先端を伸ばし、男達を威嚇するように蠢いている。


 ジガの死体が大きく一度痙攣したかと思うと、ずるりと体を起こした。

 喉に血が溜まっているか、ゴボゴボと不明瞭な音を発している。その目は白く濁っており、体が動いていること以外は、死人にしか見えなかった。

 ジガは立ち上がると、ゆっくりと右手を口元に運び、そのまま喉の奥まで手を突っ込む。ぐしゃりと肉の潰れる音がしたかと思うと、腕を引き抜き、頭を傾けると、大量の血溜りが床へと落ちた。

「がふ、が……か」

 詰まっていた血が抜けて、ジガの喉から声が漏れた。

「ざん、ね……だ…の」

 

 ラウールはギョッとしてジガの足元を見つめた。

 足が床と同化している。いや、床が触手と同じピンク色の肉塊に変わっていた。一部分だけだったそれは、三本の触手と共に急速に石の床を、肉塊へと変えていく。

 ラウールと同じように、カネリと男達も気が付いたが、成す術もなく足元を肉塊に捕らえられた。ただ結界で守られているラウール達の足元は石のままで異常はない。そして階段に近かったカネリもまた、咄嗟に飛び退き逃れていた。そのまま、後ろを振り返ることなく、素早い身のこなしで階段を上り、ラウール達の視界から消えた。


「しまった!」

 ラウールは声を上げたが、グウィネスが組んでいた腕に少しだけ力を入れる。

「大丈夫です。上にも仲間がいますから、逃げられません」

 グウィネスは肉の壁に埋め込まれるように捕らえられている男達を見て言った。

「これは一体なんだ」

 生理的な嫌悪感も手伝って、ラウールは唸るような声を漏らした。


「この部屋は今、お婆様の体内にいるのと同じ状態になっています」

「体内? そのお婆様というのは、ジガ老のことで間違いはないのか?」

「ええ、そうですわ」

 そう言って、グウィネスは今や部屋中を覆う肉の壁と、それに捕らえられた男達を指差した。


 男達の目からは既に生命の光は失われており、かろうじて肉壁から出ている顔の皮膚は干からびている。

「先ほどまで床に書かれていた魔方陣は、実は対象者から情報を抜き出す魔術ではなく、この部屋を魔空間と繋げるためのものです。あの肉壁は獲物を捕らえてその命を吸い出し……」

 グウィネスは言葉を切って、ラウールに部屋の様子をよく見るように促す。


 ラウールが見ていると、肉壁が波が引くように戻っていく。戻っているのはジガの所だ。肉と一体化した足元に勢い良く吸い込まれていく。

「あのように、お婆様の栄養として取り込まれます」

「しかし、なぜこんなことを?」

「それはお婆様に直接お聞きください」

 グウィネスは掌を上に向けて、部屋の中心を指し示した。


 そこには、以前と変わらないジガが立っていた。

「ふむ、こんなもんじゃな」

 先ほどまで濁っていた目にも、輝きが戻っている。部屋の様子も石壁に囲まれた地下室になっていた。

 グウィネスは魔法障壁を解くと、腕を組んだまま、ジガの方へとラウールを連れて行く。

「つき合わせて悪かったの。ラウール殿」

 目の前に立ったラウールに、以前と同じ調子でジガが言った。


「一体これはなんだったのですか?」

「邪魔者を纏めて消すための策じゃった」

「邪魔者?」

 ラウールに、ジガは頷く。

「そう、今回の誘拐事件の首謀者はお主の推察通り、大地母神教団の一部勢力。黒月という名は聞いたことはあるか?」

「たしか大地母神教団の狂信者集団でしたか」


 『黒月』。

 それは300年前に太陽神教団排斥運動が起こった際に猛威を振るった秘密結社の名前だ。

 ラウールも中央政界に身を置いていたこともあって、その名前は知っていた。

「しかし与太話や都市伝説の類だと思っていましたが?」

「帝国も1000年を数えようとする成熟した国家じゃからの。おまけに、太陽神教団が失墜した原因を考えれば、いくら大地母神教団であっても法を無視した実力部隊の存在など公にはできん」

「権天事件ですね」


 太陽神教団。

 公正と裁決を司る太陽神を崇める教団は、始皇帝の御世からこの国の権力組織と密接な繋がりを持っていた。シクロップ家が始皇帝に謙譲した三種の武具が太陽神の恩恵を受けていたことからもそれがわかる。


 逆に大地母神教団は、生命を司り、農村部に根強い支持があったものの、勢力的には二番手、三番手ほどの宗教組織であった。

 その勢力図が、そして大陸の歴史の流れが一変する発端となった事件。


 それが『権天事件』である。

 それは簡単に言えば、当時最盛期を迎えた太陽神教団が、神、つまり太陽神は皇帝より上位の存在であると主張し、帝室と衝突したことが原因であった。

 その『権天事件』の結果、国を二分する内乱へと発展し、激しい軍事衝突の末に太陽神教団は力を失い、それに加担した勢力は大山脈を越えた未開の地に新たな国、『王国』を創ることとなった。


 当時の勢力図から言えば、最大宗教組織と有力貴族たちが手を組んだ、太陽神陣営に分があると思われていたが、その劣勢をひっくり返したのが大地母神教団であった。そして内乱後、太陽神教徒への過酷な排斥の先頭に立ったのも彼らである。『黒月』の名前が歴史の表舞台にあったのもその時代のことだ。


 そして太陽神教団が政治の世界から完全に閉め出され、その空位に座ったのが大地母神教団だったのである。彼らの教義も神こそが最上の存在である、という考えに違いはなかったが、生命や農耕を司る大地母神にとって、世俗の権力とは別のものであるという考えを表明することで、帝室の後ろ盾を得た。以降、この帝国では大地母神教団が最も力のある宗教組織となった。神の法と人の法のどちらに従うべきか、という問いはこの帝国の宗教人にとって矛盾であり、それを問うことはタブーとなっている。が、実際のところはそういった経緯から、万民のための法に従うということを暗に認め、従っていた。


「けれど、黒月は歴史の表舞台から姿を消しただけで、今も大地母神教団の暗部として、教団に邪魔な存在を消してまわっているのです。その中にわたし達黒魔術師も含まれています」

 グウィネスが言った。そう言えば、腕を組まれたままだったが、がっちりと掴まれているので、ラウールは振りほどくタイミングを失っていた。


「では、あなたたちは、魔道士ギルドと大地母神教団との諍いのために、今回の事件を利用したという事ですか?」

 ラウールは、少し非難の色を混ぜて言った。

「まさか。言ったじゃろ、今回の目的はあくまでクレオリアだと。それに大地母神教団も魔道士ギルド相手に非合法のお抱え暗殺者を使うわけあるまい。グウィネスは黒魔術士達も対象だと言ったが、よほどのことをせん限り狙われることはないし、その場合は、カスパールにも話は通っておろう。奴らがワシらのことを面白くは思っておらんのは確かだろうがな」


 ジガの言葉に、ラウールも納得した。帝国の政界において、ラウールの上司である宰相。魔道士ギルドのギルド長で、宮廷魔術師のカスパール。大地母神帝都教区の大司教。この三人がこの国の政治中枢にいるのだ。彼らは仲間というほどに信頼があるかは別にして、お互いの利益の為に協力関係にあるのは間違いない。それに対して、『黒月』という強硬手段を使う可能性は確かにないだろう。少なくともラウールが帝都にいた時に、その存在を感じたことはない。


「しかし、それならどうしてクレオリア様が狙われるのです? まだ赤ん坊のクレオリア様が狙われる理由が分かりません」

 結局のところは、そこに行き着く。ラウールはジガが理由を言うかどうかは別にして、疑問を素直に口にした。これ以上の推測をするのを諦めたとも言える。

「うん。お主にやってもらいたい事もそれに関係するから説明はしてやろう。わざわざここに連れてきたのもそのためじゃ。この街での事なら、ワシらの力でどうにかなるが、中央政界への工作となるとお主の出番じゃろ」


 教えてくれるのは嬉しいが、その工作とやらは碌な事ではなさそうだ。

「なぜ私が貴方達の隠蔽工作に手を貸さねばならないのです。それに今はそんなことより二人の身柄を保護することのほうが重要でしょう」

 ラウールがそう言うと、ジガが「大丈夫じゃ」と答えを返した。

「実は誘拐犯の中にワシの部下を紛れ込ましておいた。もし二人の命に危険が迫った時はどんな手段を使っても守るように言ってある。おそらくは今頃は二人を保護したという一報がはいるじゃろ」


「若いけれど優秀な子ですから、二人とも大丈夫ですわ」

 と若い筈のグウィネスがそう口添えした。

「最初からすべて知っていたのですか!? 一体、これは……」

「うん。まぁこの場で全て説明するには長い話になるじゃろうから、取り合えず上に場所を移すか」

「あら、ではお茶を入れなくては。疲れを癒やす良い匂いの葉がありますの」

 グウィネスはぐっと絡めている腕に力を入れた。ラウールにはなぜ自分が彼女に腕を組まれているのかがわからない。


「おや、報告が来た様だの」

 ジガが階段の方を見て言った。ラウールがその言葉に目を向ける。先ほどカネリが逃げ出した際に開けられたままの扉から、階上の光が差していた。それが人影で遮られたのが見える。

 コツコツと石階段を歩いてくる靴音が聞こえた。

「遅くなりましたぁ~」

 降りてきたのは、三つ編みに眼鏡を掛けた少女だった。フリルの付いた給仕服に身を包んでいる。少女はラウール達にも姿が見えるところまで階段を降りてくると、手に持っていた花瓶ほどの物体をジガの足元に放り投げた。


 暗がりに目を凝らして、ラウールはその物体を見て、思わず声を上げそうになった。

 それは先ほど逃亡したカネリの生首だった。

「なんか逃げてたので、とりあえず首をちょんぎっておきましたぁ」

「アンジェ、生首を放り投げるなんて、お行儀が悪いですわよ」

「ふむ、一人は生け捕りにしておこうと思って逃がしたんじゃがな」

「あ、それなら神殿騎士のおじさんを一人捕まえてますぅ」

 ラウールは少女の生首の前で平然としている三人に底知れぬ闇を感じる。


「それはそうと、赤子たちは怪我なく保護したのじゃな」

 ジガがアンジェに尋ねると、彼女は、と手をポンと叩いた。

「あ、そうだった。先輩から伝言ですぅ。赤ちゃん達を女に連れ去られたので追跡と保護をお願いしますぅ。っと言うことですぅ」

「どういうことじゃ?」

 さすがに、ジガとグウィネスの顔が驚いている。


「えーとぉ、先輩が倉庫にいる時にぃ、眠らされてぇ、その間に女が赤ちゃんを二人とも連れ去りましたぁ。先輩はぁ、その後を追ってますぅ。倉庫の方はアヴリルさん達が後片付けしてますぅ」

「あらあら、ジャックがいてどうしてそんなことになったのかしら? アンジェ、あなたまた何かした?」

 静かな声でグウィネスが言うと、それまでのんびりとした様子だったアンジェが顔を引き攣らせる。

「ち、違います! わたしのせいじゃありません! 先輩が眠らされたんですぅ!」

「眠らされた? ジャックがか?」

「はいぃ! 先輩は倉庫の中に誰か知らない灰魔術師がいたんじゃないかって言ってますぅ」

 アンジェの言葉に、ジガとグウィネスが視線を合わせる。


「ジガ老、いったいどういうことです?」

 ラウールが尋ねると、ジガは溜息をついた。

「先ほど言った、誘拐犯達に紛れ込ませていた間者が眠らされての。つまり赤ん坊達が我等の監視の目から外れた。おまけに、『黒月』以外の者の存在が関わっておるらしい」

 それから、ジガはグウィネスの方を向いた。


「お主は教会に回している者の指揮をとって、手筈どおりやってくれ。アンジェもグウィネスについていけ」

「はーい!」

 アンジェがビシッと手を伸ばして返事をする。グウィネスは絡めていた腕をラウールから解く。

「残念ですけれど、お茶はまたの機会ということですわね」

「本当に残念ですぅ! ギニー先輩の婚期がまた遅れていきますぅ」

 その言葉にグウィネスがにっこりとアンジェに微笑む。

「あらあら、本当ね。一体誰のせいになるのかしら?」

「うひぃ! わたしのせいじゃありません!」

 アンジェが逃げるように階段を上っていく、グウィネスはラウールに丁寧に別れの言葉を告げると、アンジェの後を追って、姿を消した。


「どうやら、詳細の説明は後日。おぬしの言うとおり赤子達の身柄確保が最優先となったようじゃな。ワシは、指示を出した後に、赤ん坊達の後を追うが、お主はどうする?」

 ジガが尋ねると、ラウールは暫し考え込んだ後、顔を上げた。


「そのクレオリア様達を連れ去った女と言うのは?」

「産婦施設の世話人の女じゃな。熱心な大地母神教信者じゃが、黒月とは無関係じゃ。神殿騎士のリガリオに騙されたか、弱みを握られて今回の誘拐に加わっておるようじゃな」

「では、良心の呵責に耐え切れずに裏切ったのでしょうか? それなら衛兵の詰所にでも飛び込んでいるかもしれませんね」

「かもしれんがな、不確定要素には違いない。どう動くか予測できん分タチが悪いな」

 ジガは溜息をついた。


「では、その女を手助けしたというのは何者ですか?」

「わからん。お主も聞いていただろう。灰魔術師ということだが、ワシらの情報網でも関わりそうな人物は見当もつかん。女が逃げるのを手伝ってそれ以上手を貸さんというのも変じゃしな」


「灰魔術師ということは、スコット卿の私的な人脈かもしれませんね」

「ああ、なるほど。それが一番可能性としては高いの。スコット坊やはここのところクレオリアの衰弱の原因を探るのに、灰魔術師について調べておったから、オヴリガン家の縁のある灰魔術師を誰か呼んでいたのかもしれんな」


「ええ、ですから私は今から公爵邸に向かって、スコット様から事情を聞いてきます」

「ふむ、だがあまり余計なことまで知らせるでないぞ。後始末が面倒なことになるからな」

「脅しですか?」

「まさか。後で事の真相を知ればお主も同じ判断をするじゃろう。それまでは熟慮せよと言うておる」

「教えていただけるので?」


「さっきも言ったが、クレオリアの身を守るにはお主の力も必要じゃからな。必要なことは教えよう」

「分かりました。取り合えずクレオリア様の身柄を無事保護することが最優先ですからね」

「分かっておる。残りの黒月はグウィネスが掃除してくれるじゃろう。灰魔術師の方は何者か知らんが、エドゥアルドを狙っておるなら、ワシが直々に相手をしてくれよう。ついでに公爵令嬢も助けてやるわい」

「では、私はこれで」

「うむ。公爵家の方にも人をやるで、灰魔術師についてなにか分かったら知らせてくれ」


 だが、ラウールが公爵邸に向かったときに、スコットの姿は無かった。

 教会に向かったというスコットの後を追い、ラウールがたどりついた時、すでに事件は終わりを告げていたのである。

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