002 目覚めれば、お先が真っ暗
目が覚めたのに、暗闇とはこれいかに?
目が覚めた、という感覚が確かにあるにも関わらず、お先真っ暗な状態。
いや、人生がじゃないよ?
本当に目の前が物理的に真っ暗で見えない。微かに光のようなものがおぼろげながらも見えなくもないような、そんな気がしないでもない、ようなほどには見える。いや、見えてねぇ!
体を動かそうとしたが、全く動いている感覚がなくて、俺は真っ青になった
ワー!
叫んでみたが声が出ているのかどうかもわからない。
耳が聞こえねぇ!
何だこれ!?
あせるぅ!!
何でこんなことに、
原因を探るべく、直近の記憶を思い返してみる。
目が覚めたら、お先真っ暗
いや、人生がじゃないよ?
大切なことなので、2回言いました。
人生は順風満帆だった。いや、これから順風満帆になるはずだった。
確か今日は、卒業後に再び母校へとやって来たんだったよな。
目的は、春休み中に出た、大学入試の合格発表の結果を伝えるためだ。
普通は電話で済ませるんだが、受かった大学がうちの高校としては、めったに合格者がでない大学だったので、直接口頭でするように言われたのだ。
職員室に入って、担任に合格を告げると、居合わせた先生たちから拍手をしてもらった。
18年生きてきて、いい意味でも、悪い意味でも目立つことはなかったので、嬉しかったけれど、どう対応していいかわからず、なんか「へへっ」という引きつった笑いを浮かべて照れくさそうに頭をかくしかできなかった。
今までの人生、いわゆる「同窓会にナチュラルに誘って貰えない」タイプの人間だった俺が、唯一成し遂げたのがこの大学合格だ。
え?
勉強しかやることなかっただけだろうって?
ええ、そうですよ。それがなにか?
彼女? 何それ? 美味いの?
……彼女か。うん、美味いに違いない。食べたことないけどさ。
友達も特にいないしねぇ……。
うん、ここまでは問題ない。人生の価値と言う意味以外で問題はない。
で、職員室で祝福を受けた後、担任がこの後、飯を奢ってやろうといってくれた。
特に親しくコミュニケーションをとっていたわけではない中年担任がこんなことを言ってくれたのは、まぁ、残念ながらというか、そりゃそうだよねというのか。
うん、俺の為ではないのです。
もう一人、合格の報告に来ていた女子生徒がおり、彼女がメインで、俺はオマケ。
でも、そういうコミュニケーションをとったことがないのでドキドキワクワクしながらご相伴に預かることに。
で、担任教師が仕事を片付けるまで、教室で待っておくことにした。
今はもう、誰も来ることはなく、新学期になれば別の誰かが来る教室。
俺と、もう一人の合格した女子生徒。そして彼女の彼氏。
こういうとなかなか残酷な場面が展開しそうだが、そんなこともなかった。
この女子生徒という人は、学校の「姫様」的存在で。
この彼氏と言う奴は、学校の「王子」的存在。
この俺は……、まぁいいじゃないか。人それぞれだよ。
で、この二人が人間的にもできた人たちで、教室で待っている間も、この虫けらのような存在を会話に入れてくれた。
三人であんなこともあったねと、思い出話に花を咲かせた。
俺は全く関係のないイベントばかりだったが、二人の好意を無碍にするわけにもいかず「ああ、うん……」とうめき声だか肯定の返事だかわからない感じで返事しておいた。
ああ、大学入ったらこんな眩しい中に俺も入れるのかねぇ。なんか想像できんが。
で、
なかなか担任来ないねって話をしていて
そうだ!
爆発? があったんだ
なんだか、わけのわからない光の爆発だけが記憶に残っている
自分でも、血の気が引いていくのが分かる。先ほどまでの状況が分からないために焦ったのとは全く違う。
爆発に巻き込まれて……それから記憶がない。
そして、目が覚めたのに、
目がほとんど見えず、耳が聞こえず、体の感覚がまったくない
そんな……これからの順風満帆になるはずの人生が
俺の人生詰んじまったのか?
何でこんな目に?
俺は叫んだ。でも体はまったく反応していない。いや反応していないのかどうかもわからない。
ただ、闇と意識があるだけだ
絶望と共に、どっと疲労感が襲ってきた。
駄目だ……終わった。
そう思うと同時に、俺の意識は闇に落ちていった。