016 九死なので猫を囲ってみました
「おおっーふぅ!」
俺と上郡美姫さんこと、クレオリアは大きく息を吐いた。
あ、どうも。
転生先でもフツメンらしきエドこと、エドゥアルド・ウォルコットです。
俺達は、小汚ねぇ倉庫の中で、盗賊達となんか黒幕らしい黒ローブ男との会話を『目』使って盗撮していたのだが、どうやらすぐには殺されないらしいと分かって一安心。とはいえ、エミリとかいう女性が目を覚ましたら上郡さんは殺される。
そう言えば、やっと俺のこの世界での親らしき人の名前を聞くことができた。なんでも俺は『ソルヴ・アーガンソン』という人の隠し子らしい。なんかビスマルクだったのにウォルコットに変わったり、実はアーガンソンだったり。うわー、なんか微妙な立場だな。しかもその人なんかとんでもない大物、しかも裏の世界の大物っぽい。これは独り立ちできるようになったら即トンズラを考えておいた方がマジでいいかも。
ちなみに、音声は日本語に変換してあります。俺が具現化した200インチの液晶テレビのせいではなく、師匠の『目』のほうに翻訳の灰魔術がかけてあるらしい。
「なるほど、そういうことでしたか」
安心して脱力気味の俺達二人の後ろで師匠が頷いた。
「クレオリアさん、あなたが狙われる理由がわかりましたよ」
「え?」
「ちょっと、失礼」
そういうと、師匠は持っていた扇を左右に軽く振ってから、それを上郡さんに向けた。
「ふむふむ。やはり」
一人納得している師匠の様子に、上郡さんが訝しげな視線を俺の方に向けてきたが、弟子の俺も師匠が何をしているのかは分からず「さあ?」という身振りを伝えるしかできない。
「『感知』の魔術を使ってあなたの魔力を調べたのですよ」
「私の魔力が何か問題でも? この世界じゃ魔法は普通に使えるんでしょ?」
その上郡さんの言葉に師匠は苦笑する。
「いくらこの世界でも魔術師の数はそう多くありませんよ。そして、クレオリアさん、あなたの魔力属性こそが、今回の事件の原因です」
「魔力属性?」
「『恩恵』と言った方がいいでしょうか。エド、あなたに話した『恩恵』の話を彼女にしてあげてください」
おおっと、師匠にいきなりテストされて、ちょっと動揺しながらも数日前に師匠が話してくれたことを思い出す。
「ええっと、『恩恵』っていうのは、ある特定の魔力属性、例えば火、水、闇、時間、そういう魔法の特定分野で普通の人よりも才能がある、まあ下駄をはかして貰っている状態のこと」
「ああ、ゲームなんかである属性と同じ感じね」
「姫様、ゲームとかするんだ?」
あ、思わず学生時代のニックネームで呼んじゃった。でも上郡さんは気にすることなく言葉を返す。じゃあ、この呼び名で行くか、思わず前世の名前で呼びそうになるし、今世では本当に姫様なので都合がいいや。
「小学生の時ボーイフレンドがD○やってるの横で見てたわ」
さらっとリア充発言されたが、気にしない振りして話を続ける。
「あと、魔術にでなくて、魔法に必要な神様とか悪魔とかに気に入られてることも『恩恵』って言うよ」
「魔術と魔法って同じじゃないの?」
「この世界では違うんだって。普通の人はごっちゃにしてるけどね。魔術はぶっちゃけ努力すれば誰でもできるよ。なんかこっちの世界じゃ魔力は誰でも持ってるらしいから、その魔力とか自然界に存在する魔素を利用する技術が魔術。でも魔法は神様とかの力を利用するから才能が必要なんだと」
「で、それが私とどう関係があるのかしら?」
それに関しては俺もわからないので、師匠の方に二人で目を向ける。
「あなたもその『恩恵』持ちだと考えて間違いないと思います。『恩恵』の有無の確認は今の状態ではできませんが、あなたの魔力属性の中で、雷、光が飛びぬけて強い力を感じますね。風……炎にも適正があるようです」
そう言って、師匠は扇を閉じると姫様の方を真剣な表情で見た。
「あなたは恐らく『太陽神』の恩恵を持っているはずです。だから狙われたのです」
『太陽神』? なんでそれで狙われなきゃいけないわけ? どう考えてもあの黒ローブが言っていた『悪神の子』のイメージはなく、善いモンの神様の名前だろ?
「『太陽神』はこの世界でも善なる陣営の神ですよ。現にこの帝国でも小さいとは言え教団もありますしね。あまり時間もないので細かい説明は省きますが、事は300年前。王国の建国と関係があります。その時、太陽神教団は王国の味方に付き、結局当時最大勢力を誇っていた太陽神教団は帝国内で没落。それに換わって帝国内で勢力を伸ばしたのが大地母神教団です。私が帝国にやってきた300年前は王国の建国から十年ほどしか経っていませんでしたからね。それは酷い迫害が各地で行われてました。今では表向きは太陽神の信者が迫害されることはなくなりましたが、それでも大地母神教団からすれば許されない存在があります。それがクレオリアさんの持っている『太陽神の恩恵』です」
「んー? 太陽神は別に禁教というわけじゃないんでしょ? だったら師匠なんで『恩恵』持ちだけ狙われるんです?」
「『太陽神の恩恵』を持っていたとしても表向きはなんの不利益もありませんよ。しかし、大地母神教団にとって『太陽神の恩恵』持ちだけは存在を許せないのです。彼らは300年前から教団内に『黒月』という異端審問官を飼っていて、『太陽神の恩恵』持ちの人間を秘密裏に処刑しているのです。彼らにとって『太陽神の恩恵』持ちの人間がどういう意味を持っているかは、これ自体長くなりますから、今はこの黒装束の男が大地母神教団の人間で、おそらくはその『黒月』という秘密結社の人間であり、クレオリアさんが『太陽神の恩恵』を持っているために命を狙っている。そして彼らが貴方をなにがなんでも殺そうと考えているということだけ心に留めておいてください。それ以外のことはこれが終わってから教えましょう」
師匠の説明を聞いた姫様が頷く。そういえば事態はまだなにも好転していなかった。
「そうね。じゃあセドリックさん、その『恩恵』というのにはどういう力があるの?」
「今、現時点では……そうですね全力で魔力の解放を行えば『電撃』の魔法を放つことができそうです」
「『雷撃』? それは攻撃できるんですよね? どれくらいの威力なんです」
「そうですね。おそらく人一人を昏倒させることはできると思います。半径一メートル以内であれば複数人を巻き込むことはできるでしょうが。魔術の訓練をしていないあなたが放てるのは恐らく1発ですね」
「それってこの状況じゃ役に立ちそうにないわね……」
そう。いくら犯人達を気絶させることができたとしても、この倉庫から逃げることができないのだ。
「黒魔術では雷の魔法は最大攻撃力を誇る魔術ですから、それを才能だけで放てるのは驚くべきことなのですが、そうですね。我々の切り札ではありますが、今の我々に必要なのは逃走手段ですからね」
師匠が考え込んで、俺達も考え込む。
「ねぇ、エドの夢なんとかで助けは呼べないの?」
「『夢凪』ね。難しいねぇ、射程距離は30メートルあるかないかだからねぇ。相手が寝てないと駄目だし、といってここは深夜の倉庫街みたいだし、そんなところで寝てる奴どころか、人もいないしなぁ」
俺はコツコツと卓袱台を指先で叩きながら考え込んでいた。そのコツコツ音がうっとおしいのか、姫様が睨んできたが、俺は無視して考え込む。何かゴリっとした手ごたえがあるのだが、思考が掴みきれない。うーん、と唸って、コツコツを止める。手を口元にやってそのまま押し黙った。
さすがに様子がおかしいの思ったのか師匠と姫様が俺の顔を覗き込んだ。
「エド?」
「……あのさ。ここから逃げ出す手段はあるんだよね。正確には連れ出して貰うんだけど」
「どうやって?」
「あの、エミリさんだったけ? 彼女は利用できると思う。どうみてもクレオリア殺害に反対みたいだったし、しかも聖職者じゃないかなぁ」
「聖職者かどうかはわかりませんが、大地母神の熱心な信者でしょうね」
「で、彼女は『黒月』とかじゃない?」
「ええ、『黒月』は暗殺や破壊工作が任務ですからね。彼女はどうみても一般人ですよ。どうやら詳細は知らずに誘拐事件の手助けをさせられていたみたいですね。で、彼女がなぜ私達を救ってくれるんです?」
「救ってくれるように説得するんです。この中で説得できる可能性があるのは彼女だけでしょ?」
「その説得はどうするのよ! 私達赤ん坊なのよ!」
姫様が癇癪を起こした。整った顔で怒られると迫力があるが、俺は知恵熱が出そうなほど悩んでいるので、それを無視する。代わりに師匠が何か思いついたように口を開いた。
「ああ、『夢凪』の術を使って説得するのですね。なるほど、今彼女は意識を失っていますし、確かにそれなら可能性はありますね。しかし、『夢凪』で伝えられるのは言葉やイメージを一方的に伝えることしかできませんよ。または、反対に彼女の今現在見ている夢を読み取るかです。それで本当に彼女を説得できるかどうか……微妙なところですが、確かに今はそれしかないですね」
「あ、じゃあ。彼女の中にも私にしたみたいな術をかけるのは?」
「『箱庭』をかけるには彼女は遠すぎますね」
「じゃあじゃあ、なんとかして彼女の近くまで這っていけないかしら?」
なにやら二人の議論がそれていきそうなので、俺はそこで考え込むのを止めた。俺の灰色脳細胞の着色原因は埃らしいのでこれ以上一人で考え込んでいても上手い考えは出てきそうにない。
「いや、『夢凪』の術を使えばほぼ間違いなく彼女を説得できますよ」
俺の言葉に二人の視線が集まったので、俺は自分のアイデアを二人に話した。
「うん……うん。それなら絶対彼女は説得できるわ。若干やり方が詐欺師みたいだけど」
後半失礼な評価を頂いたが、この際褒め言葉と……受け取れないので、気にしないでおこう。
「ええ、彼女には効果があるでしょう。しかし、それなら何を悩んでいたのです」
「うーん。説得はできるんですが、ただの一般人でしかない彼女に、その後どうやってこの連中の目を盗んで、俺たちを連れてこの倉庫から外に逃げ出すか、その方法がわからないですよね。あまり難易度が高いと、さっきの説得方法も意味がなくなるし。使えそうなものはテーブルの上に見つけたんですが、それをどう利用するかがわからなくって」
「なるほど、して、その使えそうな物とはなんです」
師匠の問いに、俺は指で液晶画面に映る倉庫内の一点を指差す。
「ほら、あれって俺達を誘拐する時に使った眠り薬じゃないですか? あれで盗賊達を眠らせたら、いけそうな気がするでしょう? でも彼女にそれをどう伝えたらいいかが問題なんですよ」
「そのまま、正直に伝えたらいいんじゃないの?」
「でも、さっきの方法での説得だとあまり細かい指示はできないだろう。しかも、この状況で彼女に盗賊の目を盗んであの香を焚かせるって、かなり難易度がたかそうじゃない?」
「ええ、ちょっと無理かもしれませんね。できればあの香は彼女が目を覚ます前に使って、あの連中を眠らせておくほうがいいでしょう。その方が彼女が目を覚ました時に、『夢凪』の説得の効果が活きます。それに下手をしたら、彼女まで眠りの香のせいで、また眠られてもやっかいですからね」
「あ! 私の『電撃』を使えばいいんじゃない? 雷を飛ばしてあの香に当てれば燻るくらいのことは楽勝でしょう!」
いい考えだというように姫様が言った。が、悪いが否定させて貰う。
「さすがにいきなり倉庫内で雷が落ちたらあの連中も気が付くでしょうよ。そうなったら香の効果が出る前に換気されるよ」
姫様がイラッとした表情で押し黙った。怖いって。
「でも、電撃着火はいい考えかも、なんとか手元まで香を手繰り寄せることができたら、小さい火花を起こせば気づかれることもないだろうし、風の属性もあるらなそよ風を起こして連中のほうに煙を誘導するのも簡単そうだよ」
必死のフォローも機嫌は直らなかったようだ。
「じゃあ、エドの体を操作して手繰り寄せましょう。ほら、映画であるじゃない。体に電気を流して体の動きを操作するってホラーなシーンが」
などと恐ろしいことを仰る。自分の命がかかっているんだから冗談を言っている場合ではない。
……冗談だよね?
「手紙を書くって言うのも考えたんだけどね」
恐ろしいことを言い出したので、話をそらすために話題を他に振る。
「手紙? どうやって?」
「血でシーツに文字を書くって考えたんだけど、さすがにバカバカしくってね」
この『箱庭』の世界の中で傷をつけると、現実社会でも血を流すのでそれを利用して血文字を書くことも考えたが、最初にその文字を発見するのが彼女とも限らないし。しかもシーツって血で文字を書けるんだろうか? 文章を書く前にこっちが出血多量で死にそうだ。
「セドリックさん、どうしたの?」
姫様が師匠が目を丸くして固まっているのを見て声をかけた。その声に師匠が我に返る。そして閉じた扇で自分の額をペシリと叩いた。
「私としたことが失念していました。エドが魔力量の凡庸な赤ん坊で、半人前にもならない積道師でしかないと言う点にしか注目していませんでしたよ」
うぉーい! 今さらっと傷つくこと言われた気がするんですけど。でも確かにだからこそ今俺の夢の中に作った『箱庭』を起点にして使える魔術は、師匠が発動する射程距離半径50センチの『箱庭』と数十メートルの『夢凪』の二つの灰魔術しか使えないはずだ。
「前に私がエドを積道の後継者に選んだ理由を覚えていますか?」
「ああ……情念や年月の経過で溜まっていく『念』を掴むのが上手いって話でしたね」
「ええ、それが一つです。そしてこの世界で積道の使い手、灰魔術師と呼ばれる存在が少ないのがこの『念』の把握を実践水準で行うのが困難だからです。魔術師としての才能は飛びぬけているクレオリアさんであってもこの『念』の把握という概念は説明しても実践できないでしょう」
師匠の言葉に姫様が頷く。
「少なくとも今の話は感覚的に何のことかわからないわね」
「しかしエドは最初に会った時に説明せずとも見よう見まねで『念』を把握して具現化してみせました。その才能がエドを私の後継者に選んだ理由の一つです」
師匠……落としたり上げたり、罪な男だぜ。
「理由の一つ?」
「ああ、そう言えばもう一つあるって言ってましたね。結局聞く機会がありませんでしたけど」
「ええ、それこそが先ほどの解決策になるのです」
「えーと、どうやって盗賊たちにバレずに眠りの香を姫様の手元まで運んでくるか?」
「あと、できればエミリさんが起きる前に盗賊達を眠らせておきたいって話ね」
二人の言葉に師匠が頷く。
「エドのもう一つの才能。それは、エド。あなたの持つ魔力耐性の高さです」
「魔力耐性?」
俺もそれは初耳だった。
「魔力耐性と言うのは、魔力に対する耐性値の高さです」
「つまり、それが高いと相手の魔法がかかり難くなるんですか?」
姫様はすぐに理解できたらしい。師匠が頷いて肯定している。
「その魔力に対する抵抗する力が、エドの場合飛びぬけて高いのです。おそらくその点では私やクレオリアさんもエドには敵わないでしょう」
おお! MOBぽっかった俺の才能にも一条の光が。なんすか? 姫様、その不満そうなツラは。
「つーことは、俺は魔術に対しては無敵ってことですか?」
「いえ、そんな都合良くはいきませんね。黒魔術がどういう魔術であったと言いましたか」
「ええっと、体内の魔力を具現化して放出するのが特徴でしたっけ?」
「そうです。黒魔術は魔力を火や氷などに具現化するのが得意な魔術です。そして具現化された火や氷はこの世界の理に従いますから、いくら魔力耐性が高くとも火達磨になるか氷漬けになるのが関の山ですね。まあ、座標や誘導には魔力を利用していますからそれを打ち消すことで散らすことは技術としてはできますが、クレオリアさんの得意な雷系統の黒魔術のように足の速い魔術を放たれたらそれもできないでしょうね。恐らく散らす前に黒焦げです」
ああ……そうっすか。なんで姫様は勝ち誇ったような顔してんだ。ガックシ。
「とはいえ、精神系の攻撃は事実上効かないでしょうね。白魔術士達が使う『気撃』のような魔力をそのままぶつけるような魔術に対しても、鍛えていけば、無敵と言えるかもしれません」
「あのー? 回復魔術も効かなくなったりするんですか?」
「いえ、白魔法の純化などで効用を高めた薬は魔力耐性は関係ありません。ですから毒殺の危険はありますね。その証拠に今回の誘拐で使われた眠りの香は効いているでしょう? 身体の欠損再生魔術なんかは特訓して受け入れる魔術の選択をすることで可能になります」
あおう、なんかあんまり凄そうな才能ではないな……。
「……で、その俺の魔力耐性の高さがなんなんです?」
「積道では『念』の把握と具現化が大切だといいましたね。しかし『念』を利用すると『穢れ』という副作用があるのです。積道の使い手は、人の恨みや情念。それに月日の経た物体にたまった『念』を利用するのですが、その際に、接触した『念』によって精神汚染されます。その精神汚染に対する抵抗値も魔力耐性に依存しています。また積道にも他系統の魔術のように召喚術というものが存在しますが、その召喚術で呼び出したものを制御するにも、魔力耐性は重要な要素です」
「もしかして、さっき言ってた解決方法っていうのはその召喚術でなにか呼び出そうっていうことですか?」
姫様が師匠の意図を読んで答えた。
「でも、エドってまだ魔術師として駆け出しなんでしょ? そんな凄そうな魔法使えるの?」
「使えません。ただし積道の使い手として突出した才能を持つエドの血液を利用すれば今以上の積道術を使役できるはずです。赤子の血と言うものはそれだけで魔道儀式の有用な素材ですが、エドほど魔力耐性値の高い血であれば尚更です。具体的にはこの『箱庭』の中で私が陣を構築し、それをエドが執行して、現実のエドが血を流すことで効果が発現するはずです。まだ鍛錬していないエドですが、簡単な役神を作り出すにはそれで十分でしょう」
「なるほど、エドの血の力を利用するのね!」
姫様はそう言ったかと思うと、恐ろしいほどのスピードで手が伸び、俺の首根っこを掴んだ。反対の拳をスウィングバックする。
「わー! 何すっだぁ!!」
「血がいるんでしょ! 大丈夫、殴るのは得意だから!」
人を殴るのが得意な姫ってどういうDQNだ!
「姫! 理由になってねぇです!!」
「暴れるな! 私の為に喜んで血の花を咲かせなさい!」
「これこれ。まずはエミリという女性を説得するのが先ですよ。それに血は指先を切ればいいので顔面を殴る必要はありません」
「……チッ。しょうがないわね。じゃあさっさとやりましょ」
師匠の言葉に姫様が悔しそうに俺の首から手を離した。
クレオリア……恐ろしい子!